閑話・生み出される流行3
「これで踊ってもいいかも」
ミュコは体を軽く動かしてみる。
動くたびにフードにつけられたミミがピコピコ動いて可愛らしい。
「幕間なんかに……キツネダンスとか、可愛いかもね」
後ろで準備している間にちょっとした踊りなんかしても面白いかもしれないとミュコは考えていた。
「どう? 可愛い?」
踊っていたミュコはキュッと静止するとジケに向かってポーズを決めた。
軽くウインクまでしてファンサービスは忘れない。
「う……うん、可愛いよ……」
「えへっ、やった!」
「いいなー!」
「私たちもほしー!」
ジケに褒められてミュコは嬉しそうにクルクルと回転する。
タミとケリが自分の分はないのかと不満そうに頬を膨らませている。
「後でシェリランに言っておくよ」
「ほんと?」
「ありがとう!」
シェリランも物怖じせずに近づいてきてくれるタミとケリのことを可愛がっている。
欲しいと言えばすぐに作ってくれることだろう。
「ジケ君」
「どうした?」
ピコが口をへの字にしてジケの服の裾を引っ張る。
「このピコちゃんにはね、ホンモノのミミがあるのですよ!」
「……そうだな」
「あぅ……そうことじゃ……まあいいか」
ピコはちょっと屈んで頭をジケに差し出す。
当然ながらピコの頭にはもふもふのミミが生えている。
ジケは可愛らしい嫉妬をするものだとそのまま頭を撫でてやる。
ピコはそんなつもりじゃなかったと顔を赤くするけど、ジケに撫でられるのは嫌いじゃないので受け入れることにした。
「……フィオス?」
ふと気配を感じてジケが振り返った。
「それまさか……真似してるのか?」
いつもはまんまるボディの可愛い子。
しかし今のフィオスは違っていた。
上の方に二つの突起ができている。
フードのミミを再現しているようにジケには見えた。
「……ふふっ、可愛いな」
健気さと可愛さ。
ジケは思わず吹き出してしまう。
ジケが撫でてあげるとフィオスのミミも当然のことながらプルプルであった。
でも可愛くてフィオスのミミを維持するように撫でた。
後日シェリランが作ったミミフードという名前のローブは、ジケを介してリンディアに送られた。
そこからさらにリンデランとウルシュナの手に渡った。
意外と可愛い、ということでリンデラン提案の下、アカデミーに着ていくことにした。
ウルシュナは少し恥ずかしかったけれど、リンデランが着るならと二人でミミフードを身につけたのである。
美少女二人がそんなもの身につけていれば嫌でも目を引く。
どこでそんなものを売っているのかと大きな話題となった。
ここぞとばかりにリンデランがフィオス商会だと宣伝してくれたので、お店の方に人が詰めかける事態になった。
だがフィオス商会に大量の服を作る生産能力はない。
そこでヘギウス商会と協力することになった。
ヘギウス商会の服飾部門で作ってもらって、フィオス商会とヘギウス商会で販売することにしたのだ。
「まさか大ヒットになるとはな……」
ミミフードは貴族を中心にヒットした。
過去にはこんなもの流行った記憶がないので、今回新しく出てきたものということになる。
生産はヘギウス商会だけど、アイディアはフィオス商会なのでそこらへんの利益分配もちゃんとしている。
何が流行るかわからないものだとジケは思った。
「ピコちゃん音頭も流行るかな?」
「流行るかもな。でも俺たちのピコちゃんでいてくれよ」
「むぅ? ジケ君がそいうなら」
町中でみんながピコちゃん音頭を踊る。
悪くはないのかもしれないけど、実現してしまったらなかなかにすごい光景である。
流石のリンデランとウルシュナもアカデミーでピコちゃん音頭は披露してくれないだろう。
ピコちゃん音頭はジケたちの内輪でのもの、としておくぐらいがいい。
「とりあえずアイディア料な」
「へへっ、悪いね旦那」
「ピコちゃんありきのアイディアだからな」
ジケはピコにお金を渡す。
今回シェリランがミミフードを思いついたのもピコがいたからである。
お金の幾らかはピコが受け取る権利がある。
ずっしりと重いお金の袋を受け取ってピコはニンマリ笑っていたのであった。
「やっぱりピコちゃんは天才なのだな……」




