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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第八章

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殴ってでも連れ戻す2

 暗闇は嫌いじゃない。

 燃料すらなくて暗闇の中にいることも多くて好きにならなきゃやってられなかった側面もあるが全てのものが溶け込んだような闇の中にいると孤独を感じなくてよかったから。


 今は孤独を感じなくなった。

 でも暗闇は嫌いじゃない。


 周りに人がいない時間の方が珍しいなんて状況にすらなっているので暗闇にいるのは1人の時間の時だけみたいなものだ。

 1人の時間ですら明日何しようとかその日にあった楽しいこととか思い出している。


 1人の時間なのに孤独な時間ではないのだ。

 思考を整理して次への期待を膨らませる静かな時間が差し込んでいる月の光のように暗闇の中で広がる。


 ただ今日はそんな妄想に浸っている余裕もない。

 ジはゼレンティガム家にあるルシウスの執務室で息をひそめていた。


 執務室というのは日頃仕事のために多くの時間を過ごす場所である。

 そのために宝物庫や自室ではなく執務室にコレクションや大事なものを置いているという人も少なからずいる。


 視界に映るところに大事にしているものがあれば頑張れるなんてこともあるようだ。

 ルシウスは特に物を収集する癖はないのだけどいくつか酒瓶は置いてある。


 貰い物などの良いお酒で通常のワインセラーなどに入れておくとサラッとサーシャに飲まれてしまったりするので執務室に置いている。

 仕事中一杯やるためではない。


 おそらくこの部屋で1番大事なものは妻であるサーシャ、娘であるウルシュナと共に描かれた肖像画である。

 執務室のドアの裏になるような位置に置いてある肖像画はほとんどルシウスしか見ないような形になっている。


 ゼレンティガムでは盗むようなものは少ないが一般的に盗むようなものがある可能性がある場所なのでジが執務室を見張ることになった。

 

「少し冷えるな……」


 夜になると少しばかり寒い。

 耐えられないほどではないしこれぐらいの気温なら普段はなんてことないのだけど動かないでいると寒さを感じてしまう。

 

 物音を立てるわけにはいかないので体を動かしているわけにもいかない。


「ん?

 まさか……」


 カギの具合を確かめるようにガチャガチャどドアノブが回された。

 不用心な怪しさは感じるかもしれないがカギがかかっているからやめておこうと撤退されては困るのでカギは開けてある。


 犯人の心情としてはカギが開いている不審さよりもカギが開いていた幸運を喜んでいぶかしみはしない。

 ドアの方に目を凝らし、魔力感知を集中させる。


 開いたドアから何かが入ってきた。

 恐ろしくそこだけ魔力が感じられない。


 ソコだとジは確信した。

 魔力を感知するのは難しいが逆に周りと比べてそこだけ魔力が感知できない場所がソコのいる場所である。


 前にソコに魔力を遮断するクロークのことを教えてもらって目の前でどう感じるかを試したことを覚えている。


「フィオストラップ!」


 ここでジは作戦を発動させた。

 ジの声に反応して天井に張り付いていたフィオスが部屋に入ってきたソコの頭に落ちる。


 部屋に入ってまず天井を気にする人なんていない。

 それを逆手にとってフィオスをあらかじめ天井に仕込んでおいて、人が入ってきた瞬間に落ちてもらったのだ。


 ただしフィオスは柔らかくて軽い。

 つまりフィオストラップで与えられるのは大きな驚きだけであり、ダメージなど一切ないのである!


 驚いたのか小さなうめき声をあげて倒れたソコの姿がハッキリと見えるようになった。

 フィオスに驚いて能力が解除されたのである。


「ソコ?」


 やっぱりそうだったと思っても顔を見るとどうしても色々と複雑な感情が巻き起こる。

 突然頭に落ちてきた奇妙な感覚のフィオスを取ろうとしたソコであったがフィオスはニュルルンと動いてソコの体にまとわりついた。


「……ソコ?」


 声が聞こえていないのだろうか。

 何のリアクションもないソコにジが近づいた。


「……助けて」


「そうだよ、俺は助けに来た……」


 何かがおかしい。

 ソコならもっと明るくジに会えたことを喜ぶはず。


 罪悪感や危機的状況にあって別のリアクションを取ったとしてもこんな沈み込んだ風ではない。

 顔を上げたソコの目と視線があった瞬間にジの感じた違和感はより強くなった。


「クッ!

 ソコ……何をするんだ!」


 全く光の宿らない目をしていた。

 夜だからではない。


 月明かり差し込む夜にはその優しい光が目にも見える。

 なのにソコの目は虚で、何も映していないのである。


 動き出したソコに無意識に反応してジは後ろに下がった。

 ソコは懐からナイフを取り出すとジに向かって突き出してきた。


 下がっていなかったらブスリと刺されているところだった。


「ソコ……ソコ!」


「助けて……お願い、助けて」


 その言葉は本心なのか、それとも油断を誘うためのものなのか。

 ナイフを片手に立ち上がるソコはジを見ているようで見ていないような、ぼんやりとした目をしている。


 いくら声をかけてもソコからジに対しての返事はなく、ただ助けてと繰り返している。


「誰が……ソコにこんなことを!」


 魔法による精神支配、あるいは呪いによる洗脳、そうしたものがソコにかけられているとジは察した。

 どの道そのようなことは人にしていいことではなく、まして子供のソコにやるなどあってはならないこと。


 ジの燃え上がるような怒りを感じてソコにまとわりついたフィオスも少し熱を持つ。

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