呪いを解け!4
「より強い人がいるところが難しいでしょう。呪いの反応具合からすると北側ですね」
「ならば俺が北に行く。ハルフ、お前は彼らといなさい」
「でも……」
「俺なら大丈夫だ」
ナルジオンはチラリとピコを見る。
ピコは自分の尻尾を抱きしめるように抱えている。
怯えていることは分かっている。
怯えた子がそれでもついていくのがジケたちであった。
一番危険なところに向かうナルジオンについてくるのは危険である。
獣人の少女が信用してついていくジケたちと一緒ならば、人数もいるし危険は少ないだろうと考えた。
「さっさと終わらせて別のところにも向かうつもりだ」
「気をつけてね」
ハルフがナルジオンの頬にキスをする。
ナルジオンはハルフの頬を軽く撫でると北に向かって出発した。
「ならば俺は次に厳しいところに向かおう。どこだ?」
「……東でしょうか」
「東に行く」
グルゼイは東に向かって走り出す。
「他のハクロウ族はどうしたんだろ?」
「分からないですが……襲われているのかもしれませんね」
「というか何でナルジオンさんは呪いの影響を受けずに無事だったんだろうね?」
「呪いが効かない人もいます。例えば闘争心のない人とか」
「ピコちゃん、平和主義だから……」
プクサに見られてピコはサッとジケの後ろに隠れる。
ガッツリ呪いを受けたはずなのにピコは何ともない。
凶暴になったりすることがないのはピコがピコだからである。
予選会でサラッと死んだフリで乗り切るほどのピコは強さに嫉妬することもない。
だから呪いの影響を受けていないのである。
「獣人に強く効き目があるように調整した結果、人間には影響ないですしね」
「……よくよく考えれば俺たちも危なかったのか」
影響を受けておらず意識していなかったが、ジケたちも呪いの影響を受けていてもおかしくなかった。
だがジケたちに呪いの影響はない。
それは呪いが完全に獣人に向けられたものだったからだ。
町に人間がいるなんてこと想定していないので、獣人にのみ効き目があるような呪いになっている。
「あの人は雪山にいましたからね。呪いが発動した時に範囲外だったのでしょう」
呪いが発動した時、ナルジオンたちは雪山でザッシュ族の獣人アンデッドと戦っていた。
呪いは町全体に広がったけれど、雪山までは届かなかった。
そのためにナルジオンは何の影響も受けていないのだ。
「他のハクロウの助けは期待できなそうか……」
ナルジオンが来てくれたならあるいは、と思ったのだけどいまだに到着しないところを見るに来てくれることを期待しない方がいい。
「南と西、どっちが弱そうだ?」
「南ですかね?」
「じゃあみんなで南から処理するぞ」
ナルジオンとグルゼイはともかく、町中の状況も分からないのに分散して動くのはリスクが大きい。
一カ所ずつ確実に潰していこうとジケは考えた。
「私はこのまま逃げますので。生きていたらご連絡します」
「本当に?」
「このプクサ、嘘をつくなと言われてはいませんが、嘘をつけとも言われておりません。なので嘘はつきません」
「……まあ、信じるよ」
この不思議なリッチがくだらない嘘で逃げるとは思えなかった。
どうやってジケに連絡を取るのか知らないけれど、きっとどうにかするのだろうなと思えた。
「南は……」
「あちらです」
「ん、ありがと」
ジケたちはプクサが指差した方に向かう。
「不思議な人」
プクサは遠ざかるジケの背中を見つめていた。
ジケにとってプクサは恩人かもしれない。
しかしプクサはリッチであり、今この状況で話を聞くなんてまずあり得ないことである。
だけどジケはプクサの頼みを聞き入れてくれた。
「だから彼もジケさんを頼ったのかもしれませんね」
どうしてジケにお願いしてみようと思ったのかはプクサにも分からない。
ジケからは何か、何ものにも囚われない自由なものを感じるのだ。
リッチという最も死から遠ざかって、最も死に囚われた存在には眩しさを感じるほどの何かがあるのだ。
だから頼りたくなるのかもしれない。
「あなたが引き合わせてくれたのかもしれませんね、ウダラック」
プクサはステージからずっと浮き上がった。
「私は一足先に失礼します。あなたの道に幸運があらんことを」
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「それ歩きにくくないの?」
「歩きにくい……でもちょっと落ち着くの」
お尻に生えている尻尾を股下を通して前に持ってきて抱えている。
結果としてピコはちょっとガニ股になっている。
当然のことながら尻尾を抱えては移動もしにくかった。
でもモフモフの尻尾を抱えているのは落ち着く。
周りが戦いに飢えたようなピリついた空気の中ではやっぱり不安も大きかった。
「俺たちが守ってやるから心配するな」
「……うん」
「私も守ってね?」
「もちろんだ」
「ただ……」
「ただ?」
ジケは立ち止まる。
「結構大変かもしれないな」
広場近くには人がいなかったのに離れていくと再び騒々しさが戻ってきた。
まるでアンデッドのようにフラフラと横道から数人の獣人たちが出てくる。
目は血走っていて、大きなアザがあったり服に血がついていたりしている。




