美しき貴族の姿
ジたちだけでは限界もある。
ここは正直にヘギウスの力を借りることにした。
ヒゲも剃って身なりを整えたイスコを連れてリンデランとヘレンゼールに会ってイスコの話を伝える。
「であるとしてもなぜヘギウス家が狙われたのでしょうか?」
リンデランは首を傾げた。
ヘギウスではイスコとの取り引きはない。
不思議な工芸品も見たことがない。
盗まれたものをリストにしてあるがその中にも当然イスコが言うような工芸品は含まれていなかった。
イスコが告げた販売先にもヘギウスはない。
つまりヘギウスがその盗掘団に狙われる理由はないのである。
「……偽装のためです」
監禁されていた家の壁は薄くて盗掘団の会話が時々聞こえていた。
「ソコが上手く盗めるか信用しきれなかったあいつらは盗みがバレたとしても目的が分からなくなるように鍵を持っているところ以外にも盗みに入らせているんです」
1番最初は単なるテストだった。
鍵とは関係ない警備の緩い貴族を調べてソコに盗みに入らせた。
一応は上手くやったのだけれどそれでもまだ泥棒が見つかる心配があった。
そこで盗掘団も考えた。
盗みに入るのはソコで捕まっても全く構わないのであるが鍵が目的であると誰かに知られるのは嫌だった。
鍵を売った先にだけ盗みに入れば関連性から鍵が目的だとバレてしまうかもしれない。
そのために盗掘団は鍵の売り先ではない貴族にもソコに盗みに入らせ始めたのだ。
「なら巷で今悪い貴族を狙う義賊なんて言われているのはなんでですか?」
偽装が目的なら悪い貴族を狙うばかりである必要はない。
そんなんだからまるでヘギウス家が悪い貴族であるような印象すら受けるのではないか。
急にヘギウスに盗みに入ったのも謎である。
「理由はいくつかあったようです。
大きな理由はソコを騙すためだったみたいです」
「ソコを騙すため?」
「偽装のためとはいえ、関係のない所に盗みに入るのにソコは難色を示しました。
なので相手の貴族が悪人だからと理由を付けてソコを無理矢理納得させていたんです」
ソコは悪人ではない。
仕方なく鍵を盗み出すことはやってもその他の盗みはしたくないと言った。
けれど鍵だけ盗めばバレるので鍵以外も盗ませたり、他の家に盗みに入らせた。
その理由として相手が悪人であるから大丈夫なのだとソコを説得した。
盗みが正当化されるものではないけれど従わなければ殺されてしまうかもしれない以上はソコもそれで自分を納得させるしかなかった。
それに悪い貴族や商人はお金を持っていて盗み出せるような物も家にあることが多い。
善人よりも調べやすいこともあって悪人を狙っていた。
「……けれどあいつら調子に乗り始めたんです」
イスコは唇を噛んだ。
盗みが上手くいって気分良く高笑いする声が監禁されながら聞こえてきていた。
悪人であるというのも盗掘団の主張するところでソコには調べようがない。
回数を重ねる毎にソコも相手が悪人であるのだと手放して信じるようになってきてしまった。
盗掘団はここで一つソコにより大きな仕事をさせる事にした。
その盗みの対象がヘギウスなのであった。
これまで積み重ねてきた義賊としての名声など盗掘団には関係ない。
実際にどうした動きがあってヘギウスだったのかは不明であるのだが何かの要因があって目をつけられたのだ。
調子に乗り始めた頃からイスコは放置され始めた。
目的も本来のところを外れて看過できないところまできていた。
だからイスコは勇気を出して逃げ出した。
「ソコが盗みに入ってしまったことは申し訳ありません……全ての責任は私にあるのです。
どうかあの子を責めないであげてください」
「…………イスコさん」
深々と頭を下げるイスコ。
リンデランは表情を変えずにイスコの様子を見ている。
「はい、どんな罰でもお受けする所存です」
「悪いのは盗掘団です。
イスコさんでもソコさんでもないです」
イスコはリンデランが怒り出すのではないか、最悪の場合首を切られることまで覚悟していた。
しかしジはそんなこと全く心配もしていない。
リンデランは心優しい子である。
そしてちゃんと話を聞いて理解もしている。
盗みに入られたことだけを取り上げて怒るような人も世の中多いけれど今回話を聞いて冷静に判断すればイスコに責任がないことは明らかだ。
ソコに関しては盗みの実行犯なので微妙なところであるけれど事情が事情なだけにリンデランは責任を問うつもりはない。
悪いのは盗掘団だ。
そもそも盗掘と言っている以上鍵の正当な持ち主も盗掘団ですらない。
窃盗団のリーダーに声を荒らげた時もそうであったがイスコを許すリンデランには威厳のようなものもある。
出会った時には単なる貴族の少女だったのに人としての成長を感じさせた。
「盗掘団を捕まえましょう。
ソコさんを助けて、私は盗まれたセッカランマンを取り戻します」
大事なものを盗んだだけでなく卑怯なやり方でソコを利用する盗掘団は許せない。
貴族というものはあまり好きじゃなかったイスコだったが堂々としているリンデランには本来の貴族らしい高貴さというものを感じずにはいられなかった。
 




