したたかさ1
未知のダンジョンに挑む。
危険なことではあるのだけれど男子として憧れるシチュエーションの1つである。
リアーネと相談しながらダンジョンの攻略計画を練った。
グルゼイの方が総合的な経験は豊富なのであるがグルゼイは魔物の討伐よりも魔神崇拝者を追っていたことから対人の経験が多い。
冒険者として活躍していた時期もあるので魔物の経験ももちろんあるのだけどダンジョン攻略経験は実はあまりなかった。
そこでやっぱりリアーネだ。
基本的な拠点はこの町であるのだけど冒険者として始めた時は遠くまで行くこともあった。
夢を求めてダンジョン攻略したり、ダンジョンブレイクを防ぐための魔物討伐に参加したこともある。
だからダンジョンに関してはリアーネに相談するのがジの周りでは1番であった。
さすがに未踏破ダンジョンの初期攻略メンバーになったことはないけれどどう攻略していくかの知識はある。
長い間見つかっておらず放置されていたダンジョンはダンジョンブレイクといって中から魔物が出てくることがある。
そのために一度早急に攻略する必要がある。
しかし今回のダンジョンはパムパムが住んでいたところにいきなり現れた。
発生してから日の浅いダンジョンであることが分かっている。
そのために焦って攻略することはない。
どんなタイプのダンジョンか、内部の構造、出てくる魔物など調査を進めながら攻略するのが安全で確実である。
それにダンジョンの情報をまとめて冒険者ギルドに渡すと高額で引き取ってくれる。
こうしたこともダンジョン初踏破の旨味である。
「それで？
うちの孫をそんな危険なところに連れて行こうと？」
「えっ、いや…………ダメなら別に」
「そうです。
ジ君が守ってくれるので」
なんでこうなったと思わざるを得ない。
ダンジョンを見つけたから攻略するかもしれないことをリンデランにもちゃんと伝えた。
当然ながらリンデランはその許可をもらうためにそれをパージヴェルに伝えた。
それがいけなかった。
朝のゴミ処理の時にリンデランに伝えて次のゴミ処理の日に行ってみるとすごい怖い顔をしたパージヴェルまで待ち受けていた。
そのままゴミ処理を終えたジはヘギウス邸に連行された。
ジを挟んでリンデランとリンディア、そしてジに向かい合ってパージヴェル、パージヴェルの後ろに控えるのはヘレンゼール。
たとえ人生一周したとしてもこんな状況を上手くまとめる手段などありはしない。
今にも襲いかかってきそうな魔力を放ちながら腕を組んでいるパージヴェルはものすごい圧力がある。
リンデランが先にリンディアの方に伝えてくれれば多少は上手く取りなしてくれたのかなと遠い目をして考える。
パージヴェルがこうなるのも当然だと思う。
中の分からない未踏破のダンジョンなんて危険極まりない。
そこにリンデランを連れて行くなど言語道断なことである。
ジだって最初からリンデランを連れて行くつもりはなかった。
とりあえず偵察を何回かしてダンジョンのことをある程度把握してから同行してもらうつもりだった。
「そんなことを言ったってダンジョンの中では何があるかなどわからないではないか！
ジであっても守れないことがある」
「ジ君なら大丈夫です！
私だって強くなりました！」
「単純な強さだけでは外の世界では生きていけないのだぞ！」
「でもおじい様は単純な強さで生きてきたじゃないですか！」
「ぬぅっ！」
反抗することなど知らなかった可愛い孫の一撃にパージヴェルは簡単に返す言葉を失う。
心にグサリとしたものを感じながらパージヴェルはまぶたの裏に可愛かったあの頃のリンデランの姿を思い浮かべる。
いや、今も可愛いことには違いないとすぐに思うのだけども。
「リンディア……お前さんこそなぜそちらにいる！」
「そりゃあ私だってリンデランに危険なことはしてほしくないですよ」
「おばあ様！」
「でもね、時として人は危険なことと分かっていてもやらなきゃいけない時があるのよ。
それにこの子は賢い、強いのよ。
あなたが押さえつけようとするほどにきっと反発してしまう。
知らないところでやられるより知っている方がいいとは思いません？」
「うぅ？
まあ、そうかもしれないが……」
流石にダンジョンまで勝手についてくることなんてないだろう。
そうジは思うのだけど完全にないとも言いきれなさそうな気もしないでもない。
それにいつの間にか最初からリンデランも来ることになっている話になっているような気がする。
「だがやはりダメだ！
危険が大きすぎる」
頑なに反対するパージヴェル。
この場合において正しいのはパージヴェルの方だとジも思う。
「ならこうするのはどうでしょう？」
まるで今良い考えが思い浮かんだかのように手を合わせるリンディアはニコリと笑顔を浮かべた。
「ジさんも最初は丁寧に調査をするでしょう。
それが済んでから同行するということにしたらどうですか？
リスクは大きく抑えられるでしょう？」
それはジが最初から考えていたやり方だった。
「うぅむ……それなら……」
ここに至ってはジも理解した。
結局リンディアの手のひらの上で転がされている。
実はリンデランは先にリンディアに相談をしていたのである。
