体を綺麗に3
「おっ……おー……」
水を汲んだりする木の容器の上で体液を出してもらう。
じわーっとケッセンの毛が湿ってきて、体液が染み出してきた。
体液がぽたっと垂れるが、期待していたほどの量は出てこない。
「これはあれだな。パロモリ液パターンかな?」
そもそも小型の魔物から生み出されるもので大量に、なんてものの方が少ないかもしれない。
ファイヤーリザードが出す耐火性のある体液も、体液だけ採取するのが大変でお湯に入ってもらって取り出すという手段をとった。
ケッセンもそうしたパターンがいいのかもしれないとジケは思った。
「泡出過ぎるなら薄めてもいいしな」
濃いなら薄めればいい。
当然の考えである。
「お湯を用意だ!」
「りょ!」
流石に体液を出すペースが遅い。
ちょっとあればアワアワになるのだからそんなにたくさん出す必要もない。
量を出す方向で進化してこなかったのだから仕方ない、とジケはお湯を用意する。
「イヤなのか?」
「うーん、問題発生」
お湯を用意したのだけど、ケッセンはイヤイヤと首を振る。
そもそもアワで自分をキレイにできるのだから、お湯や水に入って自分をキレイにするという習慣がないのかもしれない。
「のわー! チュルンってする!」
ピコが無理矢理入れようとしたけれど、体液を出したケッセンはヌルヌルして掴むことすら難しい。
掴もうとするたび手は泡立っていくし、無理にお湯に入れるのはちょっと無理そうだった。
「クシとかタオルで拭い取ったら?」
「そうしてみるか」
嫌がるのに無理はしない。
これから先も長く体液を取らせてもらうのに、嫌々な方法では続けていけない。
できるだけ負担のかからない方法を見つけ出すことも大事なのである。
「タオル……クシかなんかの方がいいかな。どこかで買って……」
「ありますよ」
残念ながらジケはクシを使わない。
どこかちゃんとした場に行くなら身だしなみを整えることもあるが、クシを使って髪を整えることなんてまずしないのだ。
ユディットにでもどこかで買ってきてもらおうと思ったら、リンデランがクシを差し出した。
「クシを持っておくのは淑女のたしなみですから」
「でも……」
「いいんです。こちらは持ち歩くためのものなので。大事なものは家に置いています」
いいのか? という目をするジケにリンデランは笑顔を向ける。
貴族として身だしなみを整えておくことは大事である。
リンデランは髪が長く、細くて絡みやすいので小さめのクシをいつも持ち歩いていた。
特に高価なものでもないとリンデランはいうけれども、実際はそこそこいいお値段のクシだったりする。
「あははー……私はクシなんて持ってないけどね」
淑女のたしなみだから持っている。
リンデランがそんなことを言うのに対して、ウルシュナは目を逸らして引きつった笑いを浮かべる。
家ではちゃんとクシで髪をとかす。
しかしクシを持ち歩いたことなんてないし、髪が乱れたなら頭を振ればいいぐらいの考えだった。
「うーちゃんは髪短いですしね」
髪質もあるし、髪の長さなんかも違う。
普通に生活していて髪を振り乱すこともそう多くはないので、クシを持っていなかったとしても淑女失格ではない。
「……ありがとな。あとで新しいの買って返すよ」
「本当ですか!」
汚いわけではないだろうが、魔獣に使ったクシをそのまま返すほどジケも無神経ではない。
新しいものを贈るというとリンデランは嬉しそうな顔をする。
「へぇ……リンデランにはプレゼントするんだ」
「ねぇ……」
「えっ? だってそりゃ貸してくれたし……二人にもプレゼントするよ」
ウルシュナとエニが示し合わせたかのように拗ねた顔をする。
クシを貸してもらったのだからリンデランに返すのは当然だが、別に二人にはと思った。
ただジケの勘が働いて、余計なことは言わない方がいいと瞬時に察した。
「ピコちゃんもいるけどなぁ〜」
「んじゃ、ピコちゃんにもな」
「やったぁ!」
「僕には?」
「キーケックもクシ使うのか?」
「ううん。使わないけどジケ君からのプレゼント欲しい!」
これならユディットに買ってきてもらった方が安上がりだった。
「みんなにクシな……」
ため息をつきながらも、これで喜んでくれるならとジケはクシを贈ることにした。
その後はケッセンの体液をクシでとかして取り出した。
あまり多くの量にはならなかったが、泡を抑えるためにどうせ薄めるのだから量はそんなに多くなくてもいいかもしれない。
「あとは色々試して……だな」
薄める量や方法など、細かくはやりながら試してみるしかない。
しばらくキーケックはアワアワになるだろうが、頑張ってもらうしかないのだった。




