絶対に助ける2
「見えているはずなのに……見えない」
「不思議なもんだな」
フードを深く被ったソコイは運び込まれる荷物に紛れて船に近づいていく。
魔獣の能力を使って半透明になったソコイの姿は目で見にくくなる。
それだけならまだ見えるはずなのだけど、気配を消し、周りに紛れるように動くソコイはそこにいると分かっていても見えなくなってしまう。
「ほっ!」
ソコイは近くにあった石を拾い上げた。
そして海に向かって投げる。
チャポンと音が鳴って、見張りの男たちの視線が一瞬海に向く。
その隙にソコイは船に乗り込んだ。
流石の手腕である。
「俺たちは少し離れよう」
今のところ見ているとはバレていないが、バレると面倒なことになるかもしれない。
見ていてもバレないように距離を取る。
「オースティンの姿はないですね……」
一応忙しなく動く人の中にオースティンを探してみるが、見つけられていない。
「ユディット!」
「うっ!」
リアーネがユディットのことを乱雑に引っ張る。
「な、なんですか!」
首が締まってユディットは咳き込む。
「船の上、オースティンじゃないか?」
「ああ、あの青い髪……そうだな」
リアーネとジケが建物の影からほんの少しだけ顔を出して船を見る。
船の先の方に青い髪の男性が立っていた。
オースティンである。
荷運びの様子を眺めているようだが、ふとジケたちがいる方にも視線を向けていた。
リアーネはユディットがバレないようにと引っ張り込んだのである。
「にしても……あれが全部じゃなさそうだしな」
いざとなったら強行突破、武力行使するしかない。
襲撃の時の実力を見るに一人一人ならリアーネの方が強い。
しかし相手の人数が多すぎる。
見えている見張りの人員でも結構いるが、護衛の人員を全て見張りに立たせているわけがない。
見えている人員以上の数がいるはずだ。
正面突破するのにジケを含めて四人ではなかなか大変かもしれない。
それに時間がかかれば町の保安部隊なんかも駆けつけてしまう。
エニを見つけて助け出せれば言い訳できるが、見つける前に捕まればジケたちは無駄に暴れただけに見られることだろう。
「失礼ですが、ヘギウスやゼレンティガムに助けを求めればよかったのではないですか?」
相手の力は大きい。
ならばこちらも大きな権力を頼ればいいのではないかとユディットは思った。
「ダメだ」
「どうして……」
「貴族ってやつは制約があるのさ」
エニがさらわれたと聞いたらリンデランもウルシュナも動いてくれるかもしれない。
しかしエニがキュレイストンにさらわれたという明確な証拠は持っていない。
キュレイストンは商人でありながら同時に他国の貴族でもある。
貴族でもなんでもないジケが問題を起こしたならジケに責任を取らせれば話は終わるが、貴族であるヘギウスやゼレンティガムが問題を起こせば簡単な責任問題では終わらない。
ウルシュナがラグカとの間で色々と問題になった時に国はほぼアクションを起こせず、何もしないでルシウスの行動を許容するという選択しかできなかった。
力を持つ存在が動くというのも簡単ではないのだ。
「……本当にいざとなれば全員殺したって、船を沈めたってエニを助けるつもりだ。そんなことにヘギウスやゼレンティガムという存在を巻き込めないさ」
「……そうですね」
もし大暴れして犯罪者になってしまうことがあるなら隠れるのに頼ることはあるかもしれない。
「船沈めちゃうのいいな」
「でもここで船沈めるときっと新しいの用意してまた出ちゃうからな」
「……難しいな」
こっそりエニを助け出せるのならそれが一番だ。
派手に動けばそれだけ後処理が面倒になる。
「あっ、ソコイ出てくるみたいだ」
何があったのかは知らないけれど、みんなの視線が一瞬同じ方を向いた。
「ジケ!」
「お疲れ様」
オースティンが見ていないことを確認して、ソコイにも分かりやすいように体を出しているとソコイがスーッと現れた。
「エニ、いたよ」
「本当か!」
「見張りが立ってる怪しい部屋があって、そこにエニが閉じ込められてる。外の窓から様子見てきたけど……一応元気そうだったよ。なんかふかふかのベッドとかお皿に果物とか用意してあった」
窮屈な思いをしているのかなと思ったら、エニが監禁されている部屋は快適そうだった。
新そうなベッドがあって、大きな皿に何種類も果物が盛ってあった。
手は前で拘束されていたけれど、不便そうなことはひとまずなさそうだとソコイは見ていた。
「ジケが来てるって聞いて嬉しそうにしてたよ」
見張りにバレないようにこっそりと話してきた。
今のところ部屋から出られないことの他に問題はないらしい。
「ただ……大きな問題が一つあるんだ」
「なんだ?」
「明日、出港らしいんだ」
「明日!? そりゃ、なんとも急な話だな」
船内で会話を盗み聞きしてきた。
どうやらかなり荷積みを急いでいて、早ければ明日にも出るつもりのようなのだった。
「もうあまり時間がないな」
ジケは空を見る。
もう日は傾いて落ちてきている。
「…………俺が行く」
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