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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第七章

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暗き洞窟の実験場3

「あれ、俺たちを襲った魔物じゃないですか?」


「よく見ると気持ち悪い形してるよな」


 船を襲撃してきた奇妙な魔物も液体漬けにされていた。


「こっちは……なんだかより人に近く見えますね」


 ウィリアが顔をしかめる。

 船を襲った魔物はまだ魚が強いが液体漬けにされている魔物の中にはほとんど人のような姿をしている魔物までいた。


 マーマンは魚に手足が生えたような感じで、船を襲った魔物はさらにそこから人の形に近くなった感じ、そしてこの魔物は人に魚のウロコやヒレなどが生えたような感じがある。

 前の2つは魚をベースにしたような造形だったのにこちらは人をベースにしたかのような印象を受ける。


 どうにも嫌悪感を感じてしょうがない。

 

「誰か来る!


 隠れるんだ!」


 何かが来る気配をジが感じ取った。

 みんなで実験場に繋がっている通路の1つに隠れる。


 明かりもない暗い通路に身を隠して実験場の様子を伺う。


「なんと言うことだ……あのバカ魔物どもが」


 しわがれた年寄りのような声が聞こえてきた。


「異端審問官がいるなら誘拐などせずに帰って来ればよいものを……もしくは全滅させねば。


 アイツらのしつこさといったらとても面倒なのに……」


「仕方ないなだろう、ニグモ。


 アイツらに物を考える頭はないのだからな」


 少しだけだ顔を出して見てみると3人の人がいた。

 2人は黒いローブを着ていて顔も分からないが1人は顔が出ている。

 

 ひどく腰が曲がっていて杖をつき、顔の半分が火傷で爛れたような顔をしている男のことをローブの男がニグモと呼んだ。


「ニグモ……」


「なんだか聞き覚えがありますね?」


 ジとユディットは顔を見合わせた。

 2人ともニグモもいう名前に聞き覚えがあるのだけどどこで聞いたのか思い出せない。


「この国で起きた子供の誘拐事件。


 ビッケルン領地に子供たちが誘拐されたのですがその時にビッケルン子爵は姿をくらましました。


 その時に同時に姿を消したのが……」


「ニグモ・モンバルディ……」


「知っていたんですか?」


 ウィリアの話を聞いて思い出した。

 以前町の近くの教会で出会ったリッチのウダラックをリッチにした張本人の名前がニグモ・モンバルディであった。

 

 ウダラックの話ではニグモはビッケルンに雇われていた医者で健康管理を主な仕事にしつつビッケルンの支援を受けて研究も行っている変わり者だったらしい。

 その研究とやらがまさか人をリッチにすることなど誰も思わなかったのだが。


「たまたま耳にしたことがあるだけです」


「そうなんですか。


 ニグモは魔神崇拝者らしくて押さえられた研究施設には禁じられた黒魔術の痕跡があったそうです。


 私も資料を読んだだけなので現場は知りませんが」


 最悪だ。

 そうジは思った。


 なんの施設なのか疑問であったがここは魔神崇拝者が危ない研究を行う実験場であったのだ。

 きっと黒いローブの2人も魔人崇拝者である。


 見つかったらどうなるのか分かったものではない。


「まさかこうも早く異端審問官が動き出してここまで来るとはな。


 バカが王城での襲撃に失敗したせいでなぜこっちが被害を受けねばならない。


 聖杯を盗み出すのにも失敗したのだろう?

 使えん奴ばかりだ」


「聖杯を守るのにあんな化け物を配置しているなんて知らなかったのだ。


 上級を何人も送り込んだ。

 使えない奴らではなかった」


「失敗したら使えん奴らだ」


 ニグモは怒りの表現を浮かべて黒いローブの男を睨みつける。


「せっかくここもいい感じになってきたというのに。


 いい加減そちらで研究させてはくれんかね?」


「実験の成果を試すのにわざわざよそにおもむくのは面倒でしょう?」


「探されたり、見つかるたびに場所を移す方が面倒に決まっているだろう!


 こんな薄暗くてジメジメしたところで研究させられるこっちの身にもなってみろ!」


 癇癪を起こしたように杖を投げ捨てるニグモの声は洞窟によく響く。

 日頃から不満が溜まっているのか次々と文句が口から飛び出してくるが黒いローブの男は身じろぎもしない。


「落ち着いてください。


 そう怒ってはお体に悪いですよ」


「ハァッ……ハァッ……うるさい!


 いざとなればワシもリッチになってやるから構わんのだ!」


「ひとまずこの研究を進めてください。


 良い成果が出たあかつきにはあなたの望みが叶うよう上に掛け合ってみます」


「良い成果を出したいなら良い場所を用意しろといっておるのに、貴様らといったら……」


「……あまりご不満ばかり言われますとこちらも強硬な手段を取るしかなくなりますよ」


「……チッ!


 しかし覚えておけ!


 ここまで異端審問官が迫っておるのはそっちの失態のせいなのだからな!」


「それは存じております。


 申し訳ございません」


「くだらない魚の干物なんか盗んでいないでもっと有益なことをしろ!」


「アレも立派な作戦なのです」


「結局あれでも異端審問官に目をつけられているではないかぁ!」


「そのために今ビッケルンを別の場所に向かわせております。


 そちらで暴れれば異端審問官もそちらに向かうでしょう」


「ふん……少しは考えとるのかな?


 貴様も使えん奴だ」


 散々怒鳴り散らして肩で息をしているニグモは杖を拾い上げて近くにあったイスに座る。

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