最後の足掻き1
村の方で二日ほど休み、ようやく動けるようになった。
本当はもうちょっと休みたいところなのだけど、武闘大会の期限がある。
「ああああ……振動がぁ……」
「我慢しろって! うるさいぞ!」
「ライナスにうるさいって言われるようじゃ終わりだな……」
「おい、乗せてやってんだぞ!」
ジケのひょこひょこ歩きではいつになったら帰れるか分からない。
仕方なくセントスの背に乗って帰ることになったのだけど、セントスの背中は揺れる。
普通の時なら多少揺れようとも何ともないのだけど、今はまだ全身筋肉痛のようなもので揺れるとすごく響くのだ。
それでもちゃんと帰らねばならないから、それなりの速度を出さなきゃいけないという酷い状態だった。
「にしても何なんだろうな? フィオスでも治せないんだろ?」
エニはいないがフィオスはいる。
魔法で治療はできないが、ポーションを出すことができる。
フィオスポーションを飲んだり、体に塗ってみたりしたのだけど不思議な筋肉痛には効果がなかった。
エニなら治せたのかなとちょっと考えるけれど、いないものを考えてもしょうがない。
恨むべきはドラゴンなのだ。
ジケはそっと胸に手を当てる。
少し魔力が増えたような感じがする。
ジケは今アーティファクトの効果で他の人からも魔力を受け取っている。
といっても、他の人から受け取れる魔力もフィオス一体分なので、増えたところで微増である。
人と魔物が契約する魔法を授けたドラゴンが贈ったアーティファクトだと、エスタルが言っていたことを思い出す。
ドラゴンの牙の先っちょ出てきているとも言っていた。
「あのドラゴンが……最初のドラゴンなのかな」
「ん? 何だって?」
「いや、独り言だよ」
金色のドラゴンは優しい目をしていた。
こんな状態にはなってしまったが、悪魔を倒して助けてくれた。
魔獣と繋がり、夢や希望、魔力を得られるようにしてくれた。
そしてそれらを悪魔が子供から搾取しようとしたからドラゴンは怒ったのだ。
アーティファクトは帰属型で、今はジケの中に取り込まれてしまっていてどこにあるのかわからない。
自分の中にあるのだろうことは分かるが、体のどこかにあるというよりは体の中に溶け込んでしまっている感じだ。
ドラゴンならもっとスマートな助け方はなかったのかと思うが、助けてもらった以上文句も言えない。
何だか魔力も増えた気がするし、体はいつか癒える。
全身筋肉痛のような感じで動けなくなるなんて一瞬のデメリットであると言えるのかもしれない。
「にしてもよぅ……」
「ん?」
「あの笛、持ってきて大丈夫だったのか?」
剣も受け止められるほど頑丈な、悪魔が持っていた笛は今ジケたちの荷物の中にある。
悪魔はジケドラゴンに倒されて消滅したのだけど、笛の方は消えずに残った。
ダンジョンの中に放置してきたのに、なぜかダンジョンが消えたあとに笛はダンジョンから吐き出されて落ちていたのだ。
悪魔が持っていた笛なんて危険なもの触れたくはないが、そこらへんに放置しておいていいものでもない。
本当ならビクシムがどうにかしてくれるのがいいのだけど、ビクシムもビクシムで契約場に来る人に対応せねばならない。
そこでジケたちがどうにかすることになった。
「大丈夫かどうかは知らないけど……村の近くに捨てておけないだろ?」
「まあ、そうだけどさ……」
「大神殿に持ってくだけだし触んなきゃ大丈夫だろ、たぶん」
どうにかするといってもちゃんとどうするかは決めてある。
悪魔関連の怪しいものなのだから、然るべきところに持ち込むべきである。
然るべきところとはもちろん大神殿だ。
ビクシムが事の次第を書いてくれた手紙を持たせてくれたので、あれこれと説明することもなく大神殿に笛を預けてしまえばいい。
笛も直接手で触れないように、布でぐるぐる巻きにしてある。
「笛はいいとしてさ」
「おう」
「あの悪魔……演奏下手くそだったよな」
「確かに」
ジケとライナスは笑ってしまう。
笛は良いものなのか音色は良かった。
なのに悪魔の演奏が下手くそで良い音色が台無しだった。
いかにも得意げに吹いていたのに、下手くそというところが何だかおかしく感じてしまう。
「俺も別に楽器できるわけじゃないけど、もうちょいまともに吹けるような気がするぜ」
「俺はちょっとならできるよ」
「えっ、うそ!?」
「笛じゃなくて弦楽器だけどな」
「聞いたことないぞ!」
「まあ、お前の前でやったことないしな」
ジケはちょっとなら楽器を演奏できる。
ただそれは過去にやったことがあるからだった。
何もすることがない手持ち無沙汰の時に、同じく暇を持て余している人から習ったのだ。
流しの演奏なんかでお金を稼げないかなと思ったけれど、楽器を用意してちゃんと手入れするのも大変で諦めてしまった。
だけど弾けることは弾けるのだった。
今回の人生では弾いたことないけど、ミュコとの剣舞ではリズム感は失われていなかったので弾けるはずだ。
「今度演奏見せてくれよ」
ジケたちと並走するリアーネも話を聞いていた。
楽器が演奏できると聞いたら聞いてみたくなるのが人である。
「また今度な」
「ははっ、楽しみだな」
町が見えてきた。
慣れ親しんだ景色に少しホッとする。




