絶対に助ける1
馬車が壊れそうなほどに飛ばしてボージェナルに向かった。
港町として賑わうボージェナルのどこかにエニがいるはずだった。
「ソコイ、頼むぞ」
「ああ、任せとけ」
ボージェナルではまだオランゼの力が及ばない。
だが情報屋たるソコイの方はボージェナルにも広く組織の根は広がっている。
ソコイが情報を調べるために走っていく。
「そんで……私たちはどうする?」
「まずは宿探して……腹ごしらえでもしよう」
「おい……」
「今の俺たちにできることはない。ここまで急いできたんだ、まずは体力回復が必要だ」
たとえ揺れを抑えていたとしても長時間馬車に乗れば疲れてしまう。
簡単な食事をとりながら移動したものの、それも十分とは言えない。
今のところキュレイストンに関する情報はジケたちの手元になく、何か行動しようにもできることはない。
無駄に気を揉んで、ただ体力を消耗しては動きたい時に動けなくなってしまう。
宿をとって休む場所を確保し、食べ物を食べて体力を回復、温存するのが後のためなのである。
「……時にその冷静さが恐ろしくなりますね」
「焦っても何ともならない……そう学んだだけさ」
「そうですか。ですが分かっていても実際にやるのは難しいことだと思います」
ジケがどこでそのようなことを学び、体得するまでに至ったのか少しの疑問がないわけでもない。
しかしニノサンは何も聞かない。
仕えるべき主の有能さを知っていればよく、その有能さに至る過去を知る必要はないからだ。
「すぐに休めるように高い宿を探そう。そうすれば良いお店も知っているはずだ」
適当な宿、適当なレストランでは失敗する可能性もある。
高い宿なら失敗は少ない。
そして高い宿の人ならば良いレストランを知っている可能性も高い。
こういった時にお金を出せば不便さやリスクは大きく回避できてしまうのだ。
人に聞きながら宿を探し、良さげなところを見つけた。
「アニキ! 聞いてきたぜ!」
宿の人に聞いたレストランで食事を待っているとソコイが合流した。
「キュレイストンの船舶は港に停泊してる。ただ出航の準備を進めているらしくて、二、三日中には出てしまいそうだって」
適当に注文した料理がテーブルに並べられる。
多かったような気もするが、いざとなればフィオスが食べ尽くしてくれる。
「流石にエニが運び込まれたかどうかは分からなかったよ……」
「いや、十分だよ」
ソコイがいなきゃジケたちは足を使ってしらみ潰しに探すしかなかった。
キュレイストンの船を特定してくれただけでも大きな働きである。
「まずは船の偵察だな」
残った料理はフィオスがペロリと食べてくれた。
ジケたちは港に停まっているというキュレイストンの船に向かう。
港に近づくに連れて町行く人の様子が少しずつ変わっていく。
宿の近くでは一般的な町の人が多かった。
それに比べて今は周りに肌が浅黒く焼けた体格のいい人も多くなってきた。
いわゆる海の男というやつである。
「あれがキュレイストンの……」
「大きな船ですね……」
家々の間から見える海が近づいてきて、港に出た。
同じ港でも区画によって泊まっている船は異なる。
近くの海で漁業をする船を泊めているところもあれば、人を運ぶ客船が泊めてあるところ、近くに倉庫がある商船が泊まるところもある。
キュレイストンは商船である。
しかもキュレイストンの船はかなり大きく、港の中でもかなり良いところに停泊していた。
馬車を何台も買っていったが、全部船に載せられるぐらいの大きな船だった。
「見張りが多いな」
「これじゃ、忍び込むことも大変ですね」
キュレイストンの船を見つけたのはいいのだけど、周りは剣を腰に差した男たちが見張っている。
船なので乗るための場所は限られている。
階段状の渡り板はガチガチに監視されていて、バレずに船に入ることは不可能に近かった。
「あいつら……襲撃者と同じ腕章をつけてるな」
リアーネは警備をしている男たちに注目した。
エニを誘拐するのに襲ってきた男たちの一人が腕章をつけていた。
リアーネと戦った人ではなく、エニを誘拐した人の方が付けていたのでうっすらと記憶に残っている程度だが同じものだと見て気づいた。
「あれは赤剣隊だね」
「赤剣隊?」
「海に出れば魔物もいるし、海賊もいる。そんな相手から船を守るのがキュレイストンが持っている私兵だよ」
「なるほどな」
商船ならみんな大なり小なり武力を持っている。
基本的には自分たちのところで冒険者なんかを雇って護衛させているわけだが、キュレイストンほどになるとほぼ兵力と言っていいレベルの護衛の部隊を保有していた。
「荷物が運び込まれてる……急いで準備しているようですね」
忙しなく船に荷物を運び込んでいる。
近いうちに出港しそうというソコイの言葉は本当だった。
「俺が忍び込んでみるよ」
「……頼む」
「任せてよ!」
ジケがアニキなら、エニはもしかしたらアネキになるかもしれない。
口にはしないが、そんなことを思いながらソコイはこっそりと船に近づいていく。
普通の人なら近づくのも難しいが、ソコイならバレない。