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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十八章

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絶対に助ける5

「それになんだか……良い生活してたみたいだな?」


「なんだか向こうが全部用意してくれたんだ」


 手こそ拘束されているものの、部屋の中にはベッドが置いてあり、ベッドサイドには大皿に盛られた果物まであった。

 拘束されていなければ、それこそお姫様のような待遇である。


 少なくとも大事に扱ってくれていたのだな、ということは分かる。


「……本当に帰るか?」


「帰るに決まってんでしょ!」


「いてっ!」


 こんな待遇なら多少気変わりしても仕方ないかもしれない。

 冗談めかして笑顔を浮かべるジケの胸をエニは口を尖らせて叩いた。


「でもどうするの? もう船、出ちゃったんでしょ?」


 エニは心配そうな目でジケのことを見る。

 船が出るという話は聞こえていたし、一層大きく感じられた揺れが出航のものなのは分かっていた。


「考えがあるんだ。俺のこと、信じてくれるか?」


「……もちろん。ジケのことなら信じてる」


 たとえ胸にナイフを突き立てろと言われても、ジケならば何かの考えがあるのだとエニは信じるだろう。


「ありがと、エニ」


「おい! 誰か倒れてるぞ!」


「おっと……見つかちゃったようだな。行こう、エニ!」


「うん!」


 いつの間にか果物を体の中に取り込んでいるフィオスを掴み、エニの手を取ってジケは走り出す。


「どいてくださーい!」


「えっ!? あっ!?」


「ガ、ガキが逃げたぞー!」


 男たちも寝起きらしく、どけと言われて素直にどいてしまう。

 ジケはともかく、エニが逃げたと気づくのは一瞬遅かった。


 しかし見つかった以上騒ぎになる。

 寝ぼけた男たちがドアを開けて何事だと様子を確認する中を走り抜けて階段に向かう。


「忍び込んでいた奴がいたのか!」


「捕まえろ!」


 一つ階を上がったところで剣を持った男たちが立ちはだかる。

 例の赤剣隊だろう。


「私もちょっと怒ってんだかんね!」


「なっ……!」


「船燃やすなよ?」


「ふん、知らない!」


 エニが魔法を使って、炎の槍を飛ばす。

 狭い船内で魔法を使うのは有効かもしれないけれど、火の魔法を使うのはなかなか勇気がいる。


「ほら行くぞ!」


 男たちは床に壁に張り付いたり、伏せるようにして魔法をかわしていた。

 ジケとエニは体勢を立て直す前に、サッサと男たちの横を走り抜けていく。


 階段を駆け上がり、一気に甲板に出る。


「結構……遠いね」


 まだ陸地は見えている。

 しかしかなりもう船はかなり離れてしまっていた。


「諦めなさい」


 しわがれた老婆の声が聞こえてジケとエニは振り返る。


「あなたたちは……」


 ジケとエニは囲まれていた。

 これだけ騒ぎになれば寝ている人もほとんど起きたろう。


 囲むの人の中にいるルーエンタとオースティンを見て、エニは驚いた顔をする。

 ジケはこの二人が関わっていることを知っていたが、エニはまだ知らなかったのだ。


「どうしてこんなことを……」


 ルーエンタにしてもオースティンにしても、エニの中では悪い人の印象ではなかった。

 なぜ自分を誘拐したのか、訳が分からない。


「私たちの国では炎が尊ばれているのさ。人は火より生まれ、火によって発展してきた。そして赤い髪はそんな火の恩恵を受けし者だと考えられている」


 優しい老婆の顔ではなく、険しくも見えるような感情のない表情でルーエンタは答える。


「王となる者の相手も火炎を宿したような赤髪であることが求められるのさ」


 ラグカがよく分からない神託で王妃を決めたように、他の国でも王や王妃となる者に条件がある場合も存在している。

 リルードは火炎信仰とも呼べるぐらいに火に対して信仰心を持っている。


 初代の王が火と結ばれ、生まれてきた火の子供達が国や国民を守って発展してきたのだと言われていた。

 そのために王妃となる人は国を灯す火だと表現され、赤い容姿をした人が代々選ばれているのだった。


「本当なら私の孫……アイトスが次代の王妃になる予定だった。しかし私の娘がそれに反発してね。生まれた時から将来が決まっているなんてあり得ない、だと」


 ルーエンタは冷たい目をしている。


「何を言う……キュレイストンのためになるならそれぐらいのことを。それに王妃となれる栄誉にあずかれるのにわがままばかりを口にした」


 オースティンの表情はやや険しいものとなっているが、ルーエンタを守るような赤剣隊の後ろに立っているのでルーエンタは気づいていない。


「最後には……あの子は孫を連れて逃げてしまった。結局王子の相手には別の子が選ばれた。……しかし、火は私たちを見捨てはしなかったのさ」


 ルーエンタはニヤリと笑った。


「王妃として決まっていた火が消えた。だから新しい火が必要になったのさ」


「だから赤髪の子を?」


「あの子が逃げた後、代わりになりそうな子はいないかと国内で赤髪の子を探し回った。しかしロクな子がいやしなかった」


 純粋に髪が赤いというだけでなく、魔力の強さや利害関係など様々な要因からピッタリとハマる子がいないことをルーエンタは分かっていた。


「あの子の痕跡が途絶えた場所も分かっていた。だから赤髪の子を探したのさ」


 自分の国にいないのなら他の国で探せばいい。

 ルーエンタの娘であるエディユナがジケたちの国で行方が分からなくなっているところまでは突き止めていた。


 もしかしたらという可能性も考えて、ジケの国で赤髪の子を探していたのである。

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