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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十八章

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言い争う、優しい声

「ん……」


 エニが目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。

 やたらと頭がぼんやりとする。


 どれぐらい寝ていたのかも分からないぐらいなので、もしかしたら薬で眠らされていたのかもしれない。


「何が……」


 覚えているのは顔を布で覆った変な人たちが急に襲いかかってきたこと。

 リアーネが抵抗し、エニも戦ったのだけど、多勢に無勢でエニは取り押さえられてしまった。


 馬車に押し込まれて、そこから記憶がない。


「んん……」


 動こうにも後ろで手が拘束されている。

 何が金属の手錠のようなものだ。


 魔法が使えないとエニは眉をひそめた。

 とりあえずでは使えないことはわかったので、周りの様子を確認する。


 頭の中ではジケが『こういう時ほど冷静に、だ』なんて偉そうに言っていた。

 木で作られた狭い部屋で、高いところに窓が一つある。


 壁際にはタルや木箱が並んでいて、ちょっと独特の匂いがする。

 ここがどこなのか全く分からないけれど、さらわれたのだということは理解した。


「普通じゃなさそうだね……」


 足までは縛られていないから動くことができる。

 ただ問題は手の拘束だ。


 後ろで拘束されていては立ち上がることすら難しい。

 魔法が使えないというところもエニにとっては大きく、抵抗手段がほとんどない。


「なぜあんなことをしたのですか!」


「必要だからだ」


「必要? 他国で人を誘拐することがですか!」


「……なんだろ?」


 言い争う声が聞こえてくる。

 一人は男性、もう一人は高齢の女性のようである。


「んしょ……」


 もっと話がよく聞こえるようにとエニは床を這いずって部屋に唯一あるドアに近づく。


「お前もわかっているだろう? キュレイストンがより強い家になるために必要なことだと」


「それは分かっていますが、ここまですることはないでしょう!」


 声を荒らげているのは男性の方である。


「ちゃんと調べた。あの子は貧民……親のいない孤児だよ。一人消えたところで何も起きやしないさ」


「貧民でも帰る家はあるでしょう! 血の繋がりはなくとも家族はいるでしょう! それに赤剣隊まだ動員して……大きな被害を受けてしまった」


「確かに、あんな護衛をつけているのは意外だったね。大方教会がつけたんだろうさ。神官長のお気に入りみたいだからね。まあもう少ししたら金でも握らせておけば神官長も黙るだろう。心まで聖職者な奴なんていないからね」


「そういうことじゃ……それにわざわざ誘拐なんてする必要はないでしょう。うちの子になりたいなんて人は国外を探すまでもなく、国内にもいるはずです」


「国内の奴なんて信頼できるわけないだろう。それにあの子の足跡が途絶えたのがこの国なんだろ? もしかしたらあの子の娘がここにいる……そう言ったのはお前だ」


 高齢の女性の方は男性に対して淡々と答えている。

 口調や話の内容からすると高齢の女性の方が立場が上であるみたいだなとエニは思った。


「国外の子、しかも孤児なら煩わしく口を出してくるやつはいない。ただ髪が赤ければいいという問題でもなく、必要な格というものもある。あの子は神官長に気に入られるほどの力を持っているんだよ」


「それでも望まぬ子を……」


「あの子はエディユナに似ている」


 知らない女性の名前が出てきた。

 その瞬間、男性は押し黙ってしまう。


「お前も思わなかったかい? 他人の空似にしては……似ているとね」


「それは……その……」


「エディユナの娘が見つかった。そう主張しても、エディユナを知っている人なら納得するだろうね」


「それでも……ちゃんと納得するように話すべきです」


 どうにも男性の声色は悩みに満ちているように感じられる。

 

「そんなの後でもいいだろう。うちに来て、もてなしを受ければ心変わりして、数年もすれば感謝するはずだよ。この話は終わりだ。早く出港しな」


「……本来の予定では五日後に出る予定でした。急いでも三日はかかります」


「まあしょうがないね。なら三日後出られるように早く準備を整えな。その間にあの子が逃げないように見張っておくんだよ!」


「…………分かりました」


「あっ、やばっ!」


 足音が近づいてくる。

 エニは慌てて最初にいた部屋の真ん中に戻る。


「……まだ寝ているのか」


 エニは寝たふりをする。

 部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。


 言い争っていた男性の声だった。


「……確かに似ているんだよな」


 肩を掴まれてドキッとしたが、コロンとひっくり返されただけだった。

 相手が誰なのか確認したいけれど、起きているとバレるのも面倒なのでひたすら目を閉じて寝ているように装う。


「本当にあの子なのか……? いや、仮にあの子だとして、僕にあの子に会う権利があるのか? どうしたらいい、エディユナ……」


 すごく優しい声だとエニは思った。

 壊れ物でも扱うかのように指がエニの頬に触れる。


「計画を早めるか? もう動き出してもいいぐらいにはなっている。…………まあ、ひとまずこの子のために寝具でも用意させようか。床に寝かせておくのはかわいそうだ」


 優しく頬に触れていた手が離れて人が部屋から出ていった。


「なんなの?」


 パッと目を開けたエニは困惑していた。

 しかし思っていたよりも自分が冷静であることに驚いた。


「ジケがきっと来てくれる……」


 それはエニの中にある確かな予感のせいかもしれない。

 何があってもジケなら助けに来てくれる。


 今は大人しく待っていればいい。

 そう思えるから冷静でいられた。


「待ってるから……」

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