平和な日常2
「二人が出ていけって言ったって出ていかないんだからねぇ〜!」
「そんなこと言わない」
「言わなーい!」
エニがタミとケリを抱きしめて、二人もエニをギュッとする。
微笑ましい光景だ。
大変だとぼやいていたエニの機嫌も治ったようでよかったと、ジケはタミとケリが作ってくれた料理に手を伸ばす。
「そういえばジケの方はどうなの?」
「どうって何が?」
「闘技大会だっけ? もうすぐなんでしょ?」
気づけばコロシアムも完成して、あとは最終チェックを行い、本格的に闘技大会に参加する人を集めて、闘技大会が始まろうとしていた。
ライナスに誘われたので一応ジケも出るつもりだ。
闘技大会がどんな内容で行われるのか知らないけれども、やるだけのことはやってみるつもりだった。
「出るけど、申し込みしてこなきゃな」
「なんかもらえたりするの?」
「さあ……優勝したらもらえたりするんじゃないか?」
「まあ一応、応援してあげるけど」
「ありがとよ。細かい話はもうちょっとしたら出るはずだと思うけど」
やるからには優勝を目指したくは思うけど、そこまで高いモチベーションもない。
ただライナスには負けたくない。
「部門も分かれてて……リアーネさんとかも出るんだっけ?」
「その予定らしいな。獣人たちの赤尾祭みたいに子供部門と大人の男女になる……とか聞いたような」
今のところ闘技大会の公式的な細かい情報は出ていない。
こんな大会になる、あんな大会になるとみんなが噂している程度の話しかないのだ。
それでもある程度の方針は固まってきているのか、噂の中身もそれなりに似たようなものになってきていた。
「ミュコたちも忙しそうだしな」
人が集まれば商売のチャンスである。
コロシアムを見に来る人は多いだろうが、常にコロシアムで戦いを見ているとも限らない。
戦いに飽きたら演劇だって見ることもあるだろう。
ミュコたちの歌劇を観てもらう機会にもなるはずだと武闘大会に合わせて開演の準備を進めている。
「うちもなんか売れればよかったんだけどな」
残念ながらフィオス商会では軽く売れるようなものはない。
割とどの商品も需要が高く、取引の相手もある程度決まっているので、イベントがあるからと増産してホイホイ売れるわけじゃないのである。
こういった時に慌てて売らなくてもいいほどに儲けているといえばそうではある。
でもどうせなら、お祭り騒ぎに便乗したいという気持ちも何処かにはあったりするのだ。
「んー、じゃあ、あれは?」
「あれ?」
「お風呂! 人が増えるなら体洗いたい人も増えるでしょ?」
武闘大会となれば体を動かす人も増える。
そうなれば身をキレイにしたい人も自ずと増えるはずだ。
お風呂なら需要があるのではないかとエニは思った。
「でもあんまり人が来てもな……」
近くにある入浴施設はほとんど完成していて、今は貧民の人にほぼ無料で解放している。
おかげで貧民街なのにジケの周りはみんな小綺麗になったと密かに話題だったりする。
貧民の人たちに無料で解放ているところにワッと他の人に来られると対処も大変だ。
だからと言ってお金を取ると貧民の人との待遇の違いに不満が出そう。
新しくお風呂となる建物を建てるような時間もない。
「んじゃさ!」
「何かあるのか?」
「お湯だけちょっと提供したらどう?」
「お湯だけ?」
「うん!」
エニは得意げに笑顔を浮かべる。
「実際お風呂入らない人なんていっぱいいるわけじゃん?」
「まあ、そうだな」
「濡れた布で体拭くぐらいの人も多いと思う」
「うん」
お風呂に浸かるなんて割と贅沢。
普通は体を拭くぐらいである。
「でもさ、普通は冷たい水じゃん?」
「そうだな。わざわざお湯沸かしてくれるところや自分で沸かすのも面倒だしな」
「だからお風呂に浸かるまでもなく、でも体拭くのにお湯を贅沢に使えますよってのはどう?」
冷たい水で濡れた布で体を拭くのはなかなかキツイ時がある。
温かいお湯で体を拭ければ負担もなく、結構スッキリするのではとエニは考えた。
「なるほど……それは面白いかもな」
水を汲んできて、お湯を沸かして、あとはお湯を好きに使ってもらって体を拭いてもらう。
本来水を汲んでくる作業はとても面倒で重労働だが、ジケたちには水を運ぶための手段がある。
お風呂にするまでもない量ならお湯を絞り出すのもそんなに難しくない。
体拭くだけなら場所も大きくは必要ないだろう。
ジケの頭の中で計画が走り出す。
「うん、確かにいけそうだな」
「でしょ?」
ニヒッとエニは笑った。
ジケがお風呂に入りたいからと色々段階をすっ飛ばして考えていたが、もっと手前でサービスを提供することもできる。
「さすがだな、エニ! こうしちゃいられない、誰かに相談してくるよ!」
イスコかメリッサ、何ならフェッツのところに話を持っていってもいいかもしれない。
いてもたってもいられず、ジケは動き出した。
「……てか、武闘大会はいいのかな?」
そっちの話をしていたはずなのにいつの間にか商売の話になってしまった。
「まあ、ジケなら大丈夫か」
「ジケ兄強いから」
「きっと大丈夫!」
「ふふ、そうね」




