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金、感情にご用心2

「まあ、待ってください」


 しかしメリッサやテミュンはともかくとしてジは大声を出されても動揺もしなかった。

 逆にジが冷静なことに借金取りは動揺する。


「これを見てください」


 ジは紙の束を2つ置いた。

 それは契約書。


 1つは借金取りも持っている物と同じ物で、シスターがしたと思われる契約書。

 返せとしつこく迫ってきているのはこの契約書に基づいてのことである。


 もう1つはこの契約書とほとんど同じ文言が書かれた契約書。

 違うのは利子に関する文章があるかないかの違いしかない。


「これは本来の契約書の写しです」


「さっきから何を……」


「黙って聞いてろ……」


「う……」


 ジは借金取りを睨み付ける。

 子供とは思えない威圧感を感じて気圧されてしまう。


「違いはこの利子があるか無いかのものですが、どうして写しと本来の契約書が違うのでしょうね」


「そ、それもお前らが勝手に用意したものだろう」


 何にしても証拠はない。

 こんなギリギリになって出てきた真偽のわからない帳簿や契約書なんて悪あがきにしかに見えない。


 出るところに出るマネはしたくないが出られても客観的に見て、苦しい言い訳である。


「誰がもう終わりだと言った?」


「えっ?」


 ジはさらに紙の束と紐で縛って綴られた冊子をテーブルに置いた。


「こ、これは……?」


「契約書の写しさ」


「は、はぁ?」


 ジが先ほど出した契約書と全く同じ契約書。

 書いてある内容も1つも異ならない、利子についての言及のない契約書だった。


「意味が分からな……」


「だから黙ってろって」


「くっ、このガキが……」


「そしてこれは帳簿さ」


 紐で綴られた冊子をジは指差した。


「帳簿だって?


 それもさっき……」


「これはシスターのものじゃなく、ケルン子爵の帳簿です。


 こちらの契約書もケルン子爵のものです」


「ケルン……子爵だと?」


「なんだ、文字も読めないのか?」


「なんだと!」


「よく契約書を読んでみろよ。


 シスターが金を借りた相手、それがケルン子爵だ」


「あっ……」


 ジは限られた時間の中でお金を借りた相手を探した。

 契約書に書かれた名前だけで相手を探すのにはちょっとどうしたらいいのか困った。


 手持ちがなくてケチってしまったが情報屋に依頼すればよかったと後悔した。

 危うく慌ててまた情報屋に行かなきゃいけなくなるところだったが思わぬところでケルン子爵の話を聞くことができた。


 ジは未だにオランゼのところでも働いている。

 そのうちオランゼの商会は情報屋にもなる。


 もちろん雇ってくれた恩も忘れていないので縁は繋ぎ続けるつもりで辞めるとジは言わず、オランゼもそのことについて触れなかった。

 オランゼの方も朝早くでも文句が来ないようにジのクモノイタを使った消音馬車でゴミを運んでいるし、今はほとんどヘギウスやゼレンティガムのある高位貴族街専門のような形でやっている。


 こうした貴族が好意的にオランゼの商会を受け入れてくれているのはジがいるからだとオランゼの分かっているのでジが辞めると言い出しても辞めさせるつもりがなかった。

 

 ケルン子爵についてはオランゼに軽く聞いてみたのだ。

 知ってたらいいな程度の軽い気分だったのだがオランゼがたまたまケルン子爵を知っていた。


 ケルン子爵は有名な慈善家であり、平民や貧民に対する支援を行なっている人であった。

 ジが知らなかったのはケルン子爵は長いこと体の調子が良くなく、自分が表に出て活動することがここ最近はなかったためであった。


 今は家督を息子に譲って領地でのんびりと暮らしているという話であった。


「これらはケルン子爵から直接預かってきたものだ」


 リアーネが誇らしげな顔をしている。

 ケルン子爵についてはリアーネが頑張ったのだ。


 ケルン子爵の領地はそれほど遠くなく、首都から急げば5日の距離にあった。

 けれどそうすると往復10日、近いと言いながらもとても間に合わない距離にいた。


 そこでリアーネは走った。

 正確にはリアーネがリアーネの魔獣のケフベラスに乗って昼も夜もなく走り抜けたのだ。


 5日かかる道のりを2日半で走り抜け、ケルン子爵に話をつけて帰ってきたのだ。


 契約書はシスターのものと変わりがないが帳簿にはケルン子爵の家紋がしっかりと描かれている。


「急ぎの作業だったけどケルン子爵も優しい人で帳簿を渡してくれて、しかもシスターの借金について印まで付けてくれてたよ。


 契約書と2つの帳簿を突き合わせた結果がこの返済額さ」


 貸した本人の帳簿なのだ、貴族の家紋まで載った帳簿を偽造したとなれば大罪である。

 簡単に偽造できるものでもなく謎の利子が追加された契約書を持った借金取りよりも信憑性は高くなる。


「どうする?


 あんたの、あんたたちの目論みはこれで終わり。


 大人しく金を受け取って帰るんだな」


「……ふ、ふざけるなよ!」


 借金取りの目がグワっとものすごい速さで動き、頭の中で考えが駆け巡る。

 失敗して帰ったらどうなるか分かったものではない。


 この際もう手段も選んでいられない。


「お前ら!」


 借金取りの後ろに控えていた4人の屈強な男たちが動き出す。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

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頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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