照れ屋な忠誠の騎士
「お団子いかがっすか〜」
「ピコちゃんとくせータミケリ団子だよ!」
ジケは団子を売っていた。
首からヒモを下げて支える箱の中に、大きな葉っぱで包んだ団子が入っている。
意外と売れるもので、残りわずかとなっている。
「君、決勝に出ていた子だろ? ご苦労さんだね! 一つもらうよ」
「あっ、どーも!」
決勝の八人まで進んだので、目立ちたくないとは思いつつもやはり目立ってはいてしまった。
町中を歩いていても声をかけられることがあるぐらいには、ジケの顔も知れ渡っている。
武闘大会の会場となっているコロシアムでは、試合を見ていた人も多くてさらに知名度は高かった。
頭にフィオスを乗せたジケに観客の一人が声をかける。
ジケはお金を受け取って、団子を渡す。
今ジケはコロシアムの観客席で団子を売って回っていた。
タミケリ団子、あるいはピコ団子なんて呼ばれている団子の販売は、かなり順調だった。
手を汚さずお手軽に食べられて、なおかつ美味い。
物珍しさもあって、目の前まで売りにきてくれるから買ってみようと人も多かった。
「リアーネも頑張ってるな」
コロシアムでは武闘大会が続いている。
女性大人部門ではリアーネが出場していた。
男性よりも女性の方が武闘大会に挑んだ人は少ないが、その分一人一人の質は高くて予選突破の人数も思いの外多い。
今は子供部門と同じく予選突破者をいくつかに分けてのトーナメントが行われている。
リアーネの実力ならあまり心配はしていない。
怪我をしてもエニが待機しているので、いざとなっても大丈夫だろう。
「そこのお兄さん、こっちにも二つ」
「はーい!」
それでなぜジケが団子を売っているかというと、ピコに泣きつかれたからだった。
団子は売れるが、ピコは一人。
ピコが回っているところ以外でも売ってほしいなんて声まで出始めて、この商機を逃したくないピコが武闘大会終わったなら手伝ってくれとジケに頼み込んできたのだ。
どうせすることもないのでピコを手伝うことにした。
すると出場者効果もあってお団子はガンガン売れていったのである。
「おっとっと売り切れか」
気づいたら箱いっぱいにあった団子が無くなった。
「お団子売り切れでーす」
背中に差していた団子の旗に売り切れの紙を貼り付けて、ジケは観客席から撤退する。
「売れるもんだな」
ピコには商才があると感心してしまう。
どこでも生きていける感はピコにあるなと思っていたけど、何かの商売を起こしても上手くいくだろう。
「おっ?」
団子を売り終わった後、何かみんなで食べて帰ろう。
そんな話をしていたのでコロシアムの出入り口で集まる予定だった。
出入り口のところに行くとユディットがいることにジケは気づいた。
ユディットも団子売りを手伝ってくれていた。
なぜか柱の影に隠れるようにしていて、魔力感知を使えるジケでなければ気付かないところだった。
「何してるんだ、ユディット?」
「あっ、会長……」
ユディットは困ったような顔をしている。
何があったのだとジケは首を傾げてしまう。
「その……みんなが……」
「みんなが?」
「私のことを、忠誠の騎士と……恥ずかしくて……」
ユディットは武闘大会で優勝した。
運も味方したところはあるし、ジケやライナスが脱落したというところも大きい。
それでもここまで培ってきた実力をしっかりと発揮して、自分で勝利を掴み取ったことは確かなのである。
優勝者なのだから目立つ。
ただユディットの場合はそれだけではない。
優勝したユディットは『この優勝を我が主人に』と宣言した。
そのおかげで今時に珍しい忠誠の騎士だと話が広まっている。
面白半分なところもあるだろう。
だけど実際にも実直な人柄が評価されているのかもしれない。
しかし忠誠の騎士、忠誠の騎士と呼ばれると、流石にユディットも恥ずかしくてたまらなかった。
「私の名前はユディットです……」
いつの間にか忠誠の騎士が名前であるかのように呼ばれていた。
ご祝儀だ、なんて言って団子もサクサク売れた。
団子を売るまではと我慢していたユディットだけど、売り終わった後は恥ずかしくて逃げるようにコロシアムを出て、他の人に見つからないように隠れていたのだ。
「なるほどね」
だから優勝はしたくなかったのだとジケは思った。
ユディットの場合は騎士っぽい宣言があってのことなので多少事情は違うも、こんなふうに声をかけられることは予想できた。
「俺の忠誠の騎士なのにな」
「や、やめてくださいよ……」
「俺はいいだろ?」
ジケはニヤッと笑う。
「うっ、まあ、確かに、そうですね……でも恥ずかしいものは恥ずかしいですよ……」
「ははっ! こんなユディット珍しいな!」
頬を赤らめるユディットを見て、思わず笑ってしまう。
なんだかんだとここまでユディットとの付き合いは長い。
色々危ういところもあったジケにここまでついてきてくれた。
ジケにとっては本当に忠誠の騎士といってもいい存在である。
「二人ともぉ〜ピコちゃんが来たよ〜」
「おっ、ピコちゃんも来たな」
「二人ともお疲れ様」
「ん、飯でも食いに行くか」
「やったー!」
「いくぞ、俺の騎士ユディット」
「うぅ……」
「はははっ!」
優勝したからとユディットが変わることもない。
ジケは優秀な騎士を得られたものだとちょっとだけで誇らしい気分だった。




