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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第三章

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悲しみの底

 エが泣き崩れる。

 周りが言葉をかけ慰める。


 遺体があるだけ良かった。


 仲間を守り最後まで残ったので特別に棺に入れられて戻ってくることができた。

 救った命は多い。


 けれどそんな奴だったから悲しむ者も多かった。


 身寄りがなかったので公営の遺体安置所で皆が悲嘆に暮れていた。

 若くして副隊長にまでなり、将来有望であったランノは仲間を逃すために戦場に残って敵を食い止めた。


 平民と貧民からなる部隊だからと援護は遅れ、味方が到着した時には既にランノは息絶えて首を切り取られる寸前だった。


「なんで……」


 幸せの頂点だった。

 いや、これからもっと幸せになって、まだまだ先の長い人生だったはずなのに。


 幸せにするとわざわざ宣言しに来ていたのに。


 戦場で最後まで戦い抜いた遺体は傷だらけで綺麗とは言えない。

 突き放しても突き放してもそばに居てくれようとした親友の無残な最後にジは膝から崩れ落ちた。


「お前、エのことを幸せにするって……これから守っていくって言ってただろ!」


 自然と涙が流れる。

 2人が結婚すると聞いてジはまた醜い嫉妬に飲み込まれて祝福の言葉も送れなかった。


 暗い家の中でひっそりと幸せになってほしいと願ったのにどうしてこんなことになってしまったのか。


「おい、目を覚ましてくれよ!


 また馬鹿なこと言って笑ってくれよ!


 どうしてまた俺を……置いていくんだよ……」


 いくら罵倒しても、どんな言葉をかけてもランノが目を開けることはない。

 遺体があるだけよかったですなんて他人事のようにのたまう兵士を殴りそうになる。


 エのことを確認する余裕もジにはなかった。

 エとランノは戦争が終わったら結婚するのだと言っていた。


 熱く見つめ合う2人は互いを愛し合っていて、とてもじゃないけどこんなところで壊されていい幸せには見えなかった。


「部隊の隊長は誰だ!」


 なぜ結婚も控える若者を残していったのか。

 ジは部隊の隊長であるソージェンの胸ぐらを掴んだ。


 体を鍛えたこともない細腕では多少苦しくなる程度にしかならない。


「なんであいつをあんな目に遭わせた!」


 納得がいかなくてジは悲しみをソージェンにぶつけた。


 もっとやり方はあったはずなのに、何もランノが全てを背負うことはなかったのにと思う。


「……すまない」


「……なんだと?」


「全ては俺の力の無さが招いたことだ。


 ランノの死は全て俺に責任がある」


「なんだよ……なんだよそれ!」


 違う。

 ジが聞きたかったのはそんなことじゃない。


 あっさりと認められてしまえばそれ以上追求することもできない。

 だからってどうしてほしいなんて考えもないのだけれどソージェンに恨み節をぶつけたところでお門違いなのである。


 ジは後悔した。

 単に律儀に結婚の報告に来てくれただけの2人にひどく嫉妬をして、見せつけに来たのだと思い込んだ。


 最後には罵倒をして酷い言葉を投げかけて2人を追い返してしまったのである。

 自分の言った言葉のせいでランノが死んだわけではないことは分かっている。


 分かっているのだけれどまるでその言葉が呪いでもあったかのようにランノが亡くなってしまった。


 ジは居た堪れない気持ちになった。

 旧友に呼ばれて駆けつけてはみたものの、なんだか自分がこの場にいるのがとても場違いなのではないかと思えてきた。


 親友だった男の死と嫉妬で吐いた言葉が胸を締め付ける。


 泣き崩れるエのことを慰めるような言葉も権利もなく、2人の中を呪う言葉を吐きかけたジはランノの死を悲しんでいいのか。

 

 気分でも落ち着かせるのだろう。

 その場を後にするジについて気に留める人はいなかった。


 逃げるようにジは貧民街に帰ってきた。

 家にいると誰かが来るかもしれなくて嫌だったので狭い路地裏に隠れるようにして座っていた。


 涙の跡が乾いてきて気持ちが悪かった。

 ただそれを拭う元気もなくてジは数日家にも帰らず路上で寝泊まりした。


 それ以来怖くてジはエと直接会うことを拒み、エも少しずつジから離れていった。


 ランノに関わる全てから距離を置いて忘れようとした。

 けれどランノの記憶はジの中から消えず、忘れようとすれば忘れようとするほどに夢まで出てくるようになった。


 悲しい過去の記憶。

 その時ジは横にフィオスも呼んでいなかった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


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