絶対に助ける3
「おっと!」
「おい、丁寧に運べ! 急いでるからって商品雑に扱うと怒られるぞ!」
「悪い悪い!」
「あんまり揺らさないでほしいな……」
明日出航するというのなら急いでエニを助けなきゃいけない。
出航を遅らせる手段ならいくつかあるけれども、大きな商団ともなればすぐに新しい手立てを用意するだろう。
エニだけを運んでしまうという可能性もあるし、今以上に警戒を強められてしまうとそれこそ手を出せなくなる。
急いで準備している今が最も警戒が緩んでいる時だと言える。
ジケは荷物に紛れ込んだ。
荷物を持ってきている先を見つけて木箱の一つに入ったのである。
やはり急いでいるのか中身も確認せずに運ばれていく。
「おい、ちゃんと中身は確認してるのか?」
船に運ばれたのかわずかに揺れるなと思っていたら、外から聞こえてきた言葉にジケの心臓が跳ね上がる。
「そんな時間あるかよ……」
「中身ちゃんとしてないと……」
「怒られるんだろ? 分かってるさ。じゃあ確認するよ」
「ヤバッ……」
他の荷物の状況は分からないが、ジケが入った箱は置かれたばかりだ。
真っ先に調べられる可能性が高い。
箱のそばに男が近づいてきて、ジケの鼓動が早くなる。
いざとなったら暴れるしかないと腰の剣に手をかける。
「僕が調べておくよ」
「オースティン様!」
「わざわざ開けるまでもない。触れれば僕は調べられるから。君たちは早く作業を」
「ではお願いします!」
どうやらオースティンが来たらしい。
箱のすぐ外にいた男が離れていく。
少しホッとするものの、今度はオースティンが箱を調べるというのだから状況は変わりない。
オースティンが箱に手をかける。
開けるまでもなく中身が分かるというが、本当だろうかとジケは黙って見守る。
「…………」
オースティンが箱から離れていく。
ホッとしたのも束の間、オースティンは貨物室のドアを閉めた。
そしてジケが入っている箱に寄りかかった。
ーーーーー
「おいおいおい……想像よりも早いぞ!」
「もう出るんですか?」
「まだ何も起きてないみたいだし……」
ジケが荷物に紛れて船に乗り込んでから、リアーネたちも船を見守っていた。
ジケが行動を起こして、騒ぎになれば駆けつけるつもりであった。
しかし夜が明けて、朝になると船は帆を広げた。
明日と聞いていたが夜明けと同時に出航するなんて思ってもみなかったのである。
「どうしますか?」
「ジケのことを置いていけないだろ! 離れちまう前に乗り込む……」
「待って!」
「ソコイ! お前……」
リアーネ、ユディット、ニノサンの三人は船に向かおうとした。
それを突然現れたソコイが止める。
荷物に紛れ込んだジケとはまた別に、ソコイも船にいるはずだったからリアーネは驚いた顔をする。
「こんなところで……」
「アニキがどうにかするって」
「どうにかって……どうするんだよ?」
「分かんない。でもアニキがどうにかするって言った時にはどうにかするから」
「……ったくよぅ。うちの雇い主は心配ばっかかけやがる」
リアーネは船を見る。
もう船は離れていってしまって、乗り込むのは無理だろう。
何にしても、ジケを信じて待つしかない。
「……行きましょう、リアーネさん」
「ユディット……」
「ここまで会長は不可能を可能にしてきました。多分……エニさん連れて帰ってきますよ」
「……はぁーあ! 腹減った! 飯も食わずに待ってたらジケのやつが怒りそうだ。なんか食いにいくぞ」
ジケならなんとかするだろう。
自分でそう言ったみたいだし、今はジケを信じて、何があってもいいように万全の準備を整えておくのが必要だとリアーネも考えを切り替えた。
「もし仮に追いかけられて帰ってくるようなら私たちで敵を蹴散らす。何もなく帰ってくるなら……みんなで家に帰りゃいいか」
「そうですね。主人なら……船ごと乗っ取るかもしれません」
「お前は船に乗らなくて安心したろ?」
「……そんなことはないですよ」
ニノサンは目を細める。
確かに揺れる船はニノサンの大敵である。
だからといって船に乗らなくて安心したなどとは考えていない。
どうやってジケが今回のことを乗り越えて帰ってくるのか。
その顛末の方が楽しみであるとすらニノサンは考えている。
何にしても、みんな思っていた。
きっと、ジケは無事に帰ってくるだろう、と。
ーーーーー
「動き出しちゃった……か」
外の様子はほぼ分からない。
フィオスに小さく穴を開けてもらって覗いているので、昼夜の感覚は何となく分かる程度である。
それでも船が動けばジケにも分かった。
出航だ、なんて声も聞こえていた。
焦りはある。
船が港から離れるほどにジケが帰ることは困難になる。
しかし今ここで焦って動くのは良くない。
「おい、こんなところでどうすんだよ?」
貨物室に人が入ってきた。
男の二人組である。
「寝るんだよ」
「おいおい……見張りは?」
「こちとら昼夜なく働かされたんだぜ? 眠くてたまんねぇよ。それに出航したばかりで襲ってくるやつもいないだろうさ」
会話を聞くに、男たちはサボるために貨物室にやってきたらしい。




