花を預かって2
「それでお願いってなんだ?」
ソコイがいいならとジケとソコイは対面するように座った。
フィオスを抱えたピコはジケの隣に座って静かに話を聞く。
「少し助けてほしいんだ」
「何があったんだ?」
ソコイ自体が何かに追われているような雰囲気でもないが、多少焦りのようなものを抱えている感じはある。
「花を助けたい」
「お花?」
花と聞いてピコは首を傾げる。
「花……あの花じゃなさそうだな」
そこらにも生えている植物の花でないことはジケには分かっていた。
ソコイが言う花とは隠語である。
ガルガトの情報ギルドにおいて、花という言葉は女性ターゲットを指し示す。
本当に植物の花の可能性もあるけれど、ソコイの反応を見る限り誰か女性を指し示しているようだ。
「やっぱりお前には通じるんだな。師匠の言ってた通りだ」
以前ガルガトに花が狙われていると警告したことがある。
そのおかげでガルガトはジケのことを小さな友人と言ってくれている。
「んで、誰が狙われてて、どう助ければいい?」
「それは……引き受けてくれるなら教えるよ」
「相手が誰かも分からないのにまず引き受けろと?」
ジケは少し驚いた。
そんな交渉をするとは思いもしなかった。
ソコイも真剣な目をしている。
だが何をさせられるのかも分からないのにあっさりと引き受けることもできない。
「悪いけど、大切なことなんだ」
「…………分かった」
「えっ? いいの?」
「なんだよ? 引き受けてほしくないのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
もしかしたら断れることもあるかもしれない。
ソコイはそんな風に思っていた。
しかしジケは少し悩むような素振りを見せた後、フッと笑って引き受けることにした。
普通ならあっさりとは引き受けない。
だけど友達の頼みなら別である。
細かな内容が言えないということは、きっとそれだけ重要なお願いなのだと分かる。
花という情報ギルドの隠語で女性のことを指し示した。
加えてガルガトも関わっていそうな発言があった。
十中八九情報ギルド絡みで、ガルガトも関わっている案件なのだろう。
基本的に情報ギルドの仕事を関係のない他人に任せることなどしない。
よほどのことが起きているのだなとジケは考えた。
ガルガトにはお世話になっているし、恩を売っておくのも悪くはない。
「俺は何したらいい?」
「……あんがと、ジケ」
すぐに話を飲み込んでくれて、その上で判断が早い。
「礼はお願いとやらが終わってからでいいさ」
「ジケ君かっくいー!」
「茶化すなよ!」
「本当だって!」
ピコがジケに黄色い声援を送る。
友達のお願いを何も聞かずに受ける判断力も、礼は後でいいとサラリと言ってしまうところもステキだなとピコは本気で思ってる。
「それでジケにやってもらいたいのは、人を匿ってほしいんだ」
「人を?」
ちょっと想定していないお願いだった。
「ウチでちょっとした問題があってさ。今は誰が信頼できるのか分からないんだ」
ウチというのは情報ギルドのことである。
その内部でゴタゴタとした問題が起きている。
なんとなくだけど、花の正体が分かってきた気がした。
「問題が片付くまで花を預かって、守ってほしい」
「俺んとこで大丈夫か、それ?」
自慢じゃないがジケは貧民である。
ジケ周りはもはや貧民とは呼べないぐらいの生活水準を誇っているが、貧民街ど真ん中なので人を預かる環境としてはあまり良いともいえないのは事実である。
預かられる側としても貧民や貧民街を気にしない人なのか、ということは気になる。
貧民や貧民街というだけで嫌っている人も一定数いる。
むしろ全く気にしないという人の方が少ないかもしれない。
「あの子はそんなの気にしないよ」
「あの子?」
ソコイの言い方になんだか引っ掛かりを覚えた。
対象となっている人のことをソコイもよく知っているようだ。
「あっ……まあ、俺もちょっと顔合わせたことがある……」
なぜかソコイはほんのりと頬を赤くする。
「ほほーん……」
「な、なんだよその顔!」
「その子、可愛いのか?」
「うぇっ!? あ、か、可愛い……けど」
ガルガトの弟子になってだいぶ落ち着いて大人っぽくなったソコイだけど、まだまだ子供である。
ジケが揺さぶってやるとあっという間に顔が真っ赤になった。
「お前の大切な人なら守ってやらないとな」
「そ、そんなんじゃ! ……ない、し……」
「顔真っ赤じゃ説得力ないねー」
「ふっ、まあどんな子か楽しみになったな」
「へ、変なこと吹き込むなよ!」
単純に情報ギルドの要人というだけじゃない。
ソコイが思いを持った人ならば余計に守らねばならないという話である。
「どうするのか、細かい話するぞ」
「……ああ、頼むよ、ジケ」
ソコイはまだ少し顔を赤くしながらも信頼を込めた目で頷いた。




