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花を連れ帰って3

「馬車は戻せなくてもう一台買うことになってしまいましたが、これで報われました」


 シェルハタは嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 まさかのリピーターであったとは思いもしなかった。


 馬車を分解してまで調べる人もどこかではいるだろうと思っていたが、こんな子がそんなことをしているのも意外だ。


「おっと?」


 馬車が急停止した。


「大丈夫?」


「ええ、大丈夫です」


 みんな少しバランスを崩しただけで、特に大事には至らなかった。

 けれどジケはとっさにシェルハタのことを支えようと動いていた。


「どうした?」


 ジケは御者台に声をかける。


「魔物が近くに。様子見で少し止まります」


 魔物の対処というのにも色々ある。

 戦う、逃げる、というのは分かりやすいが、戦うにも逃げるのにも細かく見れば種類がある。


 魔物に先に気づいたなら先手を取って攻撃することもできるだろう。

 だけど相手にも気づかれているなら先手を取ることは難しく、魔物の方から襲いかかってくる。


 ぼんやりとしていればただの戦いになるけれど、周りの状況をうまく利用すれば優位に魔物を迎えられるかもしれない。

 魔物に気づくにしても、気づかれるにしても距離が離れているなら逃げられることもある。


 そのまま馬車の速度を上げて走り抜ければ、戦いにならないことだって十分に考えられる。

 けれども走って刺激すると、魔物が追いかけてくる危険ももちろん考えられることだ。


 あるいは進行方向に魔物を見つけたなら駆け抜けることが難しい場合もある。

 馬車の御者をするというのはただ馬を走らせればいいだけじゃない。


 魔物と遭遇した時に正しい判断を求められる仕事でもあるのだ。


「魔物か」


 今手綱を握っているのはニノサンである。

 冷静で素早い判断を下すことができる人だ。


 馬車を止めて様子見するということは進行方向に、まだこちらに気づいていない魔物を見つけたのだろう。

 魔物が気づかず離れていくならその方がいい。


「申し訳ありません。気づかれたようです」


「しょうがないさ」


 横や後ろにいるならともかく、前方に魔物がいる場合戦いを避けられないことの方が多い。

 動かず魔物の通過を待っていたが、気づかれてしまったのである。


「リアーネ!」


「任せとけ!」


 今は馬代わりにリアーネの魔獣であるケフべラスが馬車を引いている。

 仮に手綱を放したところで勝手することはないが、戦える人がいるなら手綱は手放さない方がいいだろう。


 ジケは窓から外を覗いて魔物を確認した。

 馬ではなく魔物が馬車を引くことには思わぬ利点もある。

 

 ケフべラスは魔物としての格も意外と高い。

 イカつい見た目をしているのは伊達でなく、他の魔物が寄り付きにくくなる。


 馬車を引いているのが魔獣だから魔物が寄ってこないということもあるのだ。

 だがケフべラスが唸っているにも関わらず、魔物はジケたちに向かってきている。


「トリプルホーンカウか」


 頭に三本のツノが生えている大型の牛の魔物がいた。

 群れなのか四体ほどもいて、大丈夫かなと少し不安に思う。


 リアーネは大丈夫だろうけれど、このまま馬車に突撃してこないか怖いところがある。


「うーん、ニノサンも行ってくれ」


「了解しました」


 ケフべラスがいるのに突っ込んでくる魔物はケフべラスを気にしないぐらい強いか、ケフべラスを気にしないぐらい知能が低いかである。

 トリプルホーンカウは後者だ。


 普段はケフべラスに突っ込んでくるような魔物ではないが、何かの理由で気が立っていたのだろう。

 興奮したようで突っ込んできている。


「お、俺も行く!」


「ソコイ?」


「俺も戦えるから!」


 ソコイが馬車を飛び出していく。


「二人に任せときゃいいのに……」


「あの……」


「ん?」


 何かいたたまれない気持ちでもあったのかもしれない。

 リアーネとニノサンがいるならソコイも危ないことはないか、とジケはソコイの思うままに任せることにした。


「オラァー!」


 リアーネが大きな剣を振り下ろす。

 真正面から挑んでいくのはリアーネぐらいだろうとニノサンは思う。


 トリプルホーンカウは頭を下げてツノを剣に当てようとするけれど、リアーネはグッと力を込めて剣を動かしてツノを避けた。

 魔力の込められた剣はトリプルホーンカウの頭から胴体までをズバッと斬り裂く。


 流石のパワーである。

 しかしニノサンはそんなリスクのある戦い方はしない。


 最初はリアーネと同じく正面から突っ込んでいくようにも見えた。

 けれど地面を強く蹴って加速したニノサンは、光の軌跡を残しながら一瞬でトリプルホーンカウの側面に回り込んだ。


 ニノサンの速度についていけないトリプルホーンカウがニノサンの姿に気づいた時には、ニノサンはもう剣を剣を振り上げ終えていた。

 自分の頭が落ちたからニノサンを見上げることになったのだとトリプルホーンカウが気づくことはなかった。


「人の馬車に……突っ込むんじゃねぇ!」


 仲間がやられたというのに他のトリプルホーンカウは止まらない。

 馬車の方に向かおうとするトリプルホーンカウの突進をリアーネは剣で受け止める。

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