呪い、カエル1
「さてと……問題は脱出だけど……」
罠は張った。
あとは待つだけだ。
しかしジケたちがこのままハビシンのところにいるのはまずい。
ということで家を出ようということになったのだけど、大きな問題があった。
脱出のこと何も考えていなかったのである。
「前はバレて怒られたからね」
「エニ」
「任せて」
「なにするのー!」
前回のトシェパはどうしたか。
忍び込むことは上手くやったのだけど、出ようとした時にバレて怒られたのである。
つまり入る方法は知っていても、上手く脱出する方法は知らないのだ。
今になってそれが発覚した。
ジケの代わりに怖い目をしたエニがトシェパの頬を引っ張る。
モチモチとしたトシェパの頬はよく伸びる。
トシェパは手をバタバタとさせているが、エニはビヨンビヨンとトシェパの頬をつねって伸ばして罰を与えた。
「さて……バレないように出るにはどうしたらいいかな?」
相手にジケたちの存在がバレてしまうと少し面倒なことになる。
全部が水の泡になるとは思わないけれど、張った罠がジケたちの発覚と共に芋づる式にバレる可能性がある。
「ふん、こっちだ」
「師匠?」
どうしようかと頭を悩ませていると、グルゼイが動き出した。
二階のハビシンの部屋の前から移動して階段を降りていく。
何をするつもりなのか分からないけどジケたちもついていく。
グルゼイが向かったのは家の裏口だった。
「師匠、そこにも人が……」
裏口にも見張りがいる。
表と違って一人しかいないけれども、それでも見張りはいるのだ。
「分かっている」
裏口のドアの前でグルゼイは立ち止まる。
何しているのかと思ったらグルゼイは普通にドアを開いた。
「むっ! 何者!」
「スティーカー」
ドアが開いたのだから見張りの獣人も反応して振り向く。
グルゼイは慌てることもなく腕を伸ばすと、袖口からグルゼイの魔獣である蛇のスティーカーが飛び出してきた。
「くっ! なん……だ…………」
スティーカーは見張りの獣人の首に牙を突き立てた。
とたんに見張りの獣人は目がトロンとして地面に倒れてしまう。
「南部の地域に生えているキノコの毒を再現したものだ。即効性の毒で、瞬く間に意識を混濁させる。ついでに毒受ける前の記憶も混濁して分からなくなる」
スティーカーがグルゼイの足から登っていって、再び袖の中に入っていく。
見られてバレるからダメなのだ。
見られてもバレなければ問題ないとグルゼイは考えた。
出て速攻気絶させてもよかったけれど、殴打跡などはバレやすいのでスティーカーの毒を使ったのだ。
「三回接種すれば死に至るがここで一回受けたところであと二回受けることはないだろう」
なかなかエグい毒を使うなとジケも思うが、もうやってしまったことに文句をつけてもしょうがない。
結果的に脱出できたと思うことにした。
グルゼイがドアの前で立ち止まっていたのは、見回りの獣人が離れるタイミングを待っていたのである。
魔力感知を駆使すればドアの向こうの見回りの獣人の動きも把握できる。
「早く行くぞ」
「あっ、はい」
「あの人、怖いね……」
「怖いけど悪い人じゃないんだよ」
「悪い人……」
トシェパは床に転がされたままの獣人をチラリと見る。
しょうがないのかもしれないけど、毒を注入されて寒空の下で放置される獣人はちょっとかわいそうだなと思った。
「皆様ご無事ですね」
「キノレさん」
家を出てバレないように離れてキノレと合流する。
「二人は?」
「計画通りに動いておりますよ」
ーーーーー
「ピコちゃん式追跡術を見せる時が来た……!」
ジケたちが家を抜け出した一方で、ピコとハルフは別の場所にいた。
二人が今やっていることは追跡である。
何を追跡しているのかというと、呪いカエルさんであった。
呪いを解くのに呪いカエルさんは使うだろうとジケは思っていた。
だから事前にこうしたことがあるとジケはピコたちにも軽く説明していた。
窓から変なもの出てきたら追いかけてほしいとお願いしていたのだ。
二階の窓から飛び出してきた呪いカエルさんは明らかに変なものである。
ジケたちのことはキノレに任せて、ピコとハルフで呪いカエルさんを追いかけていた。
一応見失わない程度の距離をとって慎重に追跡している。
「向かってるのは……広場の方?」
ぴょんぴょんと跳ねる呪いカエルさんは決して速くない。
ゆっくりと移動する呪いカエルさんの行き先をピコはその明晰な頭脳で予想する。
「このまま行くとそうなるわね」
呪いカエルさんはどうやら赤尾祭の会場である広場の方に向かっているようだった。
そもそも呪いカエルさんがなんなのか分かっていない二人は、不思議そうに移動する呪いカエルさんを見ていた。
呪いカエルさんはそのまま跳ねていき、広場に入っていく。
ステージ上では女性部門の本戦が行われていて、女性同士の激しい戦いが繰り広げられている。
みんなは戦いに夢中で、足元を跳ねる呪いカエルさんには誰も気づかない。
「はいはい、ごめんねー」
ピコとハルフは人をかき分けながら呪いカエルさんをさらに追いかけていく。




