全ての始まり6
「それにも問題がありました。これは神が残した呪いであり、通常のものとは違うのです。神の呪いを打ち消すためには神の力が必要なのです」
「だから……聖杯を盗んだのですか?」
先ほど訪ねてきた兵士はセクメルに対して何かが違うと感じたらしく、逮捕はしなかった。
しかし兵士に加えて、ソコイから聞いた話とセクメルが持っていた聖杯のような物を合わせて考えると答えは出る。
「その通り……」
「最近巷で噂になってる五代目パルンサンも……あなたですね?」
「五代目パルンサン?」
「貴族や……大神殿からも物盗みませんでした?」
「ああ、それなら私ですね」
全ての話が繋がっていく。
最近噂になっていたパルンサンの話や大神殿で物が盗まれたという話も全て同じ人物によるものなのである。
セクメルが全ての犯人であった。
「呪いを解くために?」
「その可能性がありそうな物を片っ端から盗まました。狙いがバレて物を隠されては困るので他のものやお金も盗みましたけれど。少し食べるものなんかは買ったけど……あとは寄付したり物は返したりしましたよ」
「なるほど……」
どうやって盗み出したのかも分からない大泥棒の手口は、時を止めるというとんでもないものだったのだ。
「けれどもあの聖杯も偽物。神の力どころか魔道具ですらなかった。…………しかしそこのスライムは私の呪い一瞬解除した」
セクメルはここからが本題だと言わんばかりの目をしている。
「私の膝を見たでしょう? 若々しく……綺麗な肌をしていた。あれが本来の姿なのです」
「えっ、あっ、何を……」
セクメルは倒れ込むようにして、床に膝をつく。
「どうか……そのスライムの力を貸してください……! 私はまだ死にたくない。どうか……どうか!」
セクメルは両手をついて、額まで床に擦り付けるようにジケに頭を下げた。
「今の私に差し出せるような物はありません……ですが、一生をかけてでも恩返しさせていただきます!」
中身は二十代なのかもしれないが、今は見た目老婆である。
たとえ中身通りの見た目としても、地面にへばりつくように頭を下げられたらどうしたものかと困惑してしまう。
まして、今は老婆の姿をしているのだから、心が痛むような光景にすら見える。
「わ、分かりました。どうなるのか分かりませんけど……やってみましょうか」
「本当ですか?」
セクメルは期待に満ちた顔をして頭を上げる。
「上手くいくかは知りませんよ?」
セクメルはフィオスが呪いを解けると思っているようだが、ジケは何が原因でフィオスがそんなことできるのか分かっていない。
本当に可能なのかもちょっと疑わしい。
「それでもいい……希望があるのなら……」
「まあ、フィオスなら……」
ただフィオスならできちゃうかもしれない。
チャレンジするのはタダである。
失敗したところで危険が及ぶようなものでもないので、セクメルの呪いの解除を試みてみることにしたのであった。




