問題発生2
「うっ……まあ別に重要な用事はないけど……」
相変わらずこんなふうに見られるとジケは弱い。
過去では女性との経験はほとんどない。
今回は割と頑張っている方だと思うけど、それでも女の子というものに慣れる日なんてこないと思う。
リンデランもジケがそれに弱いことを分かってやっているような気がする。
「ね、お茶ぐらい飲んでこ?」
「ピコちゃんもジケ君が一緒がいーなー」
ウルシュナとピコもジケの服を掴む。
「わ、私もやった方がいいですか?」
「いや、シェルハタはいいよ……俺の負けだし」
こうなるとみんなを振り切って出ていくことはできない。
シェルハタもノリに乗ろうか迷っていたけれど、こんなものに乗らなくてもいいとジケは苦笑いを浮かべる。
「ジケさんは皆さんに人気なんですね」
鼻歌を歌いながらリンデランはお茶の用意をしに行った。
待ってる間、暇だったのでジケはフィオスを撫でるようにしてミミもどきを作って遊んでいた。
「そうだな。みんな、俺に構ってくれる。ありがたいよ」
「ふふ、そうですか」
そういうことではないのだけどな、とシェルハタは思った。
でも変に口を出す問題でもない。
見ていた方が面白そうだとシェルハタは感じた。
「エニさんは大神殿ですもんね。私も行ってみたいです」
「そのうち見学してみればいい」
「いいのですか?」
「ああ、ちゃんとみんなで固まるならな」
大神殿も人の出入りは多いが、警備はかなり強固である。
神殿騎士や守護騎士と呼ばれる人たちは、少しでも大神殿の中で異常があれば飛んでくる。
完全に道徳心がない人じゃない限り、大神殿内部で犯罪を起こそうという人も少ない。
周りを警戒していれば危ないことはないだろう。
「うふふ、私今すごく楽しいです」
「そうなのか?」
シェルハタはニコニコしている。
最初こそ気弱で消極的な感じがあったものの、実際はそこまで気弱で消極的な子でもない。
人見知りという壁を乗り越えれば案外強かさのある頭の良い子である。
「私、友達いなくて。お引っ越しも多くて。こうして皆さんとお友達になれたこと嬉しいです」
ガルガト、情報屋のボスの娘であるというのも大変なことがある。
存在がバレないようにとひっそり暮らし、バレそうになると場所を移動するを繰り返している。
そんな生活だからなかなか友達もできない。
色々な場所に行けることは楽しいがちゃんとした友達が欲しいお年頃でもある。
もしかしたらそうした生活が人と上手く馴染めない人見知りな側面を育ててしまったのかもしれない。
「ソコイもお友達ですが、いつもいてくれるわけじゃないですからね」
人にはそれぞれ大変なことがある。
おっとりして見えるシェルハタにも悩みはあるのだ。
「お待たせしました」
「ともかく今は楽しもう」
「……はい」
今後シェルハタがどうなるのか、ジケにも分からない。
情報屋の問題が収まった後に、また以前のような移動を繰り返す生活に戻ることもあるかもしれない。
ともあれ今は今で楽しめばいい。
「ジケ! ジケはいるか!」
リンデランが自作のクッキーを持ってきて、のんびりとお茶会をしていた。
そこにソコイがやってきた。
「ソコイ!」
シェルハタが嬉しそうに笑顔を浮かべる。
なんだかんだでシェルハタもソコイが来てくれると嬉しいようである。
「シェルハタも元気そうだな」
そう言いながらも朝にはソコイとシェルハタも会っている。
「ジケ……ちょっといいか?」
「……分かった」
入ってきた時からソコイの表情がやや固い。
何かあったことは見て簡単に分かってしまう。
体の中でクッキーをクルクル回しながら溶かしているフィオスを軽く撫でて席を立つ。
「んで、なにがあった?」
部屋を出て少し声を抑えめにソコイに表情が固い理由を問う。
「……師匠の連絡が途切れたんだ」
「ガルガトさんの?」
ソコイは定期的にガルガトからの連絡を受け取っていた。
生存確認であり、問題なく内部の整理が進んでいることをソコイもそれで把握していた。
ここまで連絡はまめで、途切れることがなかったのに二回も連絡がなかった。
一回ならば忙しいこともあるかもしれない。
しかし二回も連絡がないのはおかしい。
「なんでそれを俺に?」
連絡がないということはガルガトにとっての弱みといってもいい。
ジケに教える必要のないことである。
「……いざとなったらジケに助けを求めろって言われてるんだ」
ソコイは少し申し訳なさそうな顔をした。
「俺に?」
「いざという時に確実に信用できるのはジケだからって」
そこまで信用してくれているのかと意外な気持ちだった。
ここまで色々とやってきたことを分かった上での信用なのかもしれない。
少なくともジケにガルガトと敵対する利益はない。
シェルハタの保護を承諾したジケを味方だと見てくれているのだろう。
「何か作戦があるのか?」
「こんな時のための指示はあるんだ。手伝ってくれる?」
「……ああ、俺にできることならな」
情報を司るガルガトの存在はジケにとっても大きい。
せっかくシェルハタの未来も変えたのにここでガルガトに死なれても困る。
それに人を簡単には信用しないガルガトの信用には応えねばならない。
「俺も今更師匠失いたくないしな。それにシェルハタを悲しませたくない」
ソコイは男の顔をしていた。
「そうだな。ソコイの未来のお父さんを助けないとな」
「なっ……!」
ソコイは一瞬で顔を赤くする。
「そ、そんなんじゃ……!」
「お前はもっとウソをつく練習も必要だな」
ジケはソコイの肩を叩く。
隠密行動は上手くなったのかもしれないが、自分の感情を隠すのが下手すぎる。
「さて、どうするか聞かせてもらえるか?」




