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騎士の誓い4

「もう少し情報をくれませんか? このままでは判断がつきません」


「分かりました。俺は衝撃を吸収する新しい素材について知っています。

 それを使って馬車の揺れを少なくするつもりです」


「それは本当の話ですか?」


 衝撃を吸収する新素材。それが本当ならすごい話である。

 利用法は何も馬車だけにとどまらない。


 ただ硬いだけの素材よりも使えそうなところがある。

 ウェルデンの頭の中を考えが駆け巡る。


 確証もないうちにお金を渡すなんて愚の骨頂。

 しかし断るにも惜しい話。


 調べてからでも遅くはないと思うのだがこれほどの行動力を持つ子供だ。

 他に声をかけていないとも限らないし、慎重に調べている間に盗られる可能性もある。


「コホン、こちらとしてもいきなりすぎてすぐには判断できません。

 そちらがよろしければもう少し考える時間が欲しいのですが構いませんか?」


 迷ったが飛びつくのは早計だ。

 逃しても得がなかっただけで損はする話ではないから。


 ジとしても焦る話ではない。

 ならば考える時間を、調べる時間を与えた方が賢明だ。


「いいですよ。

 その間に俺は準備しておきますので」


 そう言ってジは立ち上がる。


「それじゃあ連絡待ってます。

 俺は貧民街にいますので」


 後にウェルデンはジのことを調べて後悔する。

 特許契約は本当だが内容は非公開だし、フェッツやマクサロスがいたくジのことを気に入っているのを知ってしまった。


 ろくに用心もしないでジのことを調べてしまった。

 2人にはウェルデンがジを調べていることがバレてしまっていることだろう。


 お金のにおいには敏感な2人にバレてしまったことでウェルデンは非常に焦ることになった。


「これでどうなることやら」


 商会を出てジは大きく息を吐き出した。

 とても緊張していたので紅茶の味も分からなかった。


 少し傲慢な態度に見えてしまったかもしれない。

 良かったのかどうか判断が出来なくて不安な気持ちでいっぱいだった。


 パージヴェルの家が未来で没落したのは何もパージヴェルとリンデランが亡くなったことだけが原因ではない。

 もちろん2人の死は大きな影響を与えたのだろうがヘギウス商会は魔獣の素材を使った新たな商品の開発戦争に負けて最終的に完全に落ち目になった。


 未来では色々なものが開発されて新たな商品が生み出された。

 中でも揺れず壊れにくい馬車は貴族から人気に火がつき、平民にも広がりを見せた。


 とある商団が技術を独占して作っていて特許契約魔法で保護していないにも関わらず他の誰も作り方が分からなかった。

 平民まで商品が広がり、世間の声が大きくなるにつれてその声に押されるように秘密を明かした。


 がその時にはもう真似することも難しくなっていた。

 そうなったから公開したのだろう。


 今はまだ誰もこの技術は知らない。

 ジだけ、あるいはフェッツとマクサロスも知っているといえば知っている。


 まだ日は高いのでジは早速準備を始めることにした。

 まずは、核心部分から。


 貧民街まで戻り、おぼろげな記憶を頼りに人を探した。

 記憶にあるのは3人。


 どうしても欲しい人材が1人いた。

 交渉の腕慣らしではないが優先順位が低めの人が2人すぐに見つかったので話をするとあっさりとオーケーが出た。


 問題は残りの1人。どうしても欲しい人材となった。


 ユディットは純粋な貧民ではない。

 純粋な貧民とはなんだと聞かれるとなかなか答えに困るのだが、ジよりもいくらか年上のこの青年は物心もつかない頃から貧民街にいるのではない。


 細かな他人の事情に突っ込まないことが人と上手くやるための秘訣なのでジもよく知りはしない。

 けれどユディットは何かしらの事情があって貧民街にやってきたのだ。


 ユディットには家族がいた。

 たった1人の弟。


 まだ幼く明るく活発な少年でユディットはこの弟に対してひどく過保護な一面を持っていた。


「帰ってくれ」


 開口一番、ユディットは訪ねてきたジに対してこう言い放った。

 普段はこんなつっけんどんした態度の青年ではないのだけれど今は事情が事情なだけにしょうがない。

 優しい態度をとる余裕がないのである。


 原因はジにも分かっている。


「弟の調子、悪いんだろ?」


 ドアを閉めようとしたユディットの動きが止まる。


「……なぜ、それを?」


 再びドアがゆっくりと開く。

 ユディットの目が怖い。


 ユディットとジは知り合いでもなんでもない。

 ユディットの弟が属する子供コミュニティとジが属する子供コミュニティは別なのでユディットの弟とも面識がない。


 どこかですれ違うぐらいはあるかもしれないけど。


 そんな関係性の薄いやつがなぜユディットの弟のことを知っているのか。

 誰かに触れて回ったこともなく知っている人は限定的なのに。


 今にも襲いかかってきそうなぐらいの雰囲気のユディットであるがジもここで引くつもりはない。


「弟は病気、だろ?


 このままじゃ死んでしまうぞ」


「なんだと!」


 ユディットがたまらずジの胸ぐらを掴む。


「お前、知ったような口を聞きやがって、弟の病気がなんなのかも知らないくせに……」


「知ってる」


「偉そうに……えっ?」


「俺はこの病気が何で、どうやって治すのか、それを知ってる」

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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