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抱えすぎも厳禁です1

 ジは後悔した。

 ガルガトの顔に見惚れて生返事のようにしか感謝の言葉を伝えなかったことを。


 ガルガトがくれたのは職人に関する資料であった。

 元職人が調べてリストにしてあった。


 それだけではなくなぜ辞めたかなどの経緯まで書かれてあったり、住んでいる場所、家族の有無なども記載されている。

 全ての情報が筒抜けになっていると考えると怖い話だが今のジにとってこれほど有難いリストはない。


 さらにその上、職人個人だけでなく工房についてもリストアップされている。

 世の中全ての工房が儲かっているわけではない。


 ノーヴィスのところのように営業が下手で細々とやっているところや大手からおこぼれのような仕事をもらっている工房もある。

 なぜ困っているかも調べてあるので、素行が悪いところなんかは簡単に外すことができる。


 神がかったリストにジは頭を下げそうになる。

 ちゃんとなんなのか聞いて感謝すべきだった。


 メリッサにもリストを見せると非常に驚いていた。

 一瞬入手先を聞きそうになったがそこは優秀なメリッサ、グッと堪えてただリストの存在を喜ぶことにした。


 リストの中から信用できそうな人をピックアップする。

 腕の良し悪しはこの際ある程度出来れば良いので人柄や信頼できるかを重視する。


 こうしてリストを見ると色々な人がいる。

 事故や病気のためにやむを得ない事情で離れた人、陰湿なイジメや結婚などの環境のために辞めた人、酒癖が荒いとか人付き合いに問題があるとかの自己の問題のために辞めた人。


 それぞれの人にそれぞれの事情がある。


 狙い目は工房の環境が合わなくて辞めちゃった人。

 厳しい上下関係の中で下のものが才能を発揮し出すと潰されて工房を追い出されるような形で辞めてしまうことがある。


 若くて才能がある人がそれでどれほど辞めていくことか。


 ただしそう言った人は今のジに取ってほしい人でもある。

 あとはケガをしてやむを得ず辞めた人。


 中には現在完治しているとか、複雑な作業でなければ出来るとかそんな人もいる。

 孤児院の子供たちも雇おうと考えているので指導役にもいいかもしれない。


 人の人生を垣間見るような個々人のリストを見ていく。

 職人職に就くのは平民の下の方から中の方ぐらいまでの人が多い。


 夢見る職業ではないが一定の仕事はあるしある意味固い職業で、1つ技術があれば他所に行っても食べてはいける。

 ただしこうした職業は年長者ほど偉く、上下関係が厳しい傾向にある。


 楽しみが酒になり、素行の悪さが出たり体を壊してしまうケースも少ないものではない。

 また事故などで怪我をすることも多くてそれが理由で辞めていく人も割に存在している。


 この町にいる人だけでなく近隣の都市や隣国に至るまで網羅されているリストは分厚い。

 他の都市にまで出張するつもりはないのでこの町にいる人だけを見て良さげな人を選ぶ。


 選んだ人にはチェックを入れておいて、後でメリッサとノーヴィスにも確認してもらい、2人の方でさらに絞り込んでもらう。


「かいちょー……疲れました」


「んー、お昼休憩にしようか」


 だいぶ商会の方も落ち着いてきた。

 それでも毎日貴族の使いのものなんかが注文や状況を尋ねに来る。


 まだ余裕があるとは言い難い状況であった。


「よいしょ」


 お店の札をクローズにでもして休憩でも挟もうと表に出た。


「た、助けてくれ!」


 爆走して、息を切らせている少年がたまたまジに目をつけた。


「なに?」


「お願いだ、匿ってくれ!


 じ、事情は……」


 やや緑っぽい髪色をした少年。

 身なりは綺麗なので貧民ではない。


 その時道の向こうに同じく走ってきた男が見えた。

 何かを探すように偶然にもジの方ではなく反対側を確認していた。


「入れ」


「うわっ!」


 ジは少年の服を掴むと荒っぽく商会の中に投げ入れた。

 そして何事もなかったかのように商会のドアを閉めると、ゆっくりとドア横の開店状況を知らせる札をオープンからクローズに裏返す。


 騒がしく聞こえる声と足音が近づいてくる。


「おいっ!」


「うっ!」


 痛いほどに強く肩を掴まれてジは顔をしかめた。

 振り返ってみると顔つきの悪い比較的大柄の男性が肩で息をしていた。


 元々顔つきが良くないようだが怒っているのかさらに顔が険しく、ジと同じ年頃の子供だったら怖がってしまっていたことだろう。


「チッ……違う。


 おいっ、ここらで走って逃げるガキを見なかったか」


 血走ったような目をしている男の手にはかなり力がこもっていてひどく痛む。


「い、痛いです……」


「ここらで……」


「お前そんなところで別のガキ相手に何やってんだ!


 さっさと探せ!」


 何も知らないとウソを口に出すより子供らしく振る舞って別のことで時間を稼ぐ。

 怒りで興奮していても子供が涙目で訴えかけると理性は残っているのか肩の力が緩んだ。


 同じ質問を繰り返そうとした男を別の男が怒鳴りつける。

 悠長に聞いて回るなら早く足でも動かして探した方がいい。


 盛大に舌打ちすると男はジに謝罪もなく走り去ってしまった。


 慌てて力が入ることはあるのでそれには怒っちゃいないが子供を痛がらせたら謝るべきところ、無視して走り去ったことには不愉快な感じは持った。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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