過去と未来に思いを馳せ
オランゼと共に新しく事業を始める準備を進める一方で、武闘大会の受付が始まった。
優勝すると無難にお金がもらえたり、国ができる範囲で願いを叶えてくれるなんて特典もあるようだ。
部門も子供部門、大人女性部門、大人男性部門と三つに分かれていた。
なかなかどこまでが子供が怪しいものだけど、一応ジケは子供部門での登録となっている。
身分証となる札をもらって、なくなさいでくださいねと言われた。
なんとなくだけど赤尾祭をちょっと参考にしている感じもある。
ただ身分証となる札を奪い合うことはないだろうなと思う。
でもやっぱり怖いのでフィオスの中で保管してもらう。
貧民街にいると分かりにくいが、平民街を歩くとやはり人が増えた感じがする。
武闘大会に参加するためか、イカついような人も多く見られる。
ライナスの方も人が増えたために、見回りやトラブル解決に忙しくしているようだ。
教会で働くエニや食堂で働くタミとケリもお客が増えて大変らしい。
その点でフィオス商会は割とのんびりしている。
体拭き事業の方は多少忙しいのかもしれない。
ただ事業のアイデアと水の確保がフィオス商会の役割で、それ以外の場所や布、人材などはオランゼの方なので、かかりきりになるほど忙しくもないのだ。
人が増えたけれど馬車の注文は今のところそんなに増えていない。
もうちょっとして武闘大会が始まれば商人や貴族も来て注文が入ることもあるだろうが、そんなに注文殺到とはいかないだろう。
「ただどうすんだろうな」
「何がですか?」
エニを教会に送った帰り、町の様子を眺めながらジケはつぶやいた。
つぶやきの意味が分からなくてユディットは首を傾げる。
「んー? 武闘大会だよ。なんか柄の悪い人も多いし、普段戦わないような人も記念にって参加しようとしてる」
武闘大会の出場に制限はない。
そのためやる気があれば登録することはできる。
しかし一大イベントで、賞金も出るとなればさまざまな人が集まる。
品行方正な人ばかりではなく、トラブルを起こすような人だって参加する。
さらには初めての武闘大会ということで、戦えないのに記念参加しようとしている人もちらほらと見てとれる。
別に柄の悪い人が参加しようと、戦えない人が記念に参加しようとジケは構わない。
しかしあまり人数が増えると、単純に戦って数を減らしていくだけでも時間がかかってしまう。
「永遠と戦わされるの……面倒だぞ」
赤尾祭を参考にしているなら最初は集団戦ということも考えられる。
ただそれでも数は多そうだ。
それに素人混じりだと、なかなか見ていられない戦いになりそうだ。
「予選みたいのあるのかな?」
「この調子で参加者増えるならあるかもしれませんね」
「まあせめて予選ぐらい通過しないと格好つかないよなぁ」
誰かに負けるのも悔しいが、世の中強い人はいるのだから負けてもしょうがないところはある。
ライナスには何か言われるかもしれないけれど、負けちゃったで済むだろう。
けれども予選すら勝ち抜けなかったら絶対後々バカにされる。
それだけは阻止せねばなるまいとジケは思った。
「なんだかんだ……闘技大会も目の前か」
そんなものが始まると聞いてからも色々あった。
問題はありつつもそれを乗り越えてコロシアムは完成した。
過去にはなかった出来事であり、これがどんな影響を及ぼすか、これからどうなっていくのかはジケも楽しみにしている。
コロシアムなんて作ったのだから、武闘大会がイベントとして定期的に開かれて定着していくことだろう。
新たなものが増えていく。
問題もあるのだろうが、変化は喜ばしいものだ。
闘技大会も、もうすぐであった。




