謝罪の理由
夢を見た。
目の前にドラゴンがいるのだ。
黄金に輝く鱗を持つ巨大なドラゴンである。
ただなぜなのか、ジケなんか簡単に飲み込めてしまいそうな大きな口の、大きな牙の、先端ばかりを見ていたために、あまり全体をよく覚えていない。
強いていえば、鱗と同じく金色に輝く優しい目をしていたことは覚えている。
「悪かったな」
「何が?」
「君の体を少し借りた」
「どうして?」
「悪魔が夢や希望、そして魔獣と繋がって得た魔力を奪おうとしたからだ。それは我が守ろうとしたもの……奪われることは我慢ならなかったのだ」
「守れた?」
頭の中に響いてくるような低い声でドラゴンは話す。
それなのにジケは相変わらず牙の先っちょばかりを見ている。
「守れた。あんな小物、我の敵ではないからな」
「そっか。なら良かったよ」
「ふふふ、そう言ってくれて助かるよ。だがもうこんなことは起こらないだろう。我はただの思念に過ぎない。本来こうして出てくるものではないのだから」
「助けてくれてありがとね」
「よいさ。君の活躍は見ている。我は君と共にあるからな。少しでも君の助けになれているなら嬉しいよ」
「すごく助かってる」
ジケはなんとなくドラゴンの正体を察していた。
「ドラゴンってすごいね。牙の先だけでもこんなことできちゃうんだ」
「我が特別なのだ」
ドラゴンは目を細めて笑う。
「そろそろ行かねばな。我は眠ろう。君は起きて帰るといい。少しばかり贈り物もしておく。体に負担をかけてしまったからな」
「贈り物?」
ドラゴンは翼を広げる。
一度羽ばたかせるだけで、吹き飛んでしまいそうな風が巻き起こる。
そのまま何回か翼を動かすとドラゴンは空に飛び上がる。
「魔獣と共にある少年よ! 君には夢も希望もある。我が望み描いた関係を君は築いている!」
ドラゴンはそのまま飛んで離れていく。
「達者でな。これからも君の物語を見せてくれ」
ドラゴンが飛んでいくとジケは自分が真っ白な霧に包まれていった。
「あれがドラゴンか……本当にいるんだな」
もはや御伽話のような存在のドラゴンに会った。
ジケが目を閉じると意識は霧に混ざってぼんやりとしていったのだった。
ーーーーー
「あっ! ジケ!」
目を覚ますとそこは外だった。
日が昇っていて、上から覗き込むようにライナスが見ていた。
「……ここは?」
「ダンジョンの前だよ」
ぼんやりとしたままライナスに尋ねる。
ジケはダンジョンの外に運び出されていた。
「悪魔が倒されて……子供たちは解放された。けどみんなまだ気を失ったままで、外に運び出すのに村の人の助けを借りたんだ」
ライナスは箱に閉じ込められてから時間が経っていなかったせいかすぐに目覚めたのだけど、他の子供たちはまだ意識が戻らなかった。
リアーネとビクシムだけで運び出すことには限界があったので、子供たちの村の人に協力を求めたのだ。
「そうなん……にっ!?」
「ジケ? どうした?」
体を起こそうとしたジケが突如変な声をあげてライナスは慌てる。
「体……痛い」
ジケは涙目でライナスのことを見る。
起きた直後は自覚がなかったのだけど、ほんの少しでも体を動かすと全身に鈍い痛みが走る。
激しく動いた後の筋肉痛を何倍にもしたような痛みだ。
全身どこも痛い。
「…………えいっ」
「うぎゃあ! さ、触んな!」
イタズラっぽく笑ったライナスがチョンとジケの体をつついた。
体に電撃が走ったようだった。
「……くそっ…………あの謝罪そういうことだったのかよ!」
うっすらとドラゴンのことは覚えている。
謝ることなんてないと思っていたけど、体がこんなふうになっているから謝っていたのだと察した。
「ツンツン!」
「や、やめろ!」
「くひひ……こんなジケ珍しいな。おっ? ……まあフィオスに免じてやめてやるか」
「にっ!?」
ライナスが悪い顔でジケのことをツンツンしていたらフィオスがライナスにぺちょっと体当たりした。
契約者たるジケのことを守ろうとしているようにライナスには見えた。
ジケのおかげで助かったのだし、イタズラはこれぐらいにしておこうとライナスは最後に一突きする。
「くっそぅ……」
「何はともあれ事件は解決だ。師匠が見た感じでは子供たちに命の別状はないってさ」
「そっか。まあ……ならいっか」




