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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第六章

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過去の君が教えてくれたのさ3

「私に出来るのはこれぐらい……だから完璧にしておきたいの。


 本当はもっといいのがあるんだけどまだ未完成だから」


 そう言ってミュコはまた舞い始める。

 けれどそれはさっきまでの剣舞と違っている。


 より伸びやかで美しい。

 動きは激しさを増しているのにどこか緩かで落ち着いた雰囲気すら見える。


「あっ……」


 思わずジはミュコに駆け寄った。

 足がもつれてバランスを崩して倒れるミュコを抱きかかえるように支える。


「あ、ありがと……」


 男の子って思っていたよりがっちりしている。


「あそこはそう足を出しちゃダメだ」


 ジはミュコが倒れると分かっていた。


「どういうこと?」


「あそこはああやって大きく踏み出すとその時は安定するけど次に繋がらない。


 もっと小さく踏み出して上半身の動きでバランスを保つんだ。


 そうすれば次の動きに繋げられるはず」


「上半身の動きで……」


 何かをミュコが掴んだ。

 パッとジから離れると再びミュコは剣舞を踊り出す。


 初めから動きを辿っていき、先ほど足がもつれたところまでくる。

 大きな動きの連続なので足を踏み出してしっかりと体を支えて先ほどは踊った。


 けれどそうすると次の大きな動きにすぐに移ることが出来ずに結局バランスを保てなくなるのだ。

 だから大きく足は踏み出してはいけない。


 大きな動きに逆らわず流れに任せて動き続けることでバランスを保つのである。


「あっ!」


「おっと」


 ただしそこを乗り越えても次々と難所は訪れる。

 ミュコが目指すものの完成は遥か高みにある。


 次の動きはジの記憶するものと違っている。

 まだまだ完成には程遠い。


「大丈夫……」


 またしても抱きかかえるような体勢になる。

 あまり無理をしてケガでもしたらいけないのでここらで切り上げさせようと思っていたら襟を掴まれてグッと引き寄せられた。


 ミュコの吐息が掛かるほど顔が近くなる。


「ミュコ……?」


 しかしその目はジを睨みつけるように見ていた。


「どうして」


「何がだ?」


「どうして私の舞の事知ってるの」


「それは……」


  あまりに真剣な顔をして練習するから。

 無理をすればケガをすることが分かっているのにそれでもどうにか踊り切れないかとやろうとするから、ついつい口を出してしまった。


 言い淀むジ。

 言葉に詰まれば詰まるほど怪しいけど上手い言い訳も思いつかなくて頭をフル回転させる。


 なんでかって?

 そりゃあ過去のミュコが教えてくれたからだ。


 歌も歌えず剣も振れないジであるけれどあの剣舞だけは踊れた。

 暇さえあれば練習してようやく踊れるようになった剣舞だけは回帰しても忘れない。


 でも回帰して知ってますなんて言えないだろ。


「……俺に君たちのことを教えてくれた人がいるんだ」


 こんな時ばかりは自分が貧民であることを利用する。


「その人が何?」


「その人が俺に剣舞を教えてくれたんだ」


 貧民街には色んな人が色んな事情で訪れる。

 けれどそんな人たちの集まりだから誰も互いの事情も素性も尋ねはしない。


 隣に住んでいて呼び名と顔は知っていてもそれ以上知らないなんてザラにある話なのである。

 そう、だから名前も何も知らないでっち上げの登場人物が出てきても誰も検証のしようもないのだ。


「その人は自分も剣舞を踊れたらしくて俺にも教えてくれたんだ……


 自分で途絶えさせるのが惜しいって言ってね。


 南の方から来た人らしくてたまたま君たち歌劇団の剣舞について話していたから今回呼んでみたんだよ」


「その剣舞が私の剣舞とどう関係があるのよ?」


「それは俺にも分からないさ。


 でも俺の知ってる剣舞とミュコの剣舞はよく似てる」


「…………じゃあ踊ってみてよ」


「え……」


「剣舞を見せてよ!」


「お、俺は」


「踊れないなんて言わないでね?


 ウルシュナが言ってた、あなたも剣舞が踊れるって」


 あちゃーと思った。

 ジはかつてウォーミングアップがてらにウルシュナの前で剣舞を軽く踊ったことがあった。


 つい先ほどまで行われていた顔合わせの食事会の中でウルシュナはミュコが剣舞を踊ると聞いてジも踊れるんだぜと話をしてしまっていたのである。

 踊ることまで出来ないと言い訳をつけてそのまま誤魔化すつもりだったのに出来なくなってしまった。


「……いや、この際良いのかもしれないな」


「何がよ?」


 ジは過去においてミュコに救われた。

 ミュコがどう思っていたのかは知らないけれどジはミュコに感謝していたのだ。


 大切な剣舞まで教えてくれて、ミュコに出会わなかったらジは若い時にもうその人生の幕を閉じていたかもしれない。

 だからこれはお礼なのだ。


 過去のミュコに教えてもらった剣舞を現在のミュコに教える。

 過去では助けもなくミュコは剣舞を完成させていた。


 ここで教えることが良いことなのか、悪いことなのかジには分からない。

 ミュコは最後に言っていた。


 もし何かの理由でこの剣舞の伝承が途切れそうになるぐらいなら誰かに伝授してほしいと。

 過去のミュコから現在のミュコへ。


 剣舞を伝えよう。


「フィオス」


 ジはフィオスを呼び出して剣の形になってもらう。

 夕暮れ、どんどんと日が落ちていく中でジは剣舞を舞い踊った。


 ミュコは自分が目指していたものの完成形を目の当たりにして、その美しさに目を奪われた。

 なぜジがこの剣舞をとか細かい疑問は全て剣舞に飲み込まれて消えていった。


 地平線に日が落ちきるのとジが舞い終えるのはほとんど同時であった。

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