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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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フィオス、信者を獲得する1

「うーんと、じゃあどうしたらいいかな?」


 多分フィオスポーションが呪いも治しているのだろうと踏んだ。

 実際フィオスも色々なものを取り込んでいて、フィオスポーションも色々な物の複合的なポーションになっている。


 その中の何かが神の呪いに効いている。


「しっかし……それこそ本物の聖杯……いや、まさかな……」


 国が持っている本物の聖杯ならばそんなことも可能かもしれない。

 ジケの手元には不思議な杯がある。


 聖杯なんじゃないか。

 そんなふうに疑ったこともある。


 しかし一度ヘギウス商会に魔道具かどうか鑑定に出したことだってある。

 その時だって何も言われなかった。


 本物は王城にあると聞いていたし、だからジケとしても聖杯とは関係ない魔道具だと思っていた。

 だがセクメルが王城から盗んだ聖杯は偽物であった。


 盗まれた時のことを考えて偽物を置いておくということもある話だ。

 だがわざわざ偽物を置いておくだろうか、などとジケの頭の中でグルグルと考えが巡る。


「あの……」


「あっ! ちょっと色々考えてて」


 セクメルの呪いとやらも一気に全身解けるものなのか、ちょっとずつ試してみるのがいいのか。

 そんなことを考えているうちに思考が飛んでいってしまった。


 仮にジケの手元に聖杯の本物があるのだとしたら大事件だ。

 若干冷や汗が出てくるような思いだが、今は目の前のセクメルに集中する。


「とりあえず手を出してください」


 改めてリアーネに人を入れないように伝えてセクメルの治療、解呪を始める。

 効果がありそうならフィオスポーションを頭からかけてもいいけれど、まずは様子見で手から治す。


 ずっと差し出されたセクメルの手をくっつけるようにして、その上にフィオスを乗せる。

 フィオスがニュルンとセクメルの手を包み込む。


「頼むぞ、フィオス!」


 ジケが声をかけると、応えるようにフィオスがプルンと揺れる。


「…………おっ?」


「…………あっ!」


「や、やはり……」


 最初は何の変化もなかった。

 しかしゆっくりとセクメルの手の時間がさかのぼり始めた。


 肌にハリが戻って、小枝のように細かった指に水分が戻るように太くなる。

 黒ずんでしがれていた肌が白くなっていき、ジケとエニも驚いてしまう。


 同じく自分の手の変化を眺めていたセクメルの目には涙が溜まり、我慢できないように溢れ出す。

 変化が起こり始めると早かった。


 みるみるとセクメルの手は若々しいものとなった。


「ああ……私の手……」


 体は老婆なのに手だけ若い。

 外から見ればかなりの奇妙さだが、セクメルの感動の涙は止まらない。


「効果……あるようだね」


 思わずエニもセクメルの手を覗き込む。

 確かに手の若々しさだけ見れば、二十代だという話にも信憑性が出てくる。


「あああ……」


 ただ膝がまた老いてしまったように、手も再び老いが手首から上っていく。

 若く戻った手は、瞬く間に元の状態になってしまった。


「元に戻ってしまうのも早いな……」


 こうなると少しずつ戻していくよりも、一気に全身の呪いを解いたほうがいいかもしれない。


「……ついでに見てもらおうかな」


 一気に治すならフィオスポーションを頭から被せようと考えた。

 そのためには何かにフィオスのポーションを溜めておく必要がある。


 何に溜めようか考えた時に、ちょうどいいものがある。


「そ、それは……!」


「フィオス、これにポーション溜めてくれるか?」


 ジケが持ってきたのは部屋に置いてあった杯だった。

 自分が盗み出したものとよく似た杯が出てきて、セクメルは驚いた顔をしている。


 フィオスはテーブルに置かれた杯にピョンと入って収まる。

 溜めてくれと言ってジャバジャバポーションが出てくるわけではない。


 少しずつ染み出すように出てくるので、ここは待つしかない。


「これは……聖杯……」


「に、見えますよね……?」


 聖杯を出してきたのはポーションを溜めるためという目的の他に、もう一つ理由がある。

 杯が聖杯なんじゃないかと疑い始めたからだ。


 ここまで杯が聖杯であると思えないような理由がいくつかあったので、ジケも豪華な魔道具の杯程度の認識だったのである。

 けれどもフィオスのポーションが呪いまで解くようになったし、セクメルが王城から盗んできた聖杯が偽物だったことから疑いが生じた。


 だからセクメルにもジケの杯を見てもらおうと思った。

 鑑定眼があるのかは知らないが、少なくとも盗んできた聖杯が偽物であるということには気づいていた、


「いえ……これは聖杯です」


「分かるんですか?」


「私の魔獣、クロイーネと近い気配があります。この盃には神の力が宿っています」


 セクメルは震える指先でそっと聖杯を撫でる。

 王城の宝物庫には色々なものが置いてあって、聖杯が聖杯かどうかの気配を感じ取ることができなかった。


 いざ盗み出して、冷静になってみると盗み出した聖杯からは何の力も感じられずにセクメルは大きなショックを受けた。

 しかし今フィオスが収まっている杯には、偽物の聖杯と比べ物にならないほどの力を感じている。


 偽物に騙された自分を恥じたくなるほどに存在感が違う。

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