武闘大会!5
「はっ!」
「やっ!」
ジケと相手の子の剣がぶつかる。
細身に見えるが、非力なわけではない。
それなりにちゃんと鍛えているらしく、体格の分しっかりと相手の方がジケよりも力が強い。
力押しで戦っていては勝てない。
ジケは少しずつ戦い方を変えていく。
激しく剣を打ち合わせるような戦いから、回避や受け流しを活かして相手の好きを作り出していく戦いへと移った。
相手が気づいた時にはジケの戦いのリズムになっていた。
「くっ!」
ジケの剣が相手の頬をかすめる。
自分のペースに引き込めないことに苛立ちを露わにして、相手の子は剣を振る。
ジケは相手の剣を受け流して、終わらせようと一撃を狙った。
「なっ!」
パッと片手を剣から放した相手の子は、空いた手を握りしめてジケの顔面向けて突き出した。
つまりは殴ってきたのだ。
先に剣は届きそうだったが微妙なタイミングだった。
仕方なく剣を引いて、殴打を回避する。
「うおっ!?」
下がったジケに食らいつくように一歩を踏み出し、ジケの頭を目掛けて蹴りを繰り出してきた。
思わぬ攻撃に動揺したジケは、体を屈めるようにして蹴りをかわす。
「なかなか……ワイルドだな!」
相手の戦い方が変わった。
蹴りや殴打を含めた変則的なやり方だが、ちゃんとリズムがあって攻撃に繋がりがある。
急場凌ぎ的な攻撃ではなく、やり慣れた戦い方だ。
こいつは兵士じゃないなとジケは思った。
ここまでは割とベーシックな剣の戦い方で、兵士でも習うようなやり方に見えていた。
けれども兵士で蹴りや殴打を組み合わせた戦い方は教えない。
細かくは知らないけれど、そんなやり方を教えていないことぐらいは分かる。
兵士がそんなやり方をしていたら怒られて矯正されるだろう。
なのに慣れていることから考えるに、兵士として訓練を積んできたのではないと言えるのだ。
「だけどそんなの通じないぞ!」
物珍しさはある。
攻撃の間を打撃で繋ぐことで隙は減らせるかもしれない。
だが弱点もある。
「はあっ!」
拳で剣は防げない。
ジケが殴打に合わせて剣を振ると、相手の子は渋い顔をして攻撃をやめる。
「うっ!」
蹴り上げてきたので、剣で足を叩き落とす。
相手の子が鈍い痛みに顔を歪めて下がる。
素手での攻撃は下手するとそのままリスクになってしまうのだ。
驚いた最初はよかったけれど、慣れてしまえばジケにとって手足を狙うチャンスでしかなかったのである。
真剣なら足をざっくり切り裂いた一撃だったが、審判は止める様子がない。
なかなか見ない戦い方なので、面白くは思う。
ただ実戦的な繰り出すのは熟練度不足という感じがする。
「はっ!」
「うっ!」
足を引きずるようになってしまった相手の子はすっかり勢いが衰えた。
蹴りを封じられたというだけでなく、蹴りを迎撃されたことで殴打するにも警戒するし、足の踏ん張りが効かなくなってしまった。
生身のところを攻撃されるとこうしたリスクがある。
だから多くの人は武器を使うし、生身の体を使った攻撃はあまり多用しないのだ。
ジケも別にそれが悪いとは言わない。
しかしやるならちゃんと考えてやらないと危険であるという話なのだ。
「どりゃっ!」
足が痛んで隙ができた。
ジケは隙を見逃さずに相手の子の頭に剣を落とす。
剣がまともにヒットして鈍い音が響く。
相手の子の体がぐらりと揺れ、尻餅をつくように倒れた。
「そこまで! 勝者ジケ!」
「よしっ!」
一瞬危ない場面はあったものの、ジケは勝利した。
これで組優勝である。
あとはそれぞれの組の優勝者たちと戦うだけである。
「くそっ……負けたか」
「大丈夫か?」
ジケが手を差し出すと、相手の子はジケの手を取りながら頭を押さえて立ち上がる。
「おばさんに怒られるかもな」
「おばさん?」
「デラカリアおばさんさ」
「デラカリア……って」
「ベルンシアラの女王様だよ」
「えっ!?」
相手の子はニヤリと笑う。
「参加しろって言われてきたけど……こんなに強い相手がいるなんてな。なんて言われるか……」
あまりこの辺の戦い方っぽくないなと思っていた。
なんと相手はベルンシアラの子なのであった。
それも王女デラカリアの親戚らしい。
「まあ、獣人もあるぐらいだし……いてもおかしくないか」
武闘大会についてはベルンシアラが発案だなんて話もある。
ジケの知っているデラカリアなら、自分のところから人を参加させていてもおかしくない。
「頑張れよ。せめて俺に勝った相手が優勝してくれれば言い訳も立つから」
ライバルは国内の子だけじゃない。
獣人やベルンシアラからも刺客がいるのだとしたら意外とこの先の戦い厳しいのかもしれない。
「……ライナスと初戦で当たらないかな」
面倒臭い戦いになりそう。
ジケは深いため息をついたのだった。




