この人がお母さんなら安心だ
流石に着岸まではしなかったが、潮の流れに任せているとだいぶ陸地近くまで帰ってくることができた。
そこからはエニの魔獣であるシェルフィーナが、ジケとエニが入ったフィオスを鷲掴みにして岸まで運んでくれた。
どこか気まずい空気の中、ジケがエニの手を引いて帰るとリアーネたちは心配したと迎えてくれた。
みんなも心配しているだろうとボーシェナルからも慌ただしく帰った。
その頃にはエニの態度もすっかりと元に戻っていて、みんなもなんとなく何かあったのだなと察しつつも変わりないように接してくれたのである。
「いきなり訪ねてきてすいません」
「いいのよ。息子が訪ねてきたのだもの、いつでも歓迎よ」
もう二度とこんなことを起こしてはならない。
今回エニがさらわれたのはエニが条件に合致するから、もしかしたら娘かもしれないなんてところもある。
だがやはり貧民だからというのも理由の一つだ。
つまり手を出しても問題になりにくいから手を出したという側面は否めない。
これからもエニにおいて問題が起こることがあるかもしれない。
過去のミュコのように貴族が無理矢理手を出してくる可能性だってありえないものじゃない。
毎回防いだり連れ戻したりできないことだってあるかもしれない。
過去ではある程度まで兵士として国に所属していたので守られていたが、今回エニはジケのために兵士を辞めてしまった。
守るための手段が何か必要だとジケは考えた。
そこでアカデミーの学長であるオロネアに会いにきていた。
「それで何の用かしら? 私の子になることに決めたのかしら?」
「ちょっとそれに近いかもしれません」
「あら?」
いつも遠回しに断るような曖昧な返事をするのだけど、思わぬ返事にオロネアは少し驚く。
「エニを養子にするつもりはありませんか?」
貧民だから手を出されるなら、簡単に手を出されないような地位を与えればいい。
言ってしまえば、エニを貴族にすればいいのである。
「急な話ね。何かあったのかしら?」
ただの思いつきでこんなことを言うはずがないとオロネアは目を細める。
「実は……」
ジケはエニがキュレイストンにさらわれた事件のことを話した。
「それは……許せない話ね」
「今はもう連れ戻したから大丈夫です」
珍しくオロネアの目が険しいものとなっている。
エニがさらわれたと聞いて怒ってくれているのだ。
「きっと貧民だからさらわれたことがあると思うんです」
「……それは否定できないわね」
「エニはこれからもっと注目されることになるでしょう」
見た目も美人になっていくし、魔法の才能も高くてほっておくことができない女性になっていく。
ただの貴族でもなく、立場あるオロネアの娘としてなら余計に手を出すことはできなくなるはずだ。
それにエニを娘にしてもいいなんて話をオロネアもポロっと口にしていた。
「まだエニには話していませんが……オロネアさんがいいのなら」
「もちろんよ」
「いいんですか?」
オロネアはすぐに答えを出した。
優しく微笑みを浮かべて頷くオロネアに今度はジケの方が驚いてしまう。
少しも悩むことがなかった。
「弟子にした時からあの子は私の娘のようなものよ。あの子を娘にしようと考えていたこともあるもの。エニのためになるなら私の名前をいくらでも使ってくれて構わないわ」
「オロネアさん……」
「それに私の計画が狂うこともなさそうだものね」
「えっ?」
「私の話よ」
オロネアはあまりエニを積極的に自分の子にならないかと誘ってはこなかった。
それは別にエニを養子にしたくないというわけでない。
ジケを誘ってきた手前、エニに切り替えるのも少し優柔不断な感じがあると思ったし、ジケを息子にできればエニも娘になるのではないかと考えていたのである。
だがこの様子なら逆でも成立しそうだ。
「すぐに準備するわね。ふふ、この年で可愛らしい娘ができるのは心が躍るわね」
「……ありがとうございます」
「いいのよ。むしろ頼ってくれて嬉しいわ。あなたたちがそんなことになってるのに何も知らない、何もできない大人を許してちょうだいね……」
「大切なのはこれからです。エニのことお願いしますよ」
「任せてちょうだい。これから少し忙しくなるわね」
エニを守るための手段は講じた。
なかなかヒヤヒヤとする誘拐劇ではあったものの、エニはまたジケのそばにいてくれることとなったのだった。
ーーー第十八章完結ーーー
これにて第十八章完結です!
不思議と続く物語、今のところはまだ続きます!
これからも応援いただけると嬉しいです。
他の作品もいっぱい書いているのでよかったら読んでください!




