最後の足掻き2
「……リアーネ、気をつけろ」
「……そうだな」
町に近づくと人が見えてきた。
人がいること自体はいいのだけど、道の端で休んでいるのは少し不自然にも見える。
「どういうことだ?」
「もう大会の期限まで時間がない。離れた町で隠された札なんて探してる暇なんてないだろうさ」
「あー、なるほどな」
「ここから札提出まで気が抜けないぞ」
最初の頃は奪えそうな人も多くて奪い合いが激化した。
そこから少し落ち着いて、今は期限が迫ってきたために札が足りない人たちが焦っている。
今ここで戻ってくる人たちは札を集めて戻ってきた人たちである可能性が高い。
札を探しているよりも、人の札を奪った方が早い。
なおかつ戻ってくる人を狙った方が札を持っている確率が高いとなれば、もう何が目的は言わずともわかる。
道端にいる人は、札を奪えそうな人を物色しているのだ。
「お前らも気をつけろよ? 特にジケ。今ヘロヘロなんだからさ」
見たところ大人なのでジケとライナスは狙われていないだろう。
しかし、子供で同じようなことをしている人がいないとも限らない。
今はジケがまだ回復していないから襲われたら対処が難しいかもしれない。
「じゃあさ、先に一回帰るか? まだちょっと余裕はあるし、家に帰りゃエニいるだろ?」
まだ二日ほど時間はある。
今すぐに札を提出しなければならないというわけではない。
コロシアムの方ではなく、貧民街の方に向かって行って襲ってくる人はいないだろう。
「一日ぐらい休んでから行っても大丈夫だろうしな」
「うん、その通りだな。ジケのためにも一度帰ろうか。私もアラクネノネドコが恋しいよ」
ライナスのいう通り、ジケの回復を待ってもいい。
「札寄越せぇ!」
「ええい! 邪魔だボケナス!」
急に飛びかかってきた人もいたけれど、リアーネの拳によって殴り飛ばされていた。
女だからと襲いかかってくるやつに強い奴はいない。
リアーネは札を多めに持っているし別にこれ以上必要としていないので、殴り飛ばした相手のことは無視してそのまま走り続ける。
「チッ……めんどくせぇ……」
町に着くまでに何回かリアーネは襲撃されていた。
この町で活動する冒険者ならリアーネのことは知ってるだろうから襲わない。
きっとよそから来た人なのだろうなとジケは思っていた。
同じように襲撃を狙っていた子供もいたけれど、デカい虎に乗ったライナスに勝負を挑む勇気のある子はいなかったようである。
「ただいま〜」
「おかえり〜ってジケ!? どうしたの!」
「ジケ兄?」
「誰かにやられた?」
町についたのでセントスとケフベラスから降りて、貧民街の方に向かう。
コロシアムからは離れる形となり、貧民街に入る頃にはすっかり襲われなくなった。
家に帰るとエニとタミとケリがいた。
ライナスに肩を支えられてヨロヨロと帰ってきたジケを見て、三人は慌てたように駆け寄ってくる。
「やられたっちゃ、やられたかな……」
「また危ないことしたんでしょ!」
「しょうがなかったんだよ……」
ジケとて危険に首を突っ込むつもりはなかった。
だけど子供たちの命がかかっていたのでしょうがないのだ。
それにこんなふうになったのも想定外の出来事である。
元気だったら何もバレないようにしたものを、と思ってしまう。
「待ってて!」
「元気になる料理作るから!」
タミとケリは台所に走っていく。
ただただ子供であった二人も、少しは大きくなったものである。
「それで……何したの?」
エニとライナスに支えられて椅子に座る。
リアーネはちょっくら寝てくるわ、なんて言って早速家に帰った。
「ええと……それは」
「……俺しーらね」
エニの圧力に、ジケはどう説明したものかと口ごもる。
ライナスに助けを求めるような視線を送るけれど、ライナスも目を逸らしてしまう。
「えと……」
下手な嘘はエニを怒らせるだけ。
ジケは小さくなりながら正直に起きたことを話した。
ただドラゴンのこととか、そのおかげで悪魔を倒せたことはちゃんと説明するのにジケもよく分かっていないので、なんか倒せたで押し通せた。
だから結果的には悪魔にやられて全身痛いというような感じになった。
「悪魔と戦った?」
「お、俺は止めたぜ?」
「おい、嘘つくなよ! 意気揚々とビクシムさん連れてきたろ!」
止めなかったのかという視線に、ライナスは一人で責任を逃れようとする。
ビクシムがいてもいなくても、子供たちのためにダンジョンには挑んだかもしれない。
しかし、ビクシムがいたから挑もうとなったことは否めない側面がある。
つまりはライナスにも責任はあるはずなのだ。
「また二人して……」
「悪かったよ……な?」
「しょうがなかったんだよ……な?」
拗ねたような顔をして睨まれて、ジケとライナスは引きつった笑顔を浮かべて誤魔化そうとする。
あの状況では助けを待っているような暇もなかった。
「俺たちがそんなの見過ごしてきた、なんていう方が嫌だろ?」
「…………それは、そう、かも?」
危ない人がいるけど、危なそうだから無視してきました。
それは安全かもしれないがジケたちらしくないし、そんなふうにしてきたと聞いたら確かにモヤっとはするだろうとエニも思う。




