花を連れ帰って 2
「へっ、あんなんだから認めてもらえねぇんだろうな」
リアーネは呆れた顔をする。
良いところを見せたくてアニキを弟分にするようなことをするから、ガルガトも認めてくれないのだろうと首を振る。
「こういう時は等身大ってやつで当たるのがいいのにな」
「リアーネは少し飾ることも覚えた方がいいかもしれないがな」
「はん、言うじゃねえか」
「多少飾り立てて悪いことなんてないですからね」
「まあ……それはそうかもな。でもジケはありのままの私が良いって言ってくれるぜ」
飾り立てた君が良いなんて言う人はいないだろうと思いつつも、ニノサンは言葉を飲み込む。
確かにジケならそのままでいいと心から思っていいそうだ。
「本当に弟分がいるんですね」
シェルハタは純粋な目でソコイのことを見る。
ソコイはシェルハタがあまりに純粋に信じるので、困った目をジケに向ける。
けれどもジケは自業自得だぞと細い目をして見返す。
「あっ、こちらが噂のスライムさんですね。よろしくお願いします」
フィオスがシェルハタの前でぷよんぷよんと跳ねる。
まるで挨拶しているようだ。
シェルハタも笑顔を浮かべてお辞儀する。
「えっと……それでどうしようか?」
「今日はもう出るのに中途半端だから、明日の朝に出発にしようか」
まだ昼ではある。
しかしここまで来た道を逆算して考えると、今の時間から出発すると半端な感じになってしまうことになる。
それならしっかり準備を整えて朝から出た方がいい。
「リアーネと俺で必要なものを買いに行こう」
「おう」
「そういえばシェルハタの宿は?」
「あっと……」
「決まっておりません」
ジケの質問にソコイではなく、アルゼンが答えた。
「じゃあこのままここにいてもらおうか。リアーネの部屋、ベッド余ってるもんね」
「あるぞ」
「リアーネとシェルハタで寝てもらって、アルゼンさんは俺たちと」
女性であるリアーネのために一部屋取ってある。
二人部屋なのでベッドはたまたま余っている。
シェルハタにはそこで寝てもらうことにした、
「ほんじゃ、行動開始。行こう、リアーネ」
まだ昼だが、何かやっていればすぐに時間は過ぎてしまう。
明日の朝に間に合うように準備せねばならないのでジケはフィオスを抱えて、リアーネを連れて宿を出た。
「……アクティブな方ですね」
シェルハタは少し驚いてしまった。
多くの人がシェルハタの顔を見るとぼんやりと見つめてくる。
顔を赤くしたりモジモジしたり、あるいはちょっと気味の悪い視線を向けたりする。
だからシェルハタは人が苦手なのである。
ジケはちょっと驚いただけで、あとは普通に接してきた。
あまり会ったことのないタイプだなとシェルハタは思った。
人見知りの気があるので仲良くなれるかは分からないが、さすがはソコイの弟分だと感心している。
「ん、まあ、すごいやつだからね」
本当のことを打ち明ける機会を完全に失った。
ジケがソコイの弟分だとシェルハタは信じて疑わない。
「くぅ……」
「どうかなさいましたか?」
「な、何でもない」
ちょっとしたウソのせいでシェルハタを騙してしまっているという胸の痛みはありつつも、正直に話す勇気もないソコイなのであった。
ーーーーー
「この馬車を作っているのがジケさんのところなんですね!」
次の日、準備を整えたジケたちはブルクスタを出発した。
ブルクスタの滞在は短いものだったが、観光に来たわけでもないので仕方ない。
シェルハタは揺れない馬車がフィオス商会、つまりはジケが作ったものだと聞いて少し興奮したような顔をしている。
「どうなっているのか知りたくて馬車を一台分解して父に呆れられました」
にこやかな顔をしながらもシェルハタはとんでもないことを言った。
「ところどころに組み込まれている中身の白いものが衝撃を吸収してくれているというところは分かるのですが、あの白いものが何なのか分からないのです」
急にシェルハタが饒舌になった。
相変わらずジケとは目を合わせてくれないが、話さないほどに警戒はしていないようだ。
自力で馬車を分解し、クモノイタに辿り着くなんてなかなかやるものだと感心してしまう。
馬車も決して安いものではないのに、分解されて呆れるだけというガルガトにも驚きだ。
深窓の令嬢という言葉が似合いそうなシェルハタだが、意外な一面も持ち合わせているようだった。
「父やソコイなら知っていそうですが……教えてくれないのです」
完全に秘匿しているものではないし、情報ギルドなら知っているだろう。
しかし秘匿もしていないが、公表もしていないことなので身内であるシェルハタにも情報は教えていなかった。
「あれは何で出来ているのですか?」
ここで初めてシェルハタと目があった。
ただすぐに逸らされてしまう。
「……そんなに知りたい?」
「……はい」
「アニキの知り合いならしょうがないなぁ」
「ジ、ジケ……」
「本当ですか!」
「向こうに着いたら見学させてあげるよ。ただし他には言わないでね」
「もちろんです!」
揺れない馬車に興味を持つ前も揺れない仕組みに興味を持って分解までする人は珍しい。
クモノイタについて漏らして回るような人にも見えないし、それで距離が近づくなら見学させてもいいだろう。
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