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騎士の誓い3

「兄さんこそお元気そうで。


 こちらが兄さんの話にあったジ君かな?


 私はウェルデン。こちらのパージヴェルの弟でヘギウス商会の会長を務めさせていただいています。


 よろしくお願いします」


 ウェルデンは右手を差し出してジに握手を求めた。


 良くて平民、普通に見たって貧民の子供なのに態度にもジを見る目にも相手を見下すようなところが全くない。

 リンデランの恩人だからか、パージヴェルの紹介だからか、それとも生まれ持っての気質なのか。


 貧民、しかも子供と握手まで交わして対等に接してくれようとする人はそうはいない。

 驚きながらもジはすぐさまウェルデンに応じて握手をして席に着いた。


 席に着くと最初に部屋に招き入れてくれた女性が紅茶と陶器の器をテーブルに置いた。

 どうやら秘書のようである。


 パージヴェルは真っ先に陶器の器に手を伸ばす。

 蓋を開けると中には白い粉。砂糖である。


 パージヴェルは小さなティースプーンたっぷり3杯を紅茶に溶かし込む。

 ジの視線に気がついたパージヴェルは老い先短いんだから良いだろうと気まずそうに答えた。


 ジもスプーンに山盛り1杯の砂糖を入れる。

 これでも贅沢だと思うし3杯も入れると甘すぎる。


 ウェルデンは何も入れずに紅茶に口をつけている。


「では話を聞きましょうか」


 3人がそれぞれ口を潤したところでウェルデンが話を切り出した。


「兄さんの話によると何か事業のアイディアがあるとか」


「はい、すでにお聞きかもしれませんが俺が考えてるのは『揺れが少ない馬車』です」


 馬車は消耗品である。


 完全に平らに整地されている道は少なく平らに見えてもデコボコしていたり石が転がっていたり雨でぬかるんでいたりもする。

 普通の道は言うまでもなく馬車は地面からの衝撃を受けてそれをそのまま受けてパーツはあっという間に劣化していきダメになる。


 そして中の人にも当然のことながら衝撃はある。


 大きな資産を持つ貴族ならば自分専用の馬車を作り、中の座席にクッションを敷くなどしている人もいる。

 クッションだって安いものではないしクッションで衝撃が和らいでも揺れることに変わりはない。


 結局馬車の寿命は変わらないし根本的解決にはならない。


 ジは構造から揺れの少ない馬車を作ろうとしている。

 揺れが減れば中も快適、パーツの劣化も遅くなる。


 と言ってもジがやろうとしていることは大層なことではない。


 そうした話に食いついたのがパージヴェルであり、二つ返事でウェルデンを紹介してくれた。


「そこについては聞いています。いくつか聞きたいことがありますがまずはどう作られるつもりですか?」


「それはまだ言えません。


 ですが俺には商人ギルドに登録した技術があるのでそれで作るつもりです」


「へぇ」


 ウェルデンの目の奥が光る。

 この国の商人ギルドのトップがこの都市の商人ギルドのトップである。


 そして商人ギルドの中でも特許契約魔法を登録するための審査は受けられるところが少なく、この都市で受けるなら商人ギルドのトップが審査することになり、特に厳しいものになる。

 それを子供が特許を持っているなんて信じ難いこと。


 しかもそんな技術を使って作る商品とは商人としてそそられる話である。

 そんな胸の内を隠すようにウェルデンは紅茶を啜る。


 ウェルデンも一流の商人である。

 飛びついてみたい話だけど子供相手とはいえ油断はしない。


「……仮にその話が本当だとしてこちらに何を求めるのですか?」


 特許については後で調べればいい

 ウソならすぐに分かるし、本当なら言うこともない。


 ジッとジの目を見てみるがウソをついている様子もなく、あやふやな考えでもなさそうである。

 少なくとも技術の明確な使い方なりやり方が分かっている。


 このような話し合いの場を望むだけの考えは持っているとウェルデンからも思えた。


「お金と人です。正確には口の固い馬車職人。

 それと馬車に合わせてみて試さなきゃいけないと思うので人や場所のための先行投資をいくらか融通してもらえればと思います」


 なかなかふっかけてきたものだ。

 個人で馬車を作ることなんて無理だろうから用意してほしいというのは当然のこととしてまだほとんど内容を知らないのに先行投資してくれとは大きく出たと言わざるを得ない。


 揺れの少ない馬車という商品名だけで金をくれとは大胆不敵にも程があり、面白い。


 ジにふざけているような様子は見受けられない。

 ウェルデンは目の前の少年の胸の内を見抜けずにいる。


 よほど自信があるのか、大それた詐欺師か。

 分からない。


 自信満々に見えるのもそのはずで、ジはこれが成功すると知っている。

 未来でこの揺れの少ない馬車は貴族から始まり、一般にも浸透してなくてはならない物になる。


 未来でそうであったことを知っているだけなので細かい調整やら作り方なんかは知らないけれど後で試してみればよく、失敗するなんて露ほども考えていないジである。

 何も考えずにただ成功すると信じている。


 ウェルデンが何も見抜けなくても当然のことである。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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