お姫様を迎えにいこう2
「おっと?」
馬車が止まった。
「リアーネ?」
今御者をしているのはリアーネである。
「魔物のお出ましだ」
窓から外を覗いてみると、ツノの生えた四足歩行のオオカミのような魔物に周りを囲まれていた。
襲撃者も問題にはなるが、魔物も普遍的な問題である。
あまり道なんかには出てこないものだが、確実に出てこないとは言えない。
こうしたことも時には起こりうる。
「どれ、行きの駄賃代わりに働くとしようか」
キリエがさっさと馬車を降りる。
快適な馬車の旅のおかげでやや気分がいい。
「ジケ!」
「じゃあ、リアーネも頼むよ」
対抗心を燃やすリアーネにも魔物の相手をお願いする。
魔物の感じではそんなに強くもなさそう。
数はいるけど、二人でも大丈夫だろう。
「すごいスマートな戦い方だよな」
ジケは窓から外を見る。
リアーネは大きな剣を振り回して戦っていて、対してキリエは普通の剣である。
武器の差が実力を示すわけではないが、見た目の派手さでもリアーネの相手は大変そうだよなとジケは思う。
だがキリエは普通の剣一本でリアーネを倒してしまった。
今も戦っているキリエを見るととても滑らかに動いている。
まるであらかじめ動きが決まっていたかのようにウルフを斬って倒している。
素早く、鋭い。
動きとしてはグルゼイにも近いタイプである。
「……俺も、あんな風になれるんでしょうか?」
ユディットも真剣にキリエのことを見ている。
「なれるかもな。後で聞いてみればいい」
キリエはユディットの父親と兄妹弟子であったといった。
つまりユディットの父親も同じような動きをできていた可能性が高い。
キリエを通して、昔見た父親の姿を見ている。
剣を教えてもらえないかなとユディットが考えていたとしてもおかしくない。
今のところちゃんとした師匠はおらず、我流で頑張っている。
ジケやグルゼイのそばにいたので、ユディットの動きもジケたちにやや近い。
キリエの剣の動きにも近いし教えてもらえるなら悪くない。
「あっという間に終わったな」
半分ほどウルフを倒したところで、残りは怯えたように逃げてしまった。
「ユディット、手伝ってあげるか」
「はい、分かりました」
魔物を倒しただけでおしまいというわけではない。
馬車の進行方向、道の上には魔物の死体が転がっている。
このままじゃ馬車を進めることはできない。
魔物の死体を放置すると他の魔物もよってきてしまう。
「売れそうだけど……次の町までちょっと遠いしな」
毛皮は売れる。
倒したウルフの死体を持っていけば買い取ってくれるようなところもあるだろう。
しかし、今は別に魔物を倒してお金を稼ぐためにきているのではない。
倒した数も多く、持っていくには少し負担が大きい。
「やっぱり燃やして処理かな」
こうした時の基本処理は燃やしてしまうことである。
魔物や残った血を燃やしてしまうのだ。
多少燃え残っても焦げ臭いと魔物は寄ってこなくなる。
広く燃やすのは大変なので、倒したウルフはまず一カ所に集めてから燃やす。
ジケとユディットも馬車を降りて、ウルフの死体を道の脇に運んで積み重ねていく。
「切り口も綺麗だな」
キリエが倒したウルフの切られた跡はスパッとしていた。
魔剣でもないのにこれだけ鋭い切り傷を残せるのはやはり技量の高さがゆえだろう。
「おっし、エニ」
「はーい」
フィオスに処理してもらうという方法もあるが、今回はエニにやってもらうことにした。
キリエに対しての、旅のやり方も分かっているというアピールでもある。
なんでエニを連れてきたのか疑問だろうし、ちゃんとエニも能力があるのだと見せつけておこう。
「ほっ!」
エニが杖を振ってウルフの死体の山に火をつける。
最初は小さかった炎も魔力を込めていくと、あっという間に山を炎が包み込む。
「えいっ!」
道に広がっている血の方にも炎を広げる。
「フィオスあんがと」
切られて倒された死体を動かすとどうしても手が汚れる。
流石に手を燃やして処理はできないので、フィオスに汚れを綺麗にしてもらう。
リアーネがズボッとフィオスの中に手を突っ込むと、手についた血だけが綺麗に無くなる。
「キリエさんも」
「…………分かりました」
スライムの中に手を突っ込むのは初見だと意外とためらってしまう。
キリエは少し迷いながらも、みんなやっているからとそっと手を差し出した。
「……エニさんは優秀な魔法使いなのですね」
キリエの手をフィオスが綺麗にする。
やはりスライムは優秀な魔物だ。
「エニは教会に勤める神官でもあるんですよ。怪我したら彼女にいってください」
「どうやったらそんなに人を集められるのでしょうか?」
リアーネとユディットだけではなく、エニまで優秀。
この広い世の中で優秀な人は多いが、身の回りに集めることは簡単なことでない。
「んー、なんででしょうね? 気づいたらみんな周りにいてくれるんです」
どうやってと聞かれても分からない。
いてくれればと思うことはあっても無理に引き止めることはなく、気づいたらみんながそばにいてくれるのだ。
「……なるほど」
ジケを見ていれば理由が分かるような気もするとキリエは思った。
魔物を燃やして処理した後はまた馬車に乗って進み出す。
夜になれば野営して、キリエが今度はテントの中が暖かいことなんかに気づいた。
それもまたフィオス商会の商品によるものだと知ってキリエは驚いていたのだった。
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