笛を吹くモノの正体2
「俺たちも行くぞ!」
ビクシムに続いてライナスも意気揚々とダンジョンに入っていく。
「行こうか、リアーネ」
「今度は私も一緒だな」
石切場のダンジョンでは入り口が狭くてリアーネはロープ係だった。
今回はリアーネも堂々と入れる入り口の広さをしている。
ジケとリアーネもダンジョンの中に入る。
「……なんだここ?」
「ちょっと不謹慎かもしれないけど、綺麗だな」
ダンジョンの中は満天の星空だった。
どこかの草原のど真ん中で、時間は夜。
空には眩いほどの星が煌めいている。
こんな状況でなければ、純粋に美しいと思えただろう光景であった。
「敵はあちらだな」
ダンジョンの中に入ると笛の音が強く聞こえていた。
ビクシムは音の方向を睨みつける。
少し盛り上がった丘のようになっていて、星空を背景にした黒いシルエットで浮かび上がる何かが笛を吹いている。
「ライナス、ジケ殿、大丈夫か?」
ビクシムは二人の様子を確認する。
「俺は大丈夫です」
「んー、なんとか」
フィオス越しに音を聞いているジケの方はまだ平気だった。
そもそも音を聞いてもライナスよりも影響は弱かった。
精神的に大人なところがあるからかもしれない。
だがライナスは布から貫通して聞こえてくる音が頭の中で反響するような思いだった。
「……大丈夫っす!」
ライナスは両手で自分の頬をバチンと叩いた。
こんなところで惑わされて、足手まといになるわけにはいかないと気合を入れ直す。
「……行くぞ」
ビクシムはそれ以上何も言わずに笛の音がする方向に歩き出す。
「来るぞ」
動かないでいると闇に溶け込んでいて分かりにくいが、魔物もしっかりと存在していた。
黒い影が動いて近づいてくる。
「うげっ! なんだありゃ……」
「ネズミ? でもなんだか……」
「ネズミのアンデッドだな」
「ゾンビマウス……といったところだな」
黒い影が近づいてくると星のあかりに照らされて姿が見える。
現れたのはジケやライナスぐらいの大きさのネズミだった。
ただ様子がおかしい。
皮膚はところどころただれていて、目には正気が感じられない。
普通のネズミではなく、ネズミがアンデッドとして復活したゾンビのネズミなのであった。
腐れ具合もそれぞれで、ほぼ毛がなく全身ただれているネズミもいる。
見た目的にはあまり気持ちのいい相手ではない。
「アンデッドはダメージに対して鈍い。反撃に気をつけろ!」
ゾンビマウスは奇妙な声を上げながら襲いかかってくる。
アンデッド系の魔物は、要するにもう死んでいる。
そのために攻撃を受けても痛みに反応がない場合が多い。
普通ならば痛みで怯んだり、攻撃を受ける恐怖で反撃も鈍るはずなのだけど、そんなことも関係なく攻撃してくる可能性があるのだ。
油断していると手痛い反撃を食らってしまうかもしれないのである。
「攻撃した後の行動を考えておくか……」
ビクシムは飛びかかってきたゾンビマウスを一撃で真っ二つに切り裂く。
「こうしてさっさと倒すかだ」
痛みを感じなくとも、生き物が死ぬ程度の損傷を受ければゾンビも倒せる。
流石に不死身というわけじゃない。
「はっ!」
「おりゃっ!」
ジケとライナスもゾンビマウスと戦う。
ゾンビマウスの飛びつきをかわしたジケは下から剣を振り上げて、相手の首を斬り飛ばす。
ライナスもできるだけ正面にいないように立ち回りながら、ゾンビマウスのことを斬りつけている。
「死んでんなら死んでろよ!」
リアーネも大きな剣を振り回す。
力を活かした戦いはリアーネの得意分野で、特に硬くもないゾンビマウスは簡単に両断されていく。
ゾンビマウスはあまり知能という面では賢くないのか、攻撃は飛びかかってきたり爪を振り下ろしてきたりするだけで単調である。
ただ次々とゾンビマウスは襲いかかってくる。
周りは戦う分にはいいが、見通すには暗くてゾンビマウスがどれだけいるのかもわからない。
それでもゾンビマウスを蹴散らしながら前に進んでいく。
「あれはなんだ……?」
魔力感知で周りを見ているジケは、少し先に何かがあることに気づいた。
何かの箱のようなもの。
表面はつるんとしていて、切れ目はなくて表面しか感知できない。
長方形の大きな結晶の塊のようだと思った。
「くっ……」
進むほどに笛の音は大きく聞こえてくる。
ライナスは笛の音が頭に響いて顔をしかめる。
「うわっ!? なんだこりゃ!」
進んでいくとジケが感知していた箱の近くまで来て、目で見えるようになった。
「子供?」
「他にもたくさんあるな……」
やや黒っぽい色をした透明の箱の中には子供が寝かされている。
箱はそれ一つだけじゃない。
丘の中心に向かうようにして、いくつもの子供が閉じ込められた箱が並んでいる。
「はっ! ……硬えな!」
子供を助けようと箱の端の方をリアーネが試しに切りつける。
しかし刃は通らず、箱が切れるどころか欠けたり傷つくことすらなかった。
「ライナス、何があるか分からないから触るな!」
「あ、はい!」
一体なんだろうとライナスは箱に触れようとしたが、正体不明の箱は触れるのも危ないかもしれない。
ビクシムに叱責されてライナスは手を引っ込める。




