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本当の自由2

 欲しかったものが目の前にあるのだけど、なんだか素直に喜びきれない自分がいる。

 これを受け取ってウダラックを安らかに眠らせてあげる。


 ただこれだけでいいのに心がかき乱され、躊躇いを覚えてしまう。


「そんな顔をしないでくれ」


 いつの間にかジは悲しげな表情を浮かべていた。

 ウダラックが本当にリッチになっていたら、あるいはもう少しだけでも嫌な奴だったならよかったのに。


「最後に僕が冥府に行く土産として1つ聞かせて欲しいんだ」


「……なんだ?」


「君は一体何者なんだい?


 ただの子供ではない。


 子供っぽい時もあるんだけど、時折僕よりももっと年上にも感じられるような目をしている時がある。

 こうして僕に出会ったのも君がここに来たがったかららしいし、君が家にいない間のことはこの前の少年に聞いたよ」


 この前の少年とはラのことである。

 いつ話したのか知らないけれど対人能力の高いウダラックはあっという間にラとも打ち解けていた。


 その時に子供たちが誘拐された話を聞いた。


 ラは大きな尊敬と小さな嫉妬を持ってジの活躍を話した。

 ウダラックは話術で持ってスルスルとラから話を聞き出してジの活躍にひどく感心していた。


 子供らしくない活躍。

 自分の子供時代どころか、周りのどんな人を見渡したところでこのような傑物はいない。


 まるで英雄譚でも聞いているような話であった。


 みんなはあまり疑問に思わないようだけど考えれば考えるほど普通の子供ではない。


「僕の口の固さは折り紙付きだよ。


 なんてったってこれから僕は死ぬからね」


 どうせ死ぬなら聞いてみよう。


 君は一体何者なんだい?


「……これは俺にも分からない話なんだ」


 ジは自分に何が起きたのかを話した。

 年老いて死んだはずなのになぜか1度目の人生の記憶を持ったまま子供の頃に戻ってきた。


 その理由も、原因も、この現象の名前すらもわからなかった。


 だけど何もしなければただ過去を辿るだけになってしまう。

 過去に起きた出来事は多くの人の命を奪い、あまりにも多くの悲しみを生んだ。


 とりあえず自分の悲しみを減らす。

 フィオスのことを知り、遠ざけて拒んだ過去を改めた。


 そして過去にあった出来事で内容を知っているもの、自分の手を出せそうなもので悲しみを減らそうとした。


 と言っても最初はちょっとお金でも稼いで自立すればラもエも安心して多少未来が変わるだろうぐらいに思っていた。


 そんな時に様々な事件に関わることになってしまった。

 これは意識したものでもなかった。


 そうして色々と経験するなかでジは自分で出来ることなら、自分で少しでも悲しみを減らせるならと思い始めた。


「それは回帰だね」


「……回帰?」


「そう、僕は僕をどうにかできないかと思って色々調べたのさ。


 リッチがどうして生まれたのか分かるかい?」


 どうやってというなら闇の魔法でと答えるけど、どうしてとはなんだろうか。

 理由なんて知るはずもない。


「リッチは人の欲深さが生んだのさ。


 何かを極めて歳をとっていくなかで人は気づくんだ。


 まだ自分は道を極めるには至っていない。

 しかし自分は歳を取り、もう道を歩むことができないとね。


 そうすると人は生にしがみつき始める。

 死が近づくにつれ死を恐れ、生への渇望が頭を支配する。


 すると何を追い求めるか分かるかい?


 それは、不死さ」


 死にたくないなら死なない方法を探す。

 数多くの人が追い求めてきた届かぬ願いの1つである不死。


「そのための研究は常にどこかで誰かがやっているものなんだけど、そうした研究の成れの果てがこのリッチさ。


 紆余曲折あったみたいだけどリッチに至る過程で人は1つの仮定を打ち立てた。

 人には絶対に無くならない魔力があり、それが人なのではないかと予想を立てたのさ」


「なんだか難しい話だな……」


「まあ簡単な話なら今頃みんな死ななくなってるからね。


 どんなに魔力を使い果たしても、体を酷使しても体にはわずかな魔力が残る。

 これが人を人たらしめる魔力なのだとある人が言った。


 その魔力の中に人の思考や人格といったものがあって、そしてそんな魔力さえあればどんな体になっても人のままでいられると考えたのさ。


 それがリッチというものの起こりなのさ」


「はぁ……」


 勉強にはなるけど話が難しくて結論が見えない。


「はははっ!


 どうしてリッチが生まれたかというと不死を研究した人がいて、それに目つけた悪者がいたのさ」


 困惑した表情を浮かべるジ。

 つい話が長くなってしまったことをウダラックは反省する。


「リッチの起こりなんて興味ないだろうけど、こんな不死の研究には多くの分岐があるんだよ。


 その1つが回帰さ。


 ある意味では死なないことの研究。

 時間を戻す研究の中にある一分野」


 偉そうに語ってはみたけどリッチとは分野が違うのでウダラックも良くは知らない。


「確か……死ぬことは避けられないし肉体も捨てられない。

 だから肉体を若返らせる試みの中で生まれたものだったかな?


 魔法によって時間を戻す。

 そしてまた新しく人生を始める研究だったかな」


 確かに時間は戻って人生は始まった。

 子供の頃っていう中途半端なところからだけど。


「だからジ君は回帰したんだよ。


 ただし不死にしても回帰にしてもそんなものは全て神の領域だ。


 人が手を出していいものじゃないし、出したところでなし得るものでもない。

 どうして君が回帰することになったのかは神様しか分からないだろうね」


「結局現象の名前が分かっただけで原因は分からずか」


「ごめんね、長い前置きでこんなことしか言えなくて」


「いや、回帰ってもんが分かっただけでもありがたいよ。


 ありがとう、ウダラック」


「いえいえ、こちらこそ秘密を話してくれてありがとうね。


 このことは墓場まで持っていくよ」


 ちょいちょいアンデッドギャグみたいのが入ってくる。


 回帰。

 ジは回帰した。


 子供の頃に戻るという現象についてなんて呼んでもいいのか分からず調べようもなかった。

 たまたまだけどこの現象の足がかりを得ることができた。


 自分でも後で調べてみようと思う。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

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頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >どんなに魔力を使い果たしても、体を酷使しても体にはわずかな魔力が残る。 >これが人を人たらしめる魔力なのだとある人が言った。 その人、どうやってそれを知ったんですかね? 嫌だなー、怖いなー…
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