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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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畏怖せよ1

「子供を集めてどうするつもりだ?」


「子供というのは素晴らしい。夢が詰まってる。希望が詰まってる。エネルギーが詰まっている」


 まともに答えるとも思っていなかったが、悪魔はビクシムの質問に答えた。


「子供の力を少しばかりもらうのさ。子供は楽しい夢を見る。私は子供のエネルギーをもらえる。何も悪いことはない」


「本当にそれだけなのか? 終わったら解放するつもりなのか?」


「ああ、そのつもりさ」


 予想外の答えにビクシムは眉をひそめた。

 良いやつとは思わないが、殺すつもりがないのならそれほど悪い悪魔でもないのかもしれないとは少しだけ思った。


「生から解放する。子供たちは夢のままに自由になるのさ」


 前言撤回。

 悪魔は悪魔だ。


 ニヤリと笑う悪魔はやはり子供を殺すつもりだ。

 解放などと言葉遊びをするけれど、結局やることになんの変わりもないのである。


「生からの解放も、夢を見せるのも余計なお世話だな」


「何を言う? 生きるのは辛い。幸せな夢を見て、幸せなままに解放されるのだよ。これほど良いことはない」


「何が幸せかは当人たちが決めることだ。お前が勝手に決めて良いことではない。夢や希望……たとえくじけることがあろうとも自分の手で掴み取ることが肝要なのだ」


「大人になれば夢や希望など忘れてしまうのだ。辛い現実を知り、いかようにもならない世界の非情さが笛の音すら忘れさせる。そうなる前に夢のままにしてやるのがいいのさ」


「はぁ……話にならんな」


 ビクシムは盛大にため息をつく。

 話が通じるとは思っていなかった。


 悪魔相手に話し合いで解決しようなんて、それこそ傲慢な考えである。

 だが想像通りに歪んでいるとしか言いようがない。


「子供たちを解放してもらおう。何が幸せなのかは彼ら自身に決めてもらう。何を幸せとするかはこれからの彼らに任せる」


 ビクシムは剣を構える。

 そして次の瞬間には悪魔に向かって剣を振り下ろしていた。


「話を聞かない人間だ」


 悪魔は手に持っていた笛で剣を受け止める。

 剣はびくともせず、枝のような細い腕のどこにそんな力があるのかと驚いてしまう。


「ではこうしよう」


 ビクシムを押し返した悪魔は座った状態から大きく飛び上がる。

 笛を口につけると演奏し始める。


「何を……」


 下手くそな演奏を聞いてもビクシムに影響はない。

 しかし子供たちが囚われている箱から黒いモヤのようなものが立ち上り始めた。


 中にいる子供たちは苦悶の表情を浮かべ、どこか苦しそうにしている。


「夢と希望……それ以外に恐怖も子供の中には詰まっている」


 黒いモヤは悪魔の方に集まっていく。


「知っているかい? この辺りでは悪さをすると悪いドラゴンに連れ去られてしまうなんて話がある」


 悪いことをすると何かにさらわれたりするなどと子供を叱りつけるのはよくあることだ。

 それが悪い魔法使いだったり、ゴブリンだったりその地域によって色々と異なるものだが、近くの村ではドラゴンがその相手だった。


 悪いことをすると夜、悪いドラゴンがやってきて食べられてしまう。

 親が子供を叱るときに口にする常套句なのである。


「子供は純粋だ。悪いドラゴンに潜在的な恐怖を抱く。そして恐怖もまた、エネルギーだ」


 黒いモヤが悪魔を包み込み、大きくなっていく。


「恐怖に飲まれるといい」


 黒いモヤは一つの形を成した。

 大きく翼を広げたそれはドラゴンの姿をしていた。


「ふん、子供騙しだな」


 黒いドラゴンが前足を振り下ろす。

 ビクシムが剣を振ると、ドラゴンの前足が細切れになる。


「本物ならともかく、そんなもので俺が倒せると思うのか!」


 飛び上がったビクシムはドラゴンの首を刎ね飛ばす。


「はははっ、恐怖は切れぬよ」


「ぬっ!」


 ドラゴンが残った前足を横に振り、ビクシムは魔力を足から噴出させてさらに飛び上がって回避する。

 モヤが動いて、切られた頭と前足が戻っていく。


「恐怖に打ち勝つ? そんなことはできない」


 笛の音が聞こえて、ドラゴンが口を大きく開けて黒いモヤのブレスを放つ。


 ーーーーー


「うげぇ……なんだよあれ……」


 まさしく化け物同士の戦いだなと、ゾンビマウスを斬りながら横目でビクシムの戦いを見ていた。

 黒いモヤのドラゴンとビクシムは戦っている。


「なんだか嫌な感じがするもんだな」


 黒いモヤのドラゴンを見ていると、すごく胸がざわつくとジケは思った。

 ビクシムは黒いモヤのドラゴンの攻撃をかわして反撃しているが、黒いモヤのドラゴンはすぐに再生してしまう。


 あのまま黒いモヤのドラゴンを相手にするのは分が悪そうだ。


「こっちは数減ってきたし、早く倒してあっちに加勢すっか!」


 永遠と出てくるのではないかと感じられるほどにワラワラと寄ってくるゾンビマウスの数も、少しずつだが減っていた。

 ゾンビマウスを倒し切ればビクシムの加勢に行くこともできるだろう。


「なんだろうな、この胸のざわつき」


 非常に胸がざわついて落ち着かない。

 その理由が分からなくてジケはソワソワとしてしまう。


 だが今は目の前の敵に集中せねばならない。


「はっ!」

 

 ジケは飛びかかってきたゾンビマウスを斬り裂いた。

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