ご提案
「香り付けなどはどうですか?」
キーケック主導のもとで石鹸作りは少しずつ進んでいた。
ただ一日に取れる石鹸体液にも限界はあるので、何でもかんでもすぐに試すわけにもいかない。
なのでゆっくりのんびりと進めている形となっている。
特に焦ってはいないからのんびりで構わない。
たまには貴族の情報収集でもしようと思ってアカデミーに潜入して食堂に来てみた。
めぼしい情報はないが、リンデランやウルシュナと会えたのでお昼を一緒に食べることになったのである。
石鹸作りはどうなっているのか聞かれたので順調と答え、さらなる改良も考えていると言ったらリンデランから一つアイデアが出てきた。
「私も石鹸は使いますが、いい匂いがするものもあるんですよ」
「んー、私もいい匂いする方が好きかな」
高級品の石鹸も色々と種類がある。
平民が手に入れられるようなものもあるし、貴族用に石鹸の中でもお高めのものがある。
石鹸なんてものをよく使うのは主に女性で、香りをつけてあるものが貴族の間では人気だった。
「男性がどうか分かりませんが、女性は香りがあった方がいいかなと思いますよ」
「ま、匂い苦手って人もいるけどね」
「匂いをつけるか……いいかもな」
ジケが作ろうとしている石鹸は安価に設定するつもりだ。
ただ安物ってものはどうしても信頼してもらいにくい。
香りをつけて少し高級感を出せば、使う方にも受け入れられやすいかもしれないと思った。
「でも香り付けってどうやるんだろ? 香水でも混ぜたらいいのかな?」
「うーんと、精油ですかね?」
「精油……俺の人生には関わりなかったものだな……」
ジケは苦笑いを浮かべる。
精油は花などの成分を抽出したもので、なんかいい匂いがするものだ。
ただジケの人生において精油と深く関わったことはない。
それは過去を含めてだ。
酒場で精油についての話なんて出るはずもない。
せいぜい嫁さんに香水プレゼントするって言って、安いものを買えないかなんて悩んでいたぐらいの話しかない。
精油なんて単語は知っていても、ほとんど知識はない。
そもそも貧民が手を出せるようなものではなかったので、よく知らなくとも当然の話だった。
「……安いものがあるか探してみようか」
基本的に精油も高級品だ。
香りをつけるのはいいけれど、石鹸が高くなって手が出せなくなってしまっては本末転倒である。
ただ試してみないことにはなんとも言えないところはある。
「うちでも取引している調香師の方がいらっしゃいますよ」
どこか精油を扱っているところに話を聞いてみなきゃいけない。
そんなふうに考え始めていたジケに、リンデランはニッコリと笑顔を向ける。
自分のところに関わらせるのがリンデランの作戦だな、とウルシュナは細い目をして様子を眺めている。
ヘギウス商会とも密接になるし、自分が案内することもできる。
リンデラン、策士である。
「じゃあ、紹介してもらおうかな」
せっかく話に出たんだし、他に当てもない。
それなら素直に話に乗った方がいいとジケが軽く頷くと、リンデランはさらにニコニコとする。
「喜んで!」
「精油ねぇ……」
ジケとしても匂いがあっても無くてもどちらでも構わない。
匂いが欲しい人用といらない人用に分けることも必要かなと考え始めていた。
「じゃあ、いつがよろしいか、ご相談しましょうか!」
こうしてリンデランはジケと会う約束を取り付ける。
最初からこんな流れを考えていたのだとしたら、恐ろしいものであるとウルシュナは思った。




