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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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畏怖せよ3

「ジケ! 大丈夫か!」


 ジケに迫る黒いモヤのドラゴンの前足をリアーネが切り裂く。

 いつの間にかゾンビマウスも全て倒されている。


「げっ!」


 黒いモヤのドラゴンが口を大きく開けてブレスを放つ。

 ビクシムはジケが見抜いた悪魔の場所を切り裂いて、悪魔を探し出して攻撃しているが悪魔はビクシムの攻撃を笛のみで防いでみせる。


「リアーネ、下がれ!」


 流石にブレスはリアーネでも対処が厳しい。

 ジケが前に出てブレスに向かって剣を振る。


 本物のドラゴンならそんなことはできなかっただろうが、今相手にしているのは偽物のドラゴンである。

 ジケの斬撃が黒いモヤのドラゴンの黒いモヤのブレスを切り裂く。


 ブレスが二つに割れてなんとか防ぐことができた。

 ビクシムの方は黒いモヤに包まれる前に引き下がり、また悪魔は黒いモヤのドラゴンの中を移動する。


「すごくめんどくさい相手だな……」


 やり方がずるい。

 ただビクシムの攻撃を防げるような能力の高さはある。


「次はどこにいった?」


「次は……ん?」


 また逃げながらビクシムに悪魔の位置を伝えようとしたジケは、足を掴まれて動けなくなった。

 視線を下げるとそこにはライナスがいた。


「ライナス? おいっ!」


 よく見るとライナスはうつろな目をしている。


「あっ……やばっ、まずっ!」


 笛の音にやられてまともな状態じゃないのは見てすぐに分かった。

 知らない他人なら殴り飛ばしてしまうのだけど、ライナス相手ではジケも少し攻撃をためらってしまった。


 どうやら操られているのか、ライナスはジケの足にしがみついたまま離さない。

 その隙をつくように黒いモヤのドラゴンの前足がジケとライナスに迫った。


「ジケ!」


 リアーネが横から黒いモヤの足を切るが、完全に切り裂くことができなくてそのままジケとライナスを押しつぶすように飲み込んだ。


「ジケ、ライナス! コンニャロ!」


 黒いモヤの中に包まれて、ジケとライナスの姿が見えなくなる。

 リアーネは再び前足を切り飛ばして二人を助けようとする。


 黒いモヤがどんな攻撃なのか分かっていない。

 物理的な攻撃力を持つなら二人はもう助からないかもしれない。


「……なんだこりゃ?」


 切り裂かれて消えた黒いモヤの下、ライナスの姿があった。

 他の子供たちと同じように水晶で出来たような長方形の箱の中に閉じ込められている。


「ジケは!」


 しかしジケの姿はない。


「この野郎……ジケのことどうしやがった!」


 リアーネは黒いモヤのドラゴンを睨みつけた。


 ーーーーー


「笛に惑わされない……不思議な子だ」


 痛みはなかった。

 黒いモヤに押しつぶされたと思ったのだけど、気づくと水の中に投げ出されたかのようにぷかぷか黒いモヤの中を漂っていた。


 すごく妙な気分だ。


「大人になると夢を忘れる。希望は現実にすり替わり、子供の頃に抱いていたはずの恐怖がどこかへいってしまう……」


 闇のように真っ暗な黒いモヤの中を漂っていくと目の前に悪魔が現れた。


「子供だ……なのに笛の音が効かない。精神的には大人? だが希望には満ちている。夢もある……」


 悪魔は手を伸ばしてジケの頬に触れる。

 ライナスや他の子供たちが封じ込められている不思議な水晶がジケの頬にもついていた。


「…………大人なのに子供。子供なのに……大人」


 精神的に早熟というだけの話ではないと悪魔は思った。

 大人としての精神も持っているが、子供としての精神も持っている。


 面白いなと悪魔は思った。


「何がそうさせている」


 好奇心を刺激された悪魔は笛を口に咥える。

 ゆっくりと笛を吹き始める。


「お前は何者だ」


「…………俺は、ジケだ」


「お前は何者だ」


「…………俺はフィオス商会の会長をしている」


 ぼんやりとした目のジケはぼんやりと答える。


「お前は何者だ」


「…………俺は貧民街に住んでいる貧民だ」


「お前は何者だ」


「…………俺は、俺だ」


 同じ問いを繰り返す。

 望む答えを得られなくて悪魔は険しい顔をする。


「笛の音の効きがやはり悪い。お前のせいか?」


 フィオスは相変わらずジケの頭にかぶさっている。

 音が聞こえないほどに防いでいるわけではないが、スライム越しだと笛の効果が弱くなってしまうのかもしれないと悪魔は思った。


「少し笛を強めよう。命は危ないかもしれないが……どの道生から解放するつもりなのだから、いいだろう。さて……お前は何者……なんだ!」


 急に何かに見られた。

 強烈な視線を感じて悪魔は振り返るが何もいない。


 目の前にはジケだけ。


「なんだ?」


 一瞬感じた視線の正体に悪魔は不安を感じた。

 なんなのかは分からないが危険な気がしてならないのだ。


「不遜なもの……」


 ジケがボソリと呟いた。

 悪魔がジケのことを見る。


「貴様……何者だ!」


 ジケの右目が金色になっている。

 左目は相変わらずうつろで、金の右目からは悪魔すら圧倒するような気配を感じさせていた。


「なっ、ぐっ!」


 黒いモヤが集まって手のような形となり、悪魔の首を締め上げる。


「何者……か。もはや名前も忘れたな」


 ジケの声ではある。

 だけどどこか低く、話し方もジケっぽくない。


 何か別のものがジケの中にいる。

 悪魔はそう思った。

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フィオス神がとうとう表に……?
もしかして、牙の…?
とうとう・・・
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