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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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最後の足掻き3

「危険だって分かってても……やらなきゃいけない時があるんだ。男ならな」


「な、ジケ!」


 押し切れそう。

 そう感じたライナスはジケを援護する。


 ジケもなんだか良い感じの話にしてしまおうと良い顔をする。

 テーブルの上にいるフィオスもジケに合わせるようにプルプルすることをやめて、キリッと感を演出する。


「……うーん、おりゃ」


「うにゃあ!?」


 一瞬説得されかけたエニは、軽くジケのお腹を殴りつける。

 普段ならなんともない力のものだろうけれど、今はそれだけでまた全身に痛みにも近い鈍いものが走っていく。


「誰か助けるのもいいけど! でもやっぱり私は……みんなが無事の方がいいからね」


 治す側の気持ちになってみろとエニは思う。

 ちょっと頬を膨らませて拗ねる表情は可愛いけれど、ジケはそれどころじゃない。


 悶絶するとまた体に痛みが走るので、耐えるしかないのだ。

 ジケの様子を見て、エニは言わんこっちゃないと目を細めた。


「何したらこんなことなるの?」


 なんだかんだと言いながらエニはジケの治療を始める。

 淡い光に全身が包まれて、木漏れ日でも浴びているかのような暖かさを感じる。


「あ、悪魔の攻撃だから分かんないな……」


 多分ドラゴンのせいだけど、話がややこしくなるので悪魔のせいにしておく。

 どっちが原因だろうと、こうだからと説明できるものでもない。


「俺は別になんともなかったんだけどな」


 頭の後ろで手を組んだライナスは数日前のことを思い出してみる。

 囚われたばかりだったためなのか、ライナスはジケが悪魔を倒して水晶の箱から解放されてすぐに目を覚ました。


 多少の気だるさのようなものは感じたものの、ジケに比べれば不調と呼ぶのもおこがましいぐらいだった。

 絶好調でないにしても、一日休めばすっかり回復していた。


「どう?」


 眠たくなるような心地よさが引いていき、エニの治療は終わった。


「……少し楽になったな」


 ジケは手を握ったり開いたりして体の調子を確かめる。

 完全回復とはいかなかった。


 まだ体の中に牙でも刺さっているかのような重たさがある。

 それでもかなり楽になった。


 体に力を入れると鈍い痛みのようなものが全身を駆け巡っていたが、今は痛みのような感覚はだいぶやわらいで普通の筋肉痛ぐらいだ。

 これぐらいの感じなら体は動かせる。


 ジケの調子が回復したのを見てフィオスがジケの上に飛び乗る。

 軽くて負担にならないフィオスすら抱きかかえていることも辛かった。


 だからなのかフィオスもジケに抱きかかえられるのを遠慮していたような感じがあった。

 賢いスライムであると、フィオスのことを撫でてやる。


「エニ、ありがと」


「うん」


 お礼を言うとエニは優しく笑顔を浮かべる。


「あー、なんだか俺も体痛い気がしてきたなー」


「あんたさっき自分で平気だって言ったでしょ」


 ライナスは羨ましくなって、ちょっと腕を回してみたりしてアピールしたが、エニに冷たく見られただけだった。

 流石に今アピールするのは遅すぎである。


「ちぇっ……」


「とりあえずもう一日ぐらい休んで明日、札出しに行くか」


「おっけ。今日は俺もここで寝るわ」


「ご飯できたよー」


「美味しくて栄養満点!」


 いい匂いが漂ってきているのはみんな感じていた。

 タミとケリが大きな皿に乗せた食べきれないほどの料理を持ってきた。


「おっ! 二人の料理も恋しかったぜ!」


 タミとケリの料理を見てライナスが目を輝かせる。

 意外と移動の時間も長かった。


 タミとケリの温かい手料理も食べたいと思っていたところである。


「うんま!」


「流石だな」


「へへぇ!」


「昨日良いお肉手に入ったんだ!」


 料理を褒められてタミとケリは嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 二人の笑顔が見たくて、みんな口に出して褒めるようになった。


 タミとケリもニッコニコだし良い習慣となっている。

 お腹が満ちた後はジケとライナスはお風呂に入って体を綺麗にして、アラクネノネドコで眠りについたのだった。


 ーーーーー


「ねえねえ、札いらない?」


「札?」


「うん! 武闘大会のやつ。今ならこれぐらいで売ってるよ」


 ゆっくり休んでだいぶ体の調子はマシになった。

 ジケとライナス、そしてリアーネはコロシアムにある受付に札を出しに行こうと家を出た。


 そこでジケは貧民の子供に声をかけられた。

 周りを気にしながら、貧民の子供は札をチラリとジケに見せる。


 指を立てて、いくらなのかをアピールする。


「……買うよ」


「本当? ありがと!」


 期待するような目で見られて、ジケは札を買うことにした。


「よかったのか?」


 札はもう揃っている。

 買う必要なんてない。


「あれも戦略……だからな」


 おそらくあの子は最初から武闘大会になんて出るつもりはなかったのだろう、とジケは思った。

 周りにバレないように札を持ち続け、機会を待っていたのだ。


 期限が近づけば、戦うより金でも払った方が早いと考える人が出てもおかしくはない。

 勝ち抜けるか分からない武闘大会に出るよりも自分の札を買い取ってもらった方が、貧民の子供にとっては価値があるのだ。


 札はいらないが、ジケも貧民の子供の生存戦略を理解した。

 きっと勇気を出しただろう。


 相手を間違えればただ札を奪われることになる。

 ジケなら買ってくれるかもしれないと思ったのだ。


 カモにされた言われればそうかもしれないが、払った金額も決して多額ではない。

 一枚しか札を持っておらず無駄になるぐらいなら、買い取ってあげたのである。

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