君は希望、そして絶望3
「ここはこう」
ミュコはジが失敗したところをゆっくりと実演してくれる。
「こ、こう?」
「そう。
……なかなか筋がいいね」
剣も習ったことがないジ。
遊びで棒を振り回したことがあるけどそれぐらいの経験しかない。
だからこそそれがよかった。
何の経験も何の教えもないジは素直にミュコのマネをした。
自分の持つ剣の持ち方もないジは変な癖も戦う剣のやり方に固執することもなく不器用ながらも剣舞のやり方を柔軟に受け入れられた。
剣舞は戦う剣の技術とは違う。
変な癖がない分逆にジは剣舞向けであった。
体格は貧弱で小柄だけど手足は割と長いので剣舞を踊っても意外と映える。
「難しいはずの剣舞だけど凄いじゃない!」
きっとあまりにもミュコの剣舞が綺麗だったから。
一度見ただけでも脳裏に焼き付いて離れないような鋭いトゲを残していったからジはミュコのマネをして不格好ながら一曲踊ってみせた。
時々転んだり、ミュコに教えてもらいながらだけど汗だくになりながらジは踊り切った。
これまでに得たこともないような充実感。
「どうだった?」
「……楽しかったです」
「ふふふっ、ならよかった。
本当は他の人に教えちゃダメなんだよ。
だから2人だけの……秘密」
人差し指を口に当ててウィンクしてみせるミュコ。
その姿は回帰した後でもジの記憶に強く残っているほどに印象的だった。
それからも昼間は雑用をこなし、夜は見張りをすることを命じられる。
そんなことをしなくてもいいのにミュコは夜にテントを抜け出してジに会いに行った。
年が近い友達が出来て嬉しかった。
それにジが剣舞を心から楽しんでいて教えるとみるみる上手くなっていく。
本当は勝手に教えちゃいけない剣舞だけどつい教えてしまった。
「私ね、お母さんが剣舞を踊っていたの」
今日も一曲踊って、地面に並んで座って少し会話をする。
ミュコは膝を抱えるように座って汗を拭くジをニコニコと見ている。
これまではミュコとジがお互いに色んな人に会った話をしてきた。
そうしていたらふとミュコが自分のことを話し始めた。
テレンシア歌劇団は元々ミュコの父親のニージャッドとミュコの母親が2人で旅芸人をしていことが始まりである。
ニージャッドが音楽を演奏してミュコの母親が剣舞を踊っていたのだ。
そこから何人かが集まって小さい劇団として活動していた。
そんな中でミュコは生まれて旅を続けていたのだけど悲劇が起こる。
ミュコを産んでからミュコの母親は体調を崩しがちになっていた。
たまたま行った国で流行り病が広がっていてその病にミュコの母親が感染してしまったのだ。
体調を崩した時と運悪く重なってしまい流行り病の症状が重たく出てしまった。
「……それで結局お母さんは助からなかったんだ」
今でも目を閉じると母親の顔を思い出す。
キツかっただろうにミュコには辛い顔を1つも見せずに最後まで笑顔で優しい声で話しかけてくれた。
息を引き取った時も眠るようでまた目を覚ますのではないかとミュコは泣きながら母親の側を離れなかった。
「私が踊っているのはお母さんから教えてもらった剣舞なんだ」
物心つく前から母親の剣舞を見て育ったミュコ。
母親のようになるのだと剣舞を必死に練習した。
一部で熱狂的なファンがあった母親のように剣舞で人を楽しませて魅了する。
自分が剣舞を踊ることでそこに母親の生きた痕跡を残そうとしたのである。
「でも今の剣舞が全部じゃないんだ。
お母さんが得意としていた剣舞はもっと綺麗で……人の心を掴んで離さない」
ミュコが普段から踊っている剣舞は母親が最も得意としていた剣舞ではなかった。
母親が得意としていたのはシュレイムドールを守るという剣舞であった。
しかしミュコがその剣舞を習う前に母親は亡くなってしまった。
ニージャッドは演奏する人であって剣舞を踊れない。
ただどうしてもシュレイムドールを守るは母親の代表曲であり踊りたかった。
なのでミュコは幼い頃の記憶と父親の記憶を頼りにシュレイムドールを守るを復活させようとしていた。
シュレイムドールを守るの再現は困難を極めた。
記憶の中にしかないばかりかシュレイムドールを守るの難易度が非常に高かったからだ。
旅をしながら他の剣舞などを研究してミュコは少しずつ剣舞を再現していっていた。
ジとあった時、シュレイムドールを守るはほとんど完成に近づいていた。
「あとちょっと……もう記憶もおぼろげだけど私がお母さんの剣舞を再現させてみせるんだ」
そう言ってミュコは立ち上がった。
この国に来たのも仕事の依頼があったからだけでなくこの国に非常に舞の上手い人が逃げてきたことがあったと聞いて探しに来たことも理由の一つであった。
ミュコが剣を手に動き出す。
大きな月がミュコを見守る中、月を冠するシュレイムドールの名を持つ剣舞を踊り出す。
時間が止まったようだった。
いつもの剣舞もすごいと思っていたのにそれを上回っている。
息をすることも忘れてミュコの剣舞に見入った。
ただただミュコは舞い、後ろに見える月すらその存在が霞むようだった。




