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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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全ての始まり2

「ああああああっ!」


「な、なんだ!?」


 なんだかちょっと今日のフィオスはちょっと柔らかめだなと思っていたら、叫び声が聞こえてきた。

 続いて何かが割れる音がした。


 声はしわがれていて、聞いたことのない声である。


「なんだなんだ!」


 ジケは走って声のところに駆けつける。


「ああああ……違う……」


「……何があったんだ?」


 老婆が危険人物で暴れているのかもしれない。

 そう思って慌てて駆けつけたのに、老婆は暴れるどころか四つ足をついて泣いていた。


 チラリと壁際を見ると、老婆が持っていた杯がバラバラになって床に落ちている。


「うーん……なんだろね?」


「ああ……私も分かんね」


 経緯を見ていたはずのエニとリアーネは困った顔をしている。

 何があったと聞かれて二人は顔を見合わせて、同じように肩をすくめた。


「何があってこうなったの?」


「うんとね、とりあえずあの人、目を覚ましたんだ」


「それは見て分かるな」


 老婆はもはや床に突っ伏すようにして泣いている。

 気を失っていた老婆が起きたことはジケにも見て分かる。


「んで、そのあと水が欲しいって言ったんだ」


「そうなのか」


 特に難しい要求ではないし、不思議な要求でもない。


「でもね」


「おお? でも?」


「あの杯に水入れてほしいって……」


「また変なお願いだな」


 水が欲しいというのは理解できるが、わざわざデカい杯に入れてほしいというのはちょっと不思議だ。

 杯はどう見ても工芸品の類であり、日用品として使うものではない。


 老婆が使うにしてもサイズは大きすぎる。

 目覚めてすぐに使うのもなかなか大変である。


「だから水入れてあげたんだ」


 お願いとしては不思議だが、断るほどのものでもない。

 エニは杯に水を入れて老婆に渡してあげたのだ。


「んで?」


「水飲んで……急に杯投げちゃって……泣き出した」


「何も間違ってないな」


 エニの説明に抜けたところはないとリアーネも同意する。


「精神的にやられちゃったのかな?」


 時々おかしくなった人も貧民街にはいたりする。

 そんな類の人かもしれないと、エニは困ったように泣いている老婆を見る。


「これは偽物だ……本物はどこに……もう時間がない……」


 老婆は何かをブツブツと呟いている。

 何が言いたいのかジケたちには分からない。


「困ったもんだな……」


 おかしくなってしまった人を家の中に留めておくのは少し怖い。

 だが今回の相手は老婆である。


 今にも倒れてしまいそうなほどに細い体をしていて、そこらへんに放り出すのにも少し抵抗がある。

 家の近くで倒れていたなんてことがあれば罪悪感も覚えてしまうだろう。


「ジケジケジケジケ! ビッグニュース! ……あれ? どうかした?」


 老婆のことをどうしたものかと悩んでいると、ソコイが家の中に入ってきた。

 当然家の中がどんな空気なのか分かっていないから元気いっぱいだったのだけど、老婆のすすり泣く声が聞こえてくるものだからすぐに気まずそうな顔をした。


「ちょっとな。何かあったのか?」


 老婆にどんな慰めの言葉をかけたらいいのか分からない。

 また癇癪起こして暴れられても困るし、ひとまず満足するまで泣かせておくしかないとジケは諦めた。


「こっちのセリフだけど……」


「俺たちもあんまり分かってなくてな。それよりも何がビッグニュースなんだよ?」


 エニが老婆と対話を試みようとしているので、いざという時のためにリアーネがそばにいてくれる。

 ジケはソコイの方を対処することにした。


 ソコイがビッグニュースだというのなら本当に何か大きな話なのだろう。


「あ、ああ……」


 エニの声かけを無視してすすり泣く老婆の声が聞こえるのは嫌だなと思いながらも、ジケが気にしないのならソコイに言えることもない。


「えとな、王城に泥棒が入ったんだよ」


 ソコイはジケに顔を近づけて、いかにもな感じを演出するように声をひそめた。


「泥棒? まさかあの……例の五代目パルンサンとかいうやつか?」


 ジケは少し前に聞いた話を思い出した。

 警備の厳重な王城に侵入する泥棒なんて、それこそパルンサンぐらいのものだろう。


「犯人が誰なのかは知らないけど……本当に何か盗んだらしい」


「そんなことできるのか? 盗んだってあれだろ? 宝物庫からだろ?」


「そりゃ部屋から壺盗んだぐらいじゃビッグニュースじゃないからね」


「そんなの……ソコイだって多分厳しいだろ?」


 かつて色々なものを盗み出したソコイだが、流石に王城はターゲットにしなかった。


「俺なら……いや、難しいかな」


 やらないけど、ちょっとだけやれるか考えてみた。


「侵入はできるかもしれない……けど出て逃げられないかな。部屋から壺盗むならできるけど」


 冷静になって考えてみると王城の宝物庫から物を盗むのはかなり大変だ。

 今は情報屋として色々な情報を持っている。


 忍び込むだけならなんとかできるかもしれないが、忍び込んだ後逃げることが難しいかもしれないと思った。


「ともかくパルンサンかどうかは別として、宝物庫に泥棒が入って逃げおおせたってことか」


「今は武闘大会もあるし、あまり大事にはしていないようだけど犯人探してるらしいな」


「何盗まれんだ?」


「それは調査中。でも結構大事な物っぽい。分かったら教えるよ」


「ありがと」


「ニヒッ!」


 ソコイには歯を見せて笑う。

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