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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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お祭りの始まり1

「セントスのおかげで早かったな」


 ジケたちはフルクラースという町に来ていた。

 アドラスという選択肢もあったのだけど、こちらに来たのは理由がある。


 アドラスとフルクラースを比べた時に遠いのはフルクラースの町だった。

 アドラスだと二日、フルクラースだと三日ぐらいという距離になる。


 人がどちらに向かうかを考えた時に、近いアドラスの方に向かう人が多いだろうと考えた。

 アドラスとフルクラースそのものも一日や二日といった距離なので横の移動はあるかもしれないが、今のところフルクラースの方が少ないはずである。


 子供の足なら三日、下手すれば四日掛かっておかしくないところをライナスとセントスのおかげで二日でたどり着くことができた。


「えっとこれからどうすんだ?」


「お前こそどうするつもりなんだ?」


 ここまで一緒に来たけど、一応同じく予選突破を狙うライバルではある。

 なんだか普通に一緒にいるけど、それでいいのかとジケは思った。


「お前についてくぜ!」


 全く悩むこともなく親指を立ててライナスは答えた。

 それでよかったらしい。


「そんな目すんなよ。俺だって戦略考えてんだからさ」


「戦略? まさか……」


 ジケは札を守っているフィオスをサッと隠すようにする。


「いやいやいや、ちげーって!」


 ジケの札を狙うというのがライナスの戦略ではない。


「まあなし崩し的に一緒に移動したわけだけど、何も言われなかったわけじゃん?」


 フルクラースまでの間にもいくつか休憩所があった。

 ライナスのことを知っているような兵士も休憩所の見張りとして立っていることもあったが、ジケやリアーネと一緒にいて何か言われることはなかった。


「つまり! 他のやつと手を組んでもオッケーなんだよ!」


 ライナスはドヤ顔しながらフンスと鼻息を荒く吐き出す。


「あれだけ人がいて、一人動くのは危ない……ジケ、お前なら信用できるし、なんだか札も見つけられそうだからだぁ!」


 ライナスは腰に手を当てて胸を張る。

 戦略というほどの戦略ではない。


 だがまあ、ライナスらしい。


「ここで戦って札奪い合ってもいいけど……それじゃあつまんないだろ?」


「……そうだな」


 どうせなら共に予選を突破して、本戦の舞台で戦いたい。

 そのために今は手を取り合おうというのである。


「予選突破しよーぜ」


 ライナスはニッと笑って拳を突き出す。


「そうだな」


 ジケも同じくニッと笑うと、ライナスの拳に自分の拳を合わせるようにぶつけた。


「くぅ〜、こういうのいいよな、ケフベラス!」


 男同士の友情。

 大人になったら滅多に見られることがない青春の光景をリアーネは近くて見ていた。


 意外とこういうの大好きなリアーネは、居ても立っても居られなくてケフベラスのことを激しく撫で回す。

 ケフベラスの方はすごく迷惑そうな顔をしている。


「リアーネはどうする?」


「うーん、じゃあ私も二人と一緒にいるかな」


 リアーネは撫で回されてボサボサになったケフベラスを逆召喚して送り返す。

 大人部門であるリアーネはジケたちから札を奪うことはできない。


 特に利益がぶつかるわけでもないので一緒にいてもいいだろう。

 悪い大人がジケとライナスのこと狙ったら、ぶっ飛ばしてやると密かに思っていた。


「もうすぐ奪い合いが始まるな。その前に宿探すか」


 札の奪い合いそのものは昼過ぎから始まる。

 セントスのおかげでギリギリその前についたので、安心できる場所を確保しておきたいとジケは考えた。


 ゆるゆるなルールではあるものの、町の人を巻き込んだりお店なんかの建物の中で戦うのは禁じられている。

 当然宿も部屋の中で戦うことはダメである。


 油断ができないことは外と変わりないが、戦いにならないだけ体を休めることはできる。


「いくぞ、ライナス、リアーネ!」


「おうよ、相棒!」


「オネーサンが守ってやるよ!」


 ジケはライナスとリアーネを引き連れてフルクラースの町に入っていく。


「やっぱり人が多いな」


 町中には人が溢れている。

 普通の住人に加えて武闘大会の参加者がいるのだから当然の話である。


 さらに監視や問題対処のために武装した兵士もそこら中を歩いているのだ。


「こん中で誰が札持ってるか……分かるな」


 分からないと言いかけて、分かるなとライナスは思った。

 参加者かどうか分からない人もいるだろうが、明らかにギラギラとした顔をして周りのことを見ている人が何人かいる。


 どう見ても大会参加者であり、札を持っている人を探していたり札そのものがどこかにないか探しているのだろう。

 札の奪い合いが始まったからと誰にでも勝負をふっかけてもいけない。


 町の住人に攻撃すれば警備の兵士が飛んできて失格にされてしまう。

 それなりに札を持っている可能性がありそうな相手を狙わないといけないので、意外と相手を見極めるのも大変だろう。


 札を持っていて勝てそうな相手を見つけたらすぐにでも戦い始めるつもりで、ギラついた目で道ゆく人を物色している。


「怖いもんだな」


 今ならまだ弱い人も多い。

 奪い合いを仕掛けるなら今がチャンスなのかもしれない。


 しかし良い大人が弱そうな相手を物色している様子はちょっと見ていられない。

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