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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第七章

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攫う相手を間違えたな1

「うぅ……」


「目が覚めましたか?」


 どうするか迷ったけれど見つけられた全ての骨はフィオスに食べてもらった。

 これだけ長いこと放置されていたのだから心配はないと思うのだけど骨を残しておくとスケルトンになる可能性があるからだ。


 魔物になるのは誰だって本望ではない。

 ジが船から出てくるとちょうどオゾが目を覚ましたところであった。


 オゾはひどく頭が痛んで指でこめかみを押している。

 割れそうなほどに頭が痛くて気持ちが悪く、全身がとてもだるかった。


「君は……どうして」


「俺の魔獣のおかげですよ」


「そう……なのか」


 フィオスがどうして腹の中にあんなものがあって、それを取り除けばいいと気がついたのかは知らない。

 ただ人には感じられない不穏な気配を察知してフィオスなりに何かを思ったのかもしれない。


 仮にフィオス無しで助けられるか考えてみた。

 腹を切り開いてあの石を取り出して治す。


 そもそも腹を切り開かれた時点でオゾは死んでしまうだろう。

 ほんの一瞬過去で友達だった奇特な医者の顔が浮かんだが普通の人にはまず不可能なことである。


 やはりフィオスだから助けられたと言わざるを得ない。


「何があったのか覚えていますか?」


「君に話したのと大差ない。


 あとはこうなる時のことぐらいだろうか」


「こうなる時?」


「君のスライムに包まれて……口の中に入ってきた。


 すると腹の中で何かを引っ張るんだ。

 臓器の中にくっついた何かを無理矢理ぶちぶちと剥がすような感覚があって、激痛が走ったよ。


 頭の中でやめろと声がしていた。


 でも引っ張り取られたその直後に頭の声は聞こえなくなり、全身に走っていた妙な感覚が消えていった。


 不思議と腹の痛さも無くなったな」


 黒い石はオゾの体内で魔石だけでなくオゾの体にもくっついていた。

 それをフィオスが包み込んで無理矢理引き剥がした。


 なんとも力技である。

 さらに引き剥がすことでダメージを受けたオゾの体にフィオス特製回復薬を出すことでフォローしてみせた。


 うちの子天才とジは誇らしい気持ちとフィオスがそのような処置をしてみたことに対して驚きの気持ちとがあった。

 ジはチラッとフィオスに視線を向けた。


 いつもと変わりないブルーのプルルンボディを揺らして腕に収まる可愛い奴。

 けれどやっぱりフィオスはすごい天才スライムなのかもしれない。


「なんで嬉しそうな顔をしているんだ?」


「あ、いや、ちょっと」


 親バカが顔に出てしまった。


「特に問題はなさそうでよかったです」


「死にそうなコンディションではあるがな」


 まだオゾが動けなさそうなのでジは今の状況を説明する。

 他に未だに囚われている人がいることや助けがくる可能性があることなどをざっくりと話した。


 しかし助けが来るまではどうにか耐え忍ばねばならない。


「それと謝らなきゃいけないことがあります」


「なんだ……今ならほとんどのことを許しても良い気分だ」


「魔石……破壊してしまいました」


「魔石を破壊しただと?」


「はい、あっちに」


 ジは魔石のある方を指差して、オゾは首だけ倒してその方を見た。

 黒い石にまとわりつかれて黒くくすんだ魔石はジによって真っ二つになっていた。


 ウネウネと動く黒い石をどうしたらいいのかわからなくて魔石ごと切り裂いてしまった。

 黒い石は動かなくなったのだけどその代償は魔石であった。


 魔石が破壊されてしまった。

 そのことはつまり魔獣が倒されたのと同じであった。


 ジで言えばフィオスを失うのと同じことなのである。


「そんな顔をするな。


 怒っていない。

 恨みにも思っていない。


 むしろ感謝している」


 一転して泣きそうな顔になったジにオゾは微笑みかける。


「感謝されるようなことなんて……」


「もう俺の魔獣はダメだった」


 オゾはジから視線を外して天井の空いた穴から差し込む光を見つめる。


「あの黒い石のせいかもしれないが俺の魔獣はもはや俺の知っているものではなくなっていた。


 あいつも解放されて感謝していると思うぞ」


 これは魔物にされたオゾにしか分からないことだった。

 黒い石に取り憑かれた時のことは言葉にして説明できないようなものだった。


 だけど全てが異常に染まっていき、オゾの魔獣もそうしたものに苦しんでいた。

 染まりきらなかったオゾと違って魔獣の方は完全に落ちてしまっていた。


 仮にジが魔石を破壊しなかったとしても魔獣を取り戻すことはできなかっただろう。


「だから感謝こそすれ、君にその責任を問うことなどしないよ」


 相棒であった魔獣を助けてくれた。

 魔物になってしまった自分を殺してほしいと懇願したオゾは苦しみ続けるようならば死ぬ方がいいと考えたので魔獣も助けてもらった方がきっと良かったのだと思った。


 魔獣を失うことはこの先一生魔力を失ったことと同義。

 だけど魔力を失ったからといって死ぬこともない。


 魔力を使う職業ならともかく漁師なら魔力がなくても生きていける。

 そんな風に考えられるオゾはすごいと思った。


 過去ならともかく今はフィオスを失ったら生きてなどいけない。

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