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私も連れてって

 呪いによる町全体を巻き込んだ争いはなんとか止められた。

 多くの人が怪我を負った。


 だが不思議なことに死んだ人は怪我人の数からすると極端に少ない。

 獣人たちは多くが素手で戦い、相手が気を失った時点で別の相手と争った。


 結果的にボコボコになっても、死ぬまでのダメージを負った人の方が少なくなっていたのである。

 そしてなぜなのか獣人たちはスッキリとしていた。


 体中が痛いのに気分は軽く、晴れやかさすら感じている人が多くいた。

 不満を原動力にして殴り合いをしたので発散されたのかもしれない。


 一方で争い以外で発生したザッシュ族や、オオグマを始めとしたヒコクグマ族などの被害者も少なくはない。

 これから獣人たちが立て直していくことも大変だろう。


 ハビシンはひとまず無事だった。

 体質として呪いがかかりやすいのか、あるいは一度呪われたら呪いがかかりやすくなるのか知らないけれど、もう呪いなんてこりごりだと言っていた。


「ねえ、あれいいの?」


「いいんだよ」


 ハビシンを救い、起こる戦争を回避する。

 ジケの目的は達成されたので帰ることにした。


 赤尾祭も中止となってしまったので止まる理由もなく、リアーネは不満そうだけどしょうがない。

 持ってきていたもので余分な食料なんかは獣人に寄付した。


 重篤そうな人はエニが治療したし、獣人の高い体力があれば後は問題ないだろう。

 だいぶ荷物は軽くなってフィオスソリのスペースも少し広めになった。


 そんな荷物の中に布の塊が一つ。

 端っこからモフモフの尻尾が出ている。


「ふふふ……ピコちゃん式隠密術……」


 それは布をかぶって荷物に紛れ込んでいるつもりのピコだった。

 バレていないと思っているのはピコだけだ。


 帰るジケたちにこっそりついてこようとしているのである。

 本来なら止めるべきだろうが、ジケが何も言わないので誰も何も言わない。


 実はピコの同行は親であるオツネ公認であった。

 ピコがついてこようとしていることはオツネから聞いた。


 どんな思いがあるのかは知らないが、ジケのところにお世話になるつもりらしい。

 ピコのことは嫌いではなく、むしろ好きなぐらいである。


 だけど人間の町は獣人に対して厳しい。

 ピコにとっても過酷な環境であるかもしれないと思っていたのだけど、ジケが何かを言う前に娘を頼むと号泣されながらお願いされたら断れなかった。


 そしてピコがとった行動もジケにとっては予想外だった。

 てっきり連れてってと頼まれると思っていたのだが、こっそりフィオスソリに乗り込んできたのだ。


 断れないところまで来たら出てきてついてくるつもりなのだろう。


「いつまで隠れてるのか見ものだな」


 フリフリと振られている尻尾も可愛いのでひとまず様子見しておく。


「しかし本当に大丈夫なのか?」


 帰るメンバーに増えているのはピコだけではない。

 ナルジオンも一緒に来ていた。


 これはジケのお願いを聞いたためであるのだが、ナルジオンはやや不安そうな顔をしている。


「分かりません」


「……正直だな」


 これからジケは本来の計画にないことをしようとしている。

 戦争を止めるところまでは上手くいくだろうと思っていたが、これからやろうとしていることは上手くいくかジケにも分からない。


 上手くいけば将来における問題も解決できることとなる。

 だけどどう転ぶのかはやってみて、である。


「まあでも上手くいきそうな気はしていますよ」


「俺には分からん。だがジケ殿を信じてみるとしよう。失敗してもこれまでと変わらないだけだからな」


 ーーーーー


 グー。


「いい加減出てこいよ」


「………………いつから気づいてた?」


「さっき」


「……嘘つき」


 ピコのお腹が盛大に鳴った。

 フィオスソリは快適なので隠れることに問題はない。


 しかし生きていればお腹も空く。

 フリフリと振られていた尻尾もお腹が空いて元気が無くなっている。


 流石に可哀想なのでジケが声をかける。

 気づいたばかりだと気を使ってあげるけど、流石のピコも周りの雰囲気は感じ取っていた。


「ここまできて帰すようなことはしないから出てこいよ」


 なんだか尻尾と話しているような気分になる。


「外は寒い。飯もすぐ冷たくなっちゃうぞ」


「うぅ……背に腹はかえられぬ……それどころか背中にお腹くっついちゃいそう!」


 結構大食いのピコは空腹に耐えられずパッと飛び出してきた。


「ほらよ」


「ありがと!」


 ジケが手に持っていたお肉の串焼きを差し出すとピコはサッと受け取って食べ始める。


「美味しいか?」


「うん! 美味しい!」


 ニコニコとして美味しそうに食べるのでピコの食べっぷりは見ていて気持ちのいいものがある。


「それで、なんで隠れてたんだ?」


「ギクゥ!」


 オツネから話は聞いているので全部わかっている。

 しかしジケから切り出すのではなくピコから聞く必要がある。


「…………ジケ君」


「なんだ?」


 ジケは待つ。

 ピコが勇気を出す時まで。


「私も連れてって。人間のところが大変なことは分かってる。ピコちゃん強くないから強くならなきゃ思ってたけど……ジケ君たちはピコちゃんが強くなくてもいいって言ってくれた」


 ピコはもじもじとしながらも必死に言葉をつむぐ。


「ピコちゃんにはピコちゃんの出来ることがある。大変かもしれないけど……ピコちゃんにも出来ること見つけたい! それと……まだみんなといたいかなって」


 ピコの顔が赤くなる。

 普段冗談っぽく話すことも多いが、今ばかりは真剣なことが伝わってくる。


「だからお願いします!」


 ピコは頭を下げる。

 ジケにピコを連れていく理由はない。


 どの道連れて行ってもらうならジケにお世話になるしかない。

 ジケの気一つで全てが決まる。


「いいぞ」


「へっ? いいの?」


「ああ、言っただろ? ここまで来て帰すつもりはないってな」


 ダメなら最初から連れてきたりはしない。

 オツネに頼まれたということもあるけれど、親のところを離れて人間の世界に飛び込むのは容易なことではない。


 楽観的なところもあるのかもしれないが、ピコは決してバカじゃなくて葛藤はあったはずだ。

 それでも来たいというのだ。


 ならば受け入れよう。


「ただちゃんと俺の商会で働いてもらうからな?」


「……うん!」


 ピコの頭の良さと人当たりの良さは商人向けだとジケは思う。

 これからのことを考えると獣人の商人がいてもいいかもしれない。


 ピコはジケの言葉にパッと笑顔を浮かべる。


「えいっ! ……ありがと!」


 ピコはクルリと回転すると尻尾をジケの頬にふわりと当てた。


「ピコちゃんの尻尾、みんなにウケが良かったんだよ」


「これがお礼か?」


「うん。でもこれからピコちゃんもっとお礼するね!」


 こうしてジケは新たな仲間としてピコを迎え入れることにしたのであった。

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― 新着の感想 ―
良きです。 商会担当の拡充も大事ですよね。
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