閑話・生み出される流行2
「以前私の服を着ていただいた子も魅力的な子でしたが……あなたはより魅力的なミミをしているわ」
後日シェリランが再訪してきた。
夜通し作業していたのか目の下にクマができていてより顔が凶悪になっている。
シェリランはピコのミミに目をつけた。
もふもふとしていながら頭を動かすたびにぷるりと揺れる様はわずかにフィオスをも思わせる。
エスクワトルタは割としっかりしていて小ぶりなミミであったが、ピコのミミは大きくて柔らかい。
ピコを一目見た瞬間、シェリランは雷にでも打たれたようにアイディアが頭の中を駆け巡った。
「そして私は作りました。この魅惑的な可愛さを表現しない手はないと! 完成したのがこちらです!」
シェリランは手に持っていた布を広げた。
珍しく地味な色のものを持っているなと思ったら、シェリランが持っていたのはローブであった。
ただし普通のローブと違うところが一カ所だけあった。
「フードになについてんだ?」
ローブにはフードがあるのだけど、フードには二つの三角の突起がついていた。
「こちらはピコちゃんのようなミミを表現したものでぇす!」
よくぞ聞いてくれたと、シェリランが答える。
「エニさぁん! 着てください!」
「えっ? 私?」
「ミュコさぁんのもありますよ!」
「おおぅ……今日は一段と顔圧が強いね……」
今日はたまたまエニとミュコもいた。
てっきりピコに着せるのかと思ったらシェリランはローブをエニとミュコに押し付けた。
「まあこれぐらいなら……」
「そだね」
いつも試着させられるのはドレスだ。
ドレスの出来はいいので着ても悪くないのだけど、やっぱり恥ずかしさはある。
それに比べて今渡されたのはローブである。
別に服の上から着ても構わないので試着も楽だ。
「……なるほど」
「んまぁー! 似合ってますぅー!」
手に持っていると分かりにくかったけれども着てみるとよくわかる。
ローブを着て、フードをかぶるとフードにつけられた突起がまるで獣人のミミのようになるのだ。
「ローブというと地味で遊びが少ない! ですがみんな着用の機会も多いでしょう! ローブにも可愛さを! ワンポイントでこんなに可愛く!」
シェリランは日頃から思っていた。
ローブってつまんないと。
着用しやすく、防寒になったりもするのでローブやフード付きのマントなど一つぐらいは持っている人も多いけれど、遊びはかなり少ない服である。
貴族が身につけるものには豪華な刺繍がしてある場合もあるが、基本的に地味な色の地味なものであることは否めない。
ローブが可愛くなればいい。
そんなことを思っていたらピコに出会った。
可愛らしいミミを見て、これをローブにつければ可愛くなるんじゃないかとアイディアが噴き出した。
今は既存のローブにとりあえずのミミをつけたものであるがこれだけでももう可愛い。
「んー、これでいいの?」
「まあ確かに可愛いかな」
エニとミュコは鏡を見る。
言われてみれば自分にミミが生えているように見える。
「もっとローブ自体をフワモコにしてもいいかもしれませんね!」
まだまだ改良の余地があるとシェリランは興奮を抑えきれない。
「他の獣人の方のミミも参考にしてもいいかもしれないですね……エニさん、こちらに。こうして……こう!」
「こ、こう?」
「ニャンと言ってごらんなさい!」
「にゃ、にゃん?」
「ん……!」
シェリランはエニに軽く手を握らせるとアゴの近くに手を持って来させた。
そして軽くアゴを引かせて上目遣いでジケを見つめさせる。
「あざとさが非常にビューティー!」
ジケも思わずドキッとした。
「さあ、ミュコさんも!」
「ニャン!」
ミュコもエニを真似してポーズする。
ジケの耳が赤くなっているのを見てニンマリと笑顔を浮かべる。
「そのポーズ、ピコちゃんのミミでやるものじゃない気がするけどな……それにピコちゃん本物のミミあるにゃん!」
ジケのことを引っかきそうな勢いでピコもアピールする。
「なんだかちょっと違うな……」
「なにぉー!」
フードにミミがついているからこそ映えるところがある。
フードで隠れかけたところから見える上目遣いの瞳とか、布のためかちょっとタレかけたミミの形とかが相まって破壊力を産んでいる気がする。
「しかし成功ですね! もう少し改良はいたしますが、このピコミミフードは是非とも広げましょう! 女の子ならきっと欲しがるはずです!」
「んじゃリンディアさんあたりに声かけてみようか。もうちょっと完成度高めたお試し品いくつかくれるか?」
「流石判断もお早い! すぐに取り掛かります!」
「ちょっとは寝ろよ?」
「心配ご無用! 気づいたら寝ておりますので!」
「それはねてるんじゃなくて気絶だからな……」
ジケの後押しも得られたシェリランはまたしても家を飛び出していく。
「あれ? これいいのかな?」
「私、これ可愛くて意外と好き」
エニとミュコの着ているものは回収されなかった。
人から見られることも多そうだしあんまりかなと思うエニに対して、ミュコの方は歩くたびに揺れるミミは意外と可愛くて好きだった。




