呪いを解け!5
「来るぞ!」
言葉にならない叫び声をあげて獣人たちが襲いかかってくる。
「ひょええ! これじゃさっきのと変わらないよぅ!」
もはやアンデッドのようであるとピコの尻尾がボワボワと大きくなる。
「殺さないようにしよう!」
「チッ……しょうがないか!」
今襲いかかってきている獣人たちは、広場で戦った獣人たちと違ってまだ生きている。
アンデッドのようではあるものの、死んで操られているわけではなくて呪いの影響で暴れているに過ぎない。
たとえ厳しい戦いになろうとも斬り倒すわけにいかないのである。
「フィオスソード! ただし切れないバージョン!」
ジケはレーヴィンを鞘に収めてフィオスを剣にする。
レーヴィンでは切れ味が良すぎて、手加減に失敗すると命に関わる可能性が大きい。
フィオスにはあえて鈍い切れ味になってもらって、多少攻撃しても殺さないようにする。
「気でも失ってろ!」
リアーネが獣人の頭を鞘付きの剣で殴り飛ばす。
「本当にアンデッドみたいですね!」
ユディットも鞘をつけたままの剣で応戦している。
けれども獣人は多少の攻撃程度では怯むこともない。
しっかりとダメージを与えないとそのまま反撃してくるので、アンデッドと戦う気分でユディットも戦う。
頭を殴って気絶させるのも大変なので、骨ぐらいは覚悟してもらう。
「なんか狙われないね」
「そうだね」
獣人はジケたちに襲いかかっているが、意外とエニとピコに獣人たちが向かうことはない。
来たら戦うつもりもピコにはあったのだけど、来ないので気配を消してひっそりとしている。
「ピコちゃんが可愛いからかな……」
「……どうだろうね」
怖がってる割にはピコにもまだ余裕がありそうだなとエニは思った。
実際、闘争心や嫉妬心を呪いが刺激して暴れているために、女の子で子供、攻撃してこないのなら獣人たちもエニやピコを敵と見なさないのであった。
「駆け抜けるぞ!」
戦いが戦いを呼ぶ。
戦っていると獣人たちが集まってきて、また獣人で争い始める。
上手く立ち回ると襲いかかってくる獣人を他の獣人に押し付けることもできた。
武器を使う獣人もいるが、結構殴り合いで勝負する獣人も多い。
獣人同士で戦わせれば血みどろの殴り合いになっても、丈夫な獣人なら死にはしないだろう。
かかってくる全ての獣人を倒してなどいられない。
ジケたちは隙をついて獣人たちの間を駆け抜けていく。
「オラッ!」
飛びかかってくる獣人をリアーネが走りながら剣で殴り飛ばす。
「魔道具もどこにあるんだか……」
「あそこ! なんか怪しくない?」
そもそも魔道具もどのように設置されているのか不明である。
広場のステージにあった魔道具はステージの下に隠されていた。
他の魔道具も堂々と置いてあるように思えなかった。
とりあえず南側に走ってきて、獣人たちがより荒れている方に向かっている。
けれど魔道具を見つける方法を聞いていなかった。
そんな時にユダリカが戦っている獣人たちの方を指差した。
「あいつらは……」
見覚えのある奴らが戦っている。
セキロウ族のアコアン、ソウコ族のトラノス、コウユウ族のマクベアの三人だった。
「あんまり近づきたくないな」
因縁があるとまでは言わないが、絶対に良い印象は持たれていない。
理性を失っている今、三人に見つかれば襲いかかってくるだろう事は間違いないだろう。
「でもさ、あそこおかしいと思わないか?」
「なんでだ?」
「地面見てみてよ」
「地面?」
知った顔が戦っているからと指差したわけじゃない。
ユダリカが注目していたのは戦っている三人ではなく、戦っている三人の下であった。
「あそこだけ……変に雪がない」
「本当だ……」
「何だか奇妙だな」
ユダリカに言われてジケも気がついた。
戦っている三人の下は雪がなかった。
丸く雪が溶けて地面が露出しているのだ。
雪が溶けて地面が見えるぐらいならおかしくもないが、綺麗に丸く雪が溶けてなくなっているのは不自然である。
まるで真ん中に何かがあるみたいだ。
「……ただ調べるにはあいつら邪魔だな」
何かがありそうだが、雪が溶けたところで三人は戦っているのでとても邪魔である。
調べるためには三人をどかさなきゃいけなさそうだ。
「……青いのは私にお任せください」
「じゃあ俺はデカいのな」
それぞれ抱えた思いがある。
ユディットはソウコ族のトラノスを、ユダリカはコウユウ族のマクベアを選ぶ。
ユディットはトラノスと二回戦っている。
最終的にユディットは勝ったものの、ユディットも痛手を負って赤尾祭の欠場を余儀なくされた。
ユダリカは予選会でマクベアと戦って敗北した。
ただ普通に戦って負けたとは納得していない。
やはり何人もが同時に戦う予選会において、人間であるユダリカが狙われてしまったという事はあった。
狙われて消耗していたり、状況的にユダリカが不利だったことは否めない。
二人とも今度こそジケに良い勝利の姿を見せるのだとやる気を見せる。
「んじゃあ、赤いのは私が相手するからジケは呪い探してくれよ」
順当ならセキロウ族のアコアンの相手はジケだろうが、呪いの魔道具を探す人が必要である。
怪しい地面を掘り返すだけならリアーネでも良いけれど、呪いに関しては無知なのでジケに任せることにした。




