最低な人たち
「どうなっている!」
「分かりません。あの症状は呪いだが……なぜマクミズネが呪いにかかるのか。俺は医者ですから呪いのことは分からない」
キリのいいところで赤尾祭は終わり、慌てたようにオオグマとフェデミーは赤尾祭の会場を後にした。
オオグマの部族の者を引き連れて向かった先は、ハビシンが軟禁されている家である。
「使えない……」
「なんだと?」
「そのご大層な頭は呪いも知らないのかと言っているのだ」
「お前こそ頭に筋肉でも詰まっているのだろう? そんなに言うのならお前は呪いについて何か口にできるのか?」
家の前でオオグマとフェデミーが睨み合う。
一緒に行動しているものの、オオグマとフェデミーは仲が良くない。
少し休めば怪我なんかも治るオオグマにとって医者など無用の長物である。
そのくせ、医者だからと戦いを学びもせずに周りからもてはやされていることが気に入らない。
対してフェデミーとしてはたとえ獣人であっても、医者は必要だと考えている。
むしろ怪我の多い獣人こそ医者がいるべきなのだ。
なのにそんな医者を軽んずるオオグマのことが嫌いであった。
「殺すぞ……」
「やってみろ。だが俺を殺した後どうなるのか、空っぽの頭で考えてろよ!」
オオグマの殺気にもフェデミーは引くことがない。
獣人の中で唯一の医者を殺せば大騒ぎになること間違い無い。
こんなところで騒ぎを起こしてはマズイことぐらいオオグマも分かっている。
オオグマの部族の人たちは巻き込まれないようにやや遠巻きに様子を見ていた。
「さっさと確認するぞ!」
歯を食いしばって怒りに耐え、オオグマは家の中に入っていく。
ドカドカとノックもなしにハビシンが寝ている部屋に来て、寝ているハビシンの顔を覗き込む。
「どうだ?」
「……顔色がいいな」
少し遅れて部屋に入ってきたフェデミーがハビシンの様子を見て眉をひそめる。
患者が元気そうで険しい表情を浮かべるなんて、医者として言語道断な行いである。
寝ているハビシンは顔色が良かった。
呪いのせいで苦しそうにしているはずなのに血色が良くて、呼吸もゆっくりと落ち着いている。
「おかしい……」
「何が起きている?」
「知りませんよ……マクミズネが倒れても呪いは解けない。それに他にも呪いがあるはず……何か問題でも起きてるのかもしれない」
「誰かモノを見つけたのか?」
「分かりません……確認する必要があるかもしれませんね」
「チッ……」
オオグマは盛大に舌打ちする。
「お前は外を見に行け。俺は広場の方を見に行く」
「なんで俺が……」
「俺があそこをうろついていても怪しまれないが、お前が怪しいだろう」
「う……確かにそうかもしれないな」
「早く確認するぞ。ナルジオンに気づかれる前にな」
慌ただしく家に入ってきたオオグマたちは慌ただしく家を出ていく。
「ふぅーん……」
だからだろうか。
自分たちの話を聞いている人たちがいることにも気づいていなかった。
パッと目を開けて体を起こしたハビシンは開けっぱなしになったドアの方を睨む。
ハビシンが顔をこすると手に粉がつく。
呪いは解けたばかりである。
流石の獣人でもすぐに体調回復とはいかない。
だからジケはハビシンに化粧を施した。
化粧というよりは顔色が良く見えるように偽装したのである。
ついでにベッド下には場所にかけられる呪いを防ぐ魔道具も置いといた。
ジイっとしてれば守るんですという奇妙な名前のお爺さんのような置物は、人知れずベッド下で呪いを防いでくれていた。
学習したジケが魔道具の名前を口にしなかったのは言うまでもない。
なぜあんな名前と見た目にしたのか謎だけど、多分自分で大笑いしながら作ったんだろうなとジケは思う。
呪いに関する魔道具だからこそ、何かのシャレを効かせたのかもしれない。
「おじさん、聞いてた?」
「ああ、聞いてたよ」
ハビシンがどこへでもなく声をかけると天井から人が降りてきた。
「あいつらが俺の姪っ子を苦しめた犯人のようだな」
ハビシンと同じく白い毛色で尖ったミミを持つ獣人は怒ったように目を細めた。
「代償は払わせる。お前はここで休んでなさい」
「……お願いね」
ハビシンはほんの少し不満そうにしたけれど、体も全快していない。
流石に今の状態では邪魔になってしまう。
「任せておきなさい。また元気になったらトシェパと遊んでやってくれよ」
ニコリと笑うとハビシンの叔父、トシェパの父親である獣人は部屋を出ていった。
「ほんと、あいつら最低」




