閑話・生み出される流行1
「マーベラス!」
シェリランの声が響き渡った。
「一体いきなりなんだよ……」
家を訪ねてきたシェリランがいきなり叫んだものだからジケが思わず耳を塞いでしまった。
「なんなのね?」
同じく家にいたピコも両手でミミを押さえて怪訝そうな表情をしている。
シェリランが家を訪ねてくることは時々ある。
良い服ができた時にはジケに見せに来るのだ。
大体作ってるのはドレスで、訪ねてきた時に誰かしら女の子がいたら試着させるのでシェリランが来るのは女の子たちにとってやや恐怖のようなものになっている。
大体エニかミュコが犠牲になるのだが、稀にリアーネだったり、なぜかキーケックがドレスを着せられることもある。
タミとケリがお揃いドレスを着させられることもあったりと思い返してみれば、意外とシェリランの襲来は多いのかもしれない。
ジケは雇い主権力を振りかざしてドレスは着ないで感想係である。
例によってドレス片手にジケのところを訪ねてきた。
そしてシェリランはピコに出会って、叫んだのである。
「なんという……」
シェリランは目を見開き、ゆっくりとピコに迫る。
「こ、怖い!」
シェリランに恐怖を感じたピコがジケの後ろに回り込む。
誰でも凶悪な顔面をしているのにフリフリとした服を着た見知らぬ男が迫ってきたら怖いだろう。
「おっと、申し訳ない」
フィオスが高く飛び上がってシェリランの顔に体当たりする。
ぷちょりとフィオスが顔に当たっても痛みはないが、やめなさいと言っているようなフィオスの意図はシェリランに伝わった。
ハッと冷静さを取り戻したシェリランは頭を振って謝罪する。
「何をそんなに興奮したんだ?」
シェリランは明らかにピコを見て異常をきたした。
以前のことがあるので初めて見たわけではないはずなのに、なぜこんな興奮したような感じなのか。
偏見やそれに基づく怒りのような感情ではなさそう。
だがシェリランがなんの感情で動いていたのかと聞かれてもジケには分からない。
「初めて見るその……おミミに」
「ミミ?」
ジケは振り返ってピコのミミを見た。
大きくて立派なミミがピコの頭には生えている。
柔らかな毛でモフモフとしていてピンと伸びた三角形の耳がピコピコと動いている。
「ミミがどうした?」
触りたくなるようなミミをしているなとジケも思う。
ただそれがどうしたのか分からない。
「この完璧なシルエット! このシェリラン、感動いたしました!」
「ひょえ……」
シェリランはいつものように凶悪な笑みを浮かべる。
ジケにとってはもはやお馴染みの笑顔であるけれど、ピコにとっては初見だ。
尻尾をボワッと膨らませてピコはジケの後ろに完全に隠れてしまった。
「そのおミミ……触らせていただいても?」
「いやです」
「うっはーっ! まあそうでしょうねぇ!」
やたらテンションの高いシェリランは拒否されてもショックを受けているようには見えない。
「その高貴さもまたよろしくて……」
「別に高貴じゃなくて怖いから……」
「今、この私は、アイディアが、溢れております!」
「そうか……」
流石のジケもシェリランのテンションについていけない。
「こちらは置いていきます! 今すぐ帰ってこのアイディアをカタチにしなければ!」
シェリランはジケに、持ってきたドレスを押し付けるように渡すと家を飛び出していった。
「…………あれなんなの? ピコちゃんドン引きなんだけど……」
「あれはな、うちでお抱えのデザイナーだよ」
「あれが?」
「あれでもだ」
最近より振り切ったような雰囲気は否めない。
しかし相変わらずデザインの腕は超一流である。
シェリランが作った服は多くがフィオス商会に置いてある。
一部はリンディアに流してヘギウス商会で売っている。
シェリランデザインのトードスマイル印の服はすぐに売れてしまうほどの人気を誇っていた。
一度専門でお店でもどうかと提案したことがあるのだけど、フィオス商会に置くから自分の店舗はいらないと断られてしまった。
いつどのタイミングで服を置くのか分からないから常に注目している貴族もいるとか、いないとか。
本人が楽しそうならそれでいいとジケは思っている。
ただ好きに服を作り、可愛い女の子たちに試着してもらえることが幸せであるようだ。
なんだかんだでシェリランの服はものがいいので着させられる方もまんざらではない。
キーケックはなんで僕が!? となっているけれど、意外と似合っているのでジケも止めなかったりする。
「変な人も仲間なんだね」
「変な人だけど悪い人じゃないからな」
顔が凶悪なだけで、中身は乙女に近いぐらいだ。
見た目と時々起こるアイディア爆発ご乱心に慣れれば割と良い人だ。
「それにしてもピコちゃんを見て何を思いついたのだろうか?」
ピコが首を傾げると頭のミミも一緒に傾く。
でも確かにピコちゃんに目をつけるのは才能があると認めざるを得ない、とはピコも思う。
「なんだろうね? まあなんにしても服作るだけだから」
見た目上怪しいだけでやっていることは裁縫である。
凶悪スマイルのフリフリ服装で猛ダッシュ帰宅する不審者男にビクリとする人はいるかもしれないが、誰かに害を与えることはない。
「そのうち何か作って持ってくるよ」
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作者の一言
書きたかったんや
後書き
5/20に小説版の第三巻が発売となりました!
電子のみとはなりますがよければご購入ください!
マンガは6/14!
ちなみにマンガの発売日は私の誕生日だったりするのでよければ予約して購入していただけると嬉しいです!




