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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第八章

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あいつ兵士辞めるってよ3

 だがしかしジだってやられるばかりでもない。

 多少の無理がきくということでジもいつもはやらないような攻め方をしてみたりした。


 結果的に通じないのだけどグルゼイもヒヤリとするような一撃があったのはジ本人は知らない。

 全く勝てないのだけどグルゼイと手合わせすることは面白いとジは感じている。


 まだまだ勝てるようなイメージは湧かないがグルゼイの剣を一回でも多くかわし、一回でも多く反撃出来てくると確実な進歩を感じられる。

 それにグルゼイの面白いところはジと手合わせする時に別の剣術も使って経験を積ませてくれるところである。


 基本的にグルゼイの剣術は素早く鋭い。

 さらには柔軟に変化を加えてとても相手にしにくい。


 しかし手合わせの時にはいつもとは違った剣術を見せることがある。

 時として重たく打ち付けるような剣だったり、時としてさらに素早さを重視した剣だったりもする。

 

 戦闘におけるセンスに優れているグルゼイは過去に戦ったことがある人の再現をしてジに経験を積ませているのだ。

 手合わせであっても明らかに手を抜くことは少ないだけどそれでも命を取られない安全な戦いで色んな戦いを経験できるのは楽しかった。


「踏み込みが甘いぞ!」


「ぶえっ!」


 額にグルゼイの木剣がクリーンヒットして尻もちをついてしまう。


「いっ……!」


 容赦のない打ち込みに額を押さえて涙目になるジ。


「まだまだだな、弟子よ」


「うぅ……いつか一撃入れてみますからね」


「そうなったら俺は引退だな。


 楽しみにしているぞ」


 ジの強がりでもない真面目な目にグルゼイはニヤリと笑う。

 なんだかんだと楽しんでいるのはグルゼイも同じだった。


 愛弟子の成長が嬉しくないはずがない。

 妻帯するつもりもないから今後も子が出来ることもないけれど子供がいたらこのような感じなのかもしれないと密かに思っていた。


「今日はここまでにしておこう。


 エ、情けない弟子を治してやってくれるか?」


「もちろんです」


「チェッ……」


「ほーら、じっとして!」


 エがジの額に手をかざす。

 ボワっと青白い光がエの手を包み込み、温かな魔力を感じる。


 あっという間に痛みが引いていって赤くなっていたところが治っていく。


「すごいもんだな」


 額をさする。

 もうどこが痛かったのかも分からない。


「そんなことないよ」


「そんなことあるって」


 ジでは出来ないことをエには出来る。

 十分凄いことである。


「すごいのは……ジの方だよ。


 目標に向かって努力して、諦めないで頑張ってさ……」


「いきなりどうしたんだよ?」


 エはジの隣に座って空を眺める。


「んー、ちょっと羨ましいなって思ったんだ」


「羨ましい?」


「あの日……魔獣契約した日から色々変わったと思うんだ。


 色んなことがあってジはすごくなった。


 自分のお店持って強くなって……でもまだ努力してて」


 ジは空を見上げるエの横顔を見る。

 エにはエの悩みがある。


 ここは冗談で誤魔化さずしっかり聞いてあげよう。


「私さ、なんていうかやりたいことがわかんなくなっちゃって」


 過去におけるジは良くも悪くもエの支えともなっていた。

 何者も拒絶して1人殻に閉じこもるようになったジのことをエは支えようとしてくれていた。


 同時に内紛などが長引いて例え子供部隊であっても予断が許さない状況は続いていた。

 そうしたことがあって改めて自分の将来を考えるという時間も余裕もエにはなかった。


 けれどエは大切な仲間や友達は守りたくてもお国を守るだなんて強い使命感はない。

 積極的に戦場で戦いたいなんてとても思わないし誰かが傷つくことに心を痛めることもある。


 平和な時はこれからも兵士としている自分を考えるキッカケとなった。

 自分が何をしたいのか、どうありたいのか考えて、エはどうしたらいいのか分からなくなっていた。


「だから、羨ましい。


 ジは自分のやりたいことがあってそれを目標に頑張れてるから」


「……だから兵士辞めようとしてるのか?」


「えっ、どうしてそれを?」


「たまたま小耳に挟んだのさ」


「……そうなんだ。


 このまま中途半端な気持ちで続けても迷惑かけちゃうかなって。


 お金のため……とか思ったけどこれまでだってお金なくても生きてこれたしね」


「それで色々悩んでるのか」


「うん……でもやっぱり辞めたりするのも迷惑だよね。


 それに辞めたら家に戻ってくることになっちゃうし……そしたらジの迷惑にも」


「いいんじゃないか?」


「えっ?」


「辞めても、いいんじゃないかな」


 エが見たジは優しく笑っていた。


「帰ってこいよ。


 エの部屋はそのままにしてあるから」


 元々兵士になるなどエに合っていないことは分かっていた。

 ただ安定的だし色々なものを学べる。


 もしエがそこに意味を見出してそのままお国に仕えるというのならそれでもジは構わなかった。

 けれどもしもエに迷いがあって、兵士を辞めたいというのならそれはそれでいいとジは思う。


 エには帰ってくる場所がある。


「ジ……」


 エの目が潤む。


「笑って過ごせる場所が1番いいんだ。


 それが兵士でないのなら辞めてもいいよ」


 過去でもエは兵士を辞めたのだからそれがちょっとだけ早まったにすぎない。

 その場所でどうあるべきか悩むのではなく辞めるかどうか悩むのなら辞めてたっていいんじゃないか。

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